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「ハウス 天空の神殿」は実践的解説書

本書の特色は、ハウスがいかにして生まれたのか、その歴史的な経緯について簡潔明瞭に解説している点です。著者は12ハウスの意味、由来、用法を解き明かし、歴史的背景、ハウスの意味づけと象徴を古代神話と哲学、天文学的観点から読み解きます。
そして、ハウスが有する力の序列、アングルの重要性とその理由、不運のハウスの理由と解釈まで、おおよそ占星術の実践において必要な要点を学ぶことができます。
読み方によっては、現代的解釈への批判的論評でもあります。
でも、本当の意味で本書が刺さるのは現代の占星術実践者です。古代人が天の区分をどの様に決めたのか、なぜハウスという形になったのか、ハウスが果たす役割とは何か。それを真摯に追い求める著者に共感する人は少なくないと思います。

日本初「ハウス専門書」

原題はThe Houses, Temples of the Sky
著者は英国の占星術師デボラ・ホールディングさん。

デボラさんは欧州、米国ではよく知られた伝統派の占星術師です。
古典占星術の学校、STA(https://sta.co/)を設立し、
米国の占星術雑誌「マウンテン・アストロロジャー」の
ホラリー占星術担当編集者でもありました。

さて、元々はハウス本を自分で書くつもりでした。
動機は、ハウスの専門書が日本にはまだ無いこと。
そして、ハウスには天文学的な理解が必要なことです。

本邦でもハウス解釈は色々な場所で書かれていますが[1]
歴史的な成立過程や仕組みについてはあまり触れられていません。
こうした本は海外でも少ないのですが、本書はその中の一冊です。

1. 伝統的なハウスについて詳述している本
現代占星術家のための伝統占星術入門(ベンジャミン・ダイクス著、田中要一郎訳)p.107-123
星の階梯II(河内邦利著)p.134-218
基礎からわかる伝統的占星術(福本基著)p.275-355

ハウスの起源ってなに?

ハウスの専門書はなぜ少ないのでしょう。
それは仕組みについて言及すると、神話、歴史、天文学、数学…と
関係する分野が広範囲にわたるためです。

20世紀以降の占星術はオカルト知識、スピリチュアリズム、
心理学と高い親和性を構築する一方で、天文学や数学との距離は開く一方でした。

PC/Macの登場で、ソフトウェア開発者だけは天文学的理解を深めました。
彼らの存在が現在の占星術を支えてきたとも言えます。
でも、その一方で背後にどんな仕組みがあるのか、私たち実践者は考える必要がなくなりました。

正直、ここに触れたがる占星術師は少ないと思います。
自分も同じです。
天文や天体観測が好きと言っても、数学的に理解しているわけではありませんし
歴史や神話の勉強はまるで足りていません。ましてやそれを人に説明するとなれば、さらにハードルは上がります。

デボラ・ホールディングさんは大変な勉強家で
占星術に関わることなら、苦手なことにも切り込んでいく勇ましさがあります。
これは翻訳中、特に感じたことです。

結果、自著を書くより、本書を紹介した方が良いという結論になりました。
本書が上記の様な「現代の占星術家がいやがる」事柄に触れつつも
本質的問題のみにスポットを当て、かつ実践に必要な事柄に集中しているからです。

「この方法なら書ける」と思うと同時に、
「いや、だったら自分が書く必要はないじゃないか」と悟りました。

本書の歴史、神話、天文、シンボリズムを通して行われるハウス解説は明瞭です。
また無駄なところがありません。
自分がホールサイン・システムを強く支持している点は著者と異なりますが、
その違いなど些細な問題です。
さらに、重要なことは占星術の実践者にとって、必要な知識が十二分に盛り込まれている点です。

決めたのはいいけど…


2021年、noteとスペースで本書を紹介した時「簡潔でわかりやすい」と言いました。

でも翻訳作業に入り、2つの問題に直面しました。

まず彼女の英語は、自分が馴れ親しんだ米国英語ではありません。
具体的に言うと「一文が長い」のです。頻繁に「長文読解問題」の様な文章が出てきます。

英文では理解できても、そのまま日本語にすると
あまりにも冗長な文章となり、さっぱり意味が掴めません。
これは翻訳初期の課題となりました。

もうひとつは書かれた時代背景が関係しています。

本書が最初に書かれたのは1990年代です。
欧米の占星術界で古典伝統派占星術が産声を上げ、まだ人々はその存在を知りません。
その様な環境で、著者の筆致は時に激しく、一部の現代的解釈への批判に向くのです。

翻訳過程で何度か感じたのは「ふつふつと沸き起こる著者の憤り」です。
何度かリアルな感情を活字の背後に感じました。

この感覚と共に日本語にすれば、
一部の占星術ファンには受け入れがたいものとなります。
「古典伝統派が正しく、現代占星術は間違っている」
そうした安直な結論に読者を導く可能性も感じました。

もちろん著者の立場は異なります。

そこで内容は一切変更せず、批判的記述もそのままとしましたが
1点だけ気をつけました。
それは、日本語がもつ溶解力と融和性を最大限利用することです。

ベストを尽くしましたが、それは成功したでしょうか。
こればかりは読者の評価に委ねるしかありません。

おわりに

ホールサイン・システムについては、30年前に著者のなかで
ある程度の決着がついていたことが分かります。
「矛盾を矛盾のままに受け入れる」という本書での姿勢と決断がそれを物語っています。

西洋占星術とインド占星術を学ぶ様に「古典占星術と現代占星術は別モノとして学び、扱う」ことを自分は提案しています。
ふたつを無理に統合すれば必ず矛盾が起きます。
そしてそれが原因となって、双方の良さを壊す可能性がとても高いのです。

たとえば、10天体と7天体をどう統合すればいいのでしょう?
惑星のルーラーシップは?
蠍座の支配星は冥王星?それとも火星?
「副」支配星って無理やり過ぎない?
30度と150度のアスペクトを、古典伝統派で否定しない方法はある?
セクトは?
現代占星術に「吉凶判定」を取り戻す必要は本当にある?
小惑星は?リリスは?

こうしたことは枚挙にいとまがありません。

私たちは矛盾を嫌います。
全く別の考え方を同時に持つのはやめて、ひとつにしたいと願うのです。
でもそれは、分からないものを「分かる」とうそぶく様なものではないでしょうか。

今は「わからない」ことを認め、あるいは未来の自分に預け
「矛盾を矛盾として受け入れる」姿勢は
世界に対し謙虚であり続けることと同じだと思います。

みなさんは、どう思いますか?
それではまた。今夜も良い空を!

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