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一期一会の本に出会う (6)この宇宙に無限大はない? 

京都の龍寶山大徳寺で購入した色紙。「一期一会」と書いてある。最初の「一」がすごいですね。

「銀河のお話し」の状況設定と同じです。 こちらをご覧ください。 https://note.com/astro_dialog/n/n7a6bf416b0bc

オルバースのパラドックスに学ぶ

天文部の部会で話題になった「オルバースのパラドックス」の話はためになった。普通のパラドックスは仮定されたことが間違っている。だから、常識に合わない結論が出てくる。しかし、「オルバースのパラドックス」は違う。仮定はどうでもよいのだ。だから多くの人が迷い、間違った論理展開をして墓穴を掘った。考えてみれば、こんなパラドックスには出会ったことがない。
天文部の雑談では、まだ「オルバースのパラドックス」がときどき話題になる。それほど、部員の印象に残る話題だったことになる。

今日は、優子が口火を切った。
「部長、この宇宙には無限大はあるんでしょうか?」
「そうか、「オルバースのパラドックス」関連だね?」
「はい。」
「じゃあ、「オルバースのパラドックス」を簡単に復習しておこう。」
「お願いします。」

輝明は「オルバースのパラドックス」で仮定されたことをまとめた。

・宇宙は無限に広い(宇宙の大きさは無限大)
・星は無限個ある
付加的な家庭として
・星(銀河)は一様に分布している

「3番目の仮定は付加的なものなので、とりあえず最初の二つの仮定を吟味してみよう。まず、宇宙の大きさだ。宇宙はたしかに広大だ。無限に広いと言われれば、そのまま信じてしまいそうだ。しかし、宇宙の大きさは無限大じゃない。」
「それはどうやってわかるんでしょうか?」
優子が質問する。誰しも知りたいことだ。
「ちょっと、この図を見てもらおう(図1)。」
輝明はパソコンを開いてスライドを映し出した。

図1 宇宙の大きさが有限であることを説明する図。宇宙の形を球だと仮定しているので、Rは宇宙の半径に相当する。

「宇宙は球のような形をしているとしよう。半径はRとする。」
「簡単で、いいですね。」
「宇宙の誕生過程はまだ正しく理解されているわけじゃない。だけど、おそらく「何にもないところ」で生まれたというのがひとつの有望な説だ。」
「うーん、「何にもないところ」ですか・・・。」
「別名は「無」だ。ミクロの世界ではすべての物理量が揺らいでる。そのため、無という状態も揺らいでいる。「無」では、正負のエネルギーを持った仮想的な粒子が生まれたり消えたりしている。そして、あるとき、正のエネルギーを持った領域が宇宙の卵になる。」
「宇宙卵ですか。」
「大きさはゼロじゃない。有限の値を持っている。現在の物理学で想定できる大きさはプランクスケールと呼ばれていて、10のマイナス35メートルぐらいだ。ゼロじゃなくて、非常に小さいけれど、有限の値を持っている。」
「誕生した後はどうなるんでしょうか?」
「宇宙はエネルギーを持って生まれたので、そのエネルギーでどんどん膨張する。宇宙は急激な膨張と共に、温度が下がり、宇宙の状態を変えていく。水でいうと、気体の水蒸気から液体の水、そして固体の氷という具合だ。専門用語では相転移と呼ばれている現象だ。このときの急激な膨張はインフレーションと呼ばれている。宇宙誕生後、10のマイナス36秒後にスタートして、10のマイナス34秒後に終わる。」
「えっ? そんな瞬間芸なんですか?」
「そうだ。だけど、これがすごい。この間に宇宙は10の43倍に膨れ上がってしまうんだ。」
「すごい膨張ですね。」
「このインフレーションと呼ばれる現象は宇宙に膨大な熱エネルギーを残して終了する。相転移に伴って放出される潜熱だ。そのときの宇宙の温度はだいたい10の30度。」
「ギャーっていうぐらい熱いですね。」
「その熱エネルギーで宇宙はさらに膨張を続ける。この膨張がビッグバンと呼ばれている現象に相当する。」
「宇宙の最初はとんでもなく大変だったんですね。」

宇宙の大きさは有限

「さて、この宇宙膨張が1927年にベルギーのジョルジュ・ルメートル、そして1929年に米国のエドウイン・ハッブルによって発見されたものだ。宇宙膨張率が測定され、それはハッブル定数と呼ばれている。1メガパーセクあたり約70キロメートル毎秒という値だ。メガパーセクは100万パーセク、1パーセクは3.26光年。1光年は約10兆キロメートルだ。」
「天文学の単位は厄介ですね。」
「これは致し方ない。受け入れるしかない。」
「はい。」
イヤイヤながらも、優子は頷く。
「大事なことは宇宙膨張率、ハッブル定数は有限な値であるということだ。」
「そして、宇宙年齢も138億年で、有限な値ということですね。」
「そう、図1を見てわかるように、現在の宇宙の大きさは有限なんだ。ちなみに値は約470億光年。これは球の半径に相当する。」
「470億光年。とんでもない大きさですけど、無限大ではないことが重要なんですね。」

星の個数も有限

「じゃあ、宇宙にある星の個数は?」
「無限個あるとしたら・・・。あっ、ダメですね。」
「おっ、わかったかな?」
「はい、1個の星は有限な体積を持っています。もし、星の個数が無限個なら、星の全体積=1個の星の堆積×無限大=無限大になってしまいます。無限大の体積のものは、有限な大きさの宇宙には入りません。したがって、星の個数は有限でなければならないんですね(図2)。」

図2 宇宙にある星の個数が無限個の場合、星の総体積は無限大になってしまい、宇宙の大きさを超える。それはありえない。

「そういうことだね。」
「結局、オルバースのパラドックスで仮定されていたことは間違っていたことがはっきりしました。」
「でも、それでパラドックスが解けたことにはなっていない。夜空を明るくするほど、たくさんの星があるわけではないことを示さないといけなかったんだ。」
「うーん、ホントに厄介なパラドックス!」
「そうだね。宇宙が無限か有限かは、結局関係なかった。だから、多くの人が間違った解釈をしてしまったわけ。」
「こんなこともあるんですね。」

優子はまたよい勉強をしたと、満足げな表情だった。

註:少し難しい専門用語が出てきますが、読み飛ばしていただいて結構です。

<<< 一期一会の本に出会う >>>
(1) 『夜空はなぜ暗い?』 by エドワード・ハリソン
https://note.com/astro_dialog/n/n74ec5fa3dc93

(2) オルバースのパラドックスの徹底解明 『夜空はなぜ暗い?』 by エドワード・ハリソン に学ぶ
https://note.com/astro_dialog/n/n37a8fb2e4e23

(3) 2000年に一度しか夜が来ない惑星https://note.com/astro_dialog/n/n6440aa8d95ad


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