見出し画像

高校1年 春⑤定期公演

着々と定期公演の日が近付く。

これまで、穏やかで優しい以外の言葉が見当たらない演出の先輩(うちの高校では演出が一番偉い)が、

たるんでるメンバーに声を荒げることが増えた。

そして声を荒げた後は、格段と質が上がっていった。

長年空手をやってきて、先輩たちがどんどんヤンキー化していくのを見ていた僕は

怒鳴り散らしてくる系の弱いヤツがマジで嫌いだったため

本来は声を荒げたりするのが好きではなかった。

でも、こういう伸ばし方もあるのかとそれを見て学んだ。

そんなことを思ってはみたものの、そもそも一年生はそれぞれ出来ることが少ない。

ただし、台詞のある重要な役柄を得ていたメンバーも少ないながら何名かいた。

めちゃくちゃ悔しい。

でも、これが今の僕の実力だ。

幸いなことにダンスの評価は非常に高かった。

トリでソロパートを任せてもらえるほどに。

あと、毎回幕引きがエグいと褒めてもらえたのもありがたかった。

観客は誰もそんなところに目を向けないだろう。

でも、わかる人はわかる。

今はそれでいい。

それぞれの役割があることを胸に刻んで、僕は僕のやるべきことを頑張ることにした。

公演の前にはパンフレットに載せる広告の獲得のために地域のお店を回ったりもした。

生まれて初めての営業行為。

めちゃくちゃ緊張した。

でも、地域の皆さんはとても優しかった。

この資金が、僕たちの定期公演を開催する資金に充てられる。

今までやりたいことに関してお金のことを気にしたことなんてなかったけど

あと何件取らないと会場借りれない。とかそんなことが話に出てくる。

これが高校生なのかと、大人の階段を登った気がした。

無事広告も集まり、練習も順調に進んだ。

舞台のタイトルは、僕の彼女が好きだったバンドの曲名から取られた。


そして迎えた本番。

1,000人弱のキャパシティのある僕らのホーム、市民会館での公演が開幕。

袖から見える観客席は、合宿の時のようにビッチリではないものの、そこそこいるように見えた。

開演のブザーがなる。

緊張が高まる。

舞台は順調に進み、僕の出番が訪れた。

ダンスを踊っている間、ステージと観客席は離れている。

なのに

すべての観客の顔が見えた。

たくさんの観客がすべて僕を観ている。

アドレナリンが止まらない。

もっと踊ってたい。

でも、夢のような時間はあっという間に過ぎた。

ステージから捌けたあとも心臓の音がうるさいくらいずっと響いていた。


上演が終了して後片付けをして学校へ戻る。

いつもの古い体育館のステージの上。

OB.OG、観客からいただいた様々な差し入れを食べながらの打ち上げが開かれる。

顧問の角刈りメガネが言うには来場者数は200名に届かないほどだったという。

あんなにいても5分の1も埋まってないのか!とかなり衝撃を受けた。

三年生たちからそれぞれ別れの言葉を贈られて、三本締めで打ち上げが終わる。

これで明日から憧れの三年生たちはいなくなった。

生徒会のイケメンも、優しい演出家も、京野琴美と結婚するために役者になる!と息巻いていたパイセンも、そして僕の彼女も

明日からは誰もいないのだ。


2年生を中心とした新たな体制でやっていくにあたって、3年生が決めた役割が発表される。

新しい部長は癒し系のくせに下ネタが大好きなチクヤン先輩。

副部長は真面目であまり話したことのなかった髪型が昭和のせいこちゃん先輩。

経理は細い目が特徴のギャル先輩。

2年生は3人だけだったからみんな役割がある。

1年生を改めて見る。

この地点でバンドマンたちはいなくなっていて、

代わりにいつのまにかバンドマンたちに連れてこられてそのまま残ってしまった武士みたいに無口で独特なおっしー。

高木ブー似のながぶー。

細くて長いアニヲタのちーちゃん。

丸くてほんわかなみかぶー。

サンリオのキャラクターにいそうなくらい宙に浮いてる、かなっぺ。

同じクラスのMに、僕そしてみっちー。


ふと、我にかえる。

あれ、この部活、変なやつしかいなくね?

ちなみに定期公演の後からは、


見た目めちゃくちゃ真面目なのに頭の中狂ってる、演劇界のDOTAMAこと、アニオタのあそうたまきこうじ

幕末マニアのヲタク、おやびん

の2名も加入。

あれ、憧れの先輩がいるかっこいい部活だったはずなのに、なぁぜなぁぜ?

演劇部は、クラスの中の異物みたいな奴らの集まりと進化を遂げることになる。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?