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高校3年 秋③筋肉ダルマには伝わらない

卒業に向けた準備が徐々に進行する中、文集製作の話が学校で持ち上がった。

全校の各クラスや部活のことなどをまとめた、小冊子である。

うちの学校はこの製作にはけっこう力を入れていて、毎年各クラス毎に特徴と読み応えのあるページが作られていた。

そして僕らのクラスにおける、文集編集委員は我らが演劇部のおっしー。

彼は体格はいいが、滑舌の悪さと人見知りの激しさからトップクラスに浮いていて

彼と会話が必要になったクラスメイトはなぜか僕を経由して会話するというのがスタンダードになっていた。

昔流行ったMALICE MIZERのmana様みたい。(わっかるかな〜。わっかんねぇだろうな〜)

なんにせよ、なんでやねん。


さて、そんな彼が編集委員ともなると、いろいろ大変だ。

なんせコミュニケーションが苦手。そして滑舌が絶望的。

にも関わらず、自分の意にそぐわない出来事があると、突然がなりだす。

クラスからはいろいろやっかいな人だと思われていた。

学校の文集を作るのに、各クラスからいろんなコンテンツを集めなくてはならないのだが

もともとクラスメイトと交流をとろうとしていなかった彼は

"なにかを頼む相手"というものがいなかった。

そして、そんな彼の様子を見て担任の筋肉ダルマが口を開いた。

「おーい誰か!文集手伝ってやってもいいやついないか?ほれ、みっちーなんか同じ部活だから仲いいだろ!なんかやってくれよ」

うちのクラスの男子たちは春の定期公演を観に来て僕が文章を書くことを知っていたので、それにのっかって

「脚本家のみっちーにクラス紹介の文章書いてもらいましょうよー」

と騒ぎ立てる。

過去のを読んでて思ってたのだが、うちの学校の文集の、特に3年生のはやけに毎年レベルが高い。

期待感がハンパない。

でも、やってみたい気もする。

やったろうやないかい。

そして、クラスの紹介文は僕が。

挿絵はみんなの悪ノリでおっしーが描くことになった笑

なんでやねん笑


スタンダードなら単純に

"うちのクラスは◯◯で、、、"

みたいな文章になるが、そんな普通なのはイヤだ。

どうしようかなと考えた結果、僕はクラスメイト全員の名前を使って文章を描くことにした。

イメージとしては、主人公の筋肉ダルマが冒険していく話。

そしてこの冒険に出てくる地名やモノなどはすべてクラスメイトの名前からの引用で文章を構築していく。

例えば「小川」さんと「かな」さんというクラスメイトがいたら

その"小川"に落ちた筋肉ダルマはしみ("かな"しみ)の表情を浮かべた

みたいな感じ。

一見ちょっと無理のある文章。でも、違和感があるからこそ、気付く人は気付く。

そして、クラスの人や僕らのことを知っている人ならニヤニヤしながら誰がどこに使われてるのか探しながら読めるものにした。

どうせ知ってる人しか読まないんだ。内輪で楽しいモノにしてやろうじゃないのさ。


提出の前に仲の良いクラスメイト数人に見せる。

めちゃくちゃ好評だった!

よっしゃ。

僕は自信満々で、担任の筋肉ダルマに提出した。

それを読んだ筋肉ダルマは

内容が理解できず真顔で「これは、、、なんだ?」と呟いた。

「…なんで、俺が冒険してるんだ?川に落ちてるのもなんで?」

彼は異世界の存在を初めてみた人類のような表情で文章を読みながらブツブツ呟いていた。

つまり、アレだな。

この文章の意図に気付いていないんだな。

そこで僕は懇切丁寧にこの文章の意図と、誰がどこでどう使われているのかを説明した。

原稿用紙1枚ほどの説明をするのに15分ほどかかり、ようやく理解してもらう。

最後には

「お前、めちゃくちゃすごいな!これはすごいぞ!ちょっと自慢してくるわ!がっはっはー!」

と言いながら職員室に消えていった。


文集が出来上がった時、クラスメイトの名前が使われているところには下線がわざとらしく引かれていた。

わからない人が読んでもわかるように配慮がされている。

仕事できるやん。

筋肉ダルマとバカにしててごめんね。


ちなみにおっしーが描いた挿絵は、小学生が描いたような筋肉ダルマの顔から手と足が生えていたものだった。

クラス一同大爆笑した。

全部持ってくやん。


天才とはこういう人を呼ぶのか。

ジェラシーさえ感じた。

その後、おっしーのあだ名は「画伯」になった。

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