[小説]白い壁5
「美奈?」
美奈だった。そう、そこには美奈が立っていた。
あたしはあまりの驚きに、言葉を忘れてその場に立ち尽くした。
「美・・・」
「亜紀!!」
あたしが言葉を発するより先に、美奈が駆け寄ってきてあたしの首に抱きついた。
「亜紀・・・亜紀。怖かったんだよ、亜紀!」
「美奈・・・」
あたしは夢中で喋る美奈の肩におずおずと手を置いた。
その髪も、背も、声も・・・いつもの美奈と変わらない。少しずつ安堵が込み上げる。
美奈は・美奈は、無事だったのだ!!
「亜紀・・・あたし、」
美奈のほほに涙が伝い、しゃくり上げはじめる。あたしは問わずにはいられなかった。
「美奈、今までどこに」
・・・・・キィーーーーーン・・・・・
ちょうどその時。何かが軋むような音がはるか頭上で聞こえたような気がした。
でもあたしはたいして気にもとめず、話の先を続けようと喋り続けた。
「ね、美奈、あれからどうしたの?どうなっちゃったの?あたしずっと」
美奈は夢中で問い掛けるあたしの顔を濡れた目でじっと見て、そして言った。
「亜紀が呼ん・・・」
ぐわん!!!
美奈が言い終わらないうちに、はるか高いところでものすごい音が鳴った。
「?!」
はっとして顔を上げ、あたしは空を仰いだが、壁の近くにいたあたしの真上には足場の板が渡してあって、何が起こったのかよく見えない。
だが同時に空を見上げた美奈は、瞬間・恐怖と驚愕にひきつった表情で息を飲み込んだ、そして
「あぶな・・・!!!」
あたしは思い切り・美奈に突きとばされた
グワァァァン!!
すさまじい轟音と、風圧・土煙が起こった。
あたしは足場用のパイプや板が散乱する隙間に、頭を抱えてしばらくうずくまっていた
おそるおそる顔を上げ、惨状を見渡す。
「・・・美奈?」
あたしの中に、言いようのない恐怖と不安が起こる。
幅五十センチ、長さ五メートルはあるかという鉄骨が、ほんの一メートル先に鈍い色を放ちながら長々と横たわっていた。
まさか・まさかと思いながら、目をやったその下には・・・美奈の体があった。
うつぶせに倒れて、横顔には髪がふわりとかかっている。
それだけ見ると、まるで眠っているみたいだ。
・・・でも
次第に地面を染めていく真っ赤な血が・ただの眠りではないことをあたしに思い知らせていた。
「美・・・美奈・・・」
あたしの中の、かろうじて理性を保っていた何かが・掛け金がはじき飛んでいく。
「いやーーーーーっ!!!」
~つづく~
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