【はじめに】

本記事は、２０２２年にFOCALから発売されたヘッドホン、「UTOPIA SG」についてのレビューである。
ヘッドホンの中でも５０万円オーバーの、いわゆるハイエンド機に当たる。
FOCALの現行機種の中のフラッグシップモデル。
本記事内の目次に（読み飛ばし可）とあるものは、レビューとして必ずしもすべての読者に必要ではないため、余裕があればご参考にどうぞ。

【UTOPIA SGについて】

本機はフランスの名門オーディオ機器メーカーFOCALがヘッドホンの最上位機種として発売しているハイエンドヘッドホンだ。
FOCALは４０年以上オーディオ機器を開発しているが、ヘッドホンに関しては割と最近開発を開始しており、本機の前機種に位置する「UTOPIA」は２０１６年の発売で、その後６年程度の期間をかけて改良されて発売されたのが「UTOPIA SG（Second　Generation）となる。
残念ながら、UTOPIAは筆者が視聴する機会に恵まれなかったので比較検討は出来ないのだが、ややピーキーだったUTOPIAの性能はそのままに万人向けにチューンされたというのが一般的な評価のようだ。
独自開発のピュアベリリウムM字型ドライバーが最大の特徴。非常に剛性が高い金属のベリリウム１００％で出来たドライバーは極めて高性能。

【まとめの箇条書き】

☆出音は「非常に素直」、比較的フラット、ややウォーミー（温かみある）
・全音域のバランスに優れている。ボーカル特化ではなく、ボーカルが前に出すぎずちょうどよい。
☆特に中～高域はバランスよく出ており、突出しているという印象はない。低音の主張も激しくなく、どちらかというと弱め。
・解像度は高いが分析的にならないちょうど手前くらいに調整されているようだ。
・音場はやや近め。「広大である」とはいえない。垂直・水平ともに十分な空間表現は出来ている。
・音楽ジャンル的にはオールマイティに高得点を出すタイプだが、繊細な表現が得意なので楽器の数が多いオーケストラや、ハーモニーが優れたジャズなどは特に相性がいい。一方で、力強いボーカルやガツンと響く低音に特化した曲は若干苦手か。
・ウォーミーな音だが、音は全くもたつかず、精細かつ整然としている。DACやアンプも、ナチュラルな特性を持つものがあうだろう。
・質感は最高のクオリティ。カーボンフレーム、シープスキン製イヤーパッドなど高級感は文句がない。
・合皮じゃないのが最高だが、革製なのでイヤーパッドはやや蒸れる。
・さらに、側圧は強めで、長時間使っているとちょっと頭が痛くなるかもしれない。
・重さは、重い（４９０g）が、うまく分散されるようにヘッドバンドが出来ており、５００g近いわりには首は疲れない。
・遮音性は低めである。静かな室内で使用するのが前提か。

【視聴環境の紹介（読み飛ばし可）】

①音源

手持ちのダウンロード販売音源：すべてロスレス以上、ハイレゾ含む。
Windows10→ソフトは「Tune Browser」によりWASAPI再生。dpeaklimによりピークリミッター解除。
DAP→アプリは「Neutron Music Player」を使用。
CDからの直接再生は今回使っていない。CDプレイヤーに十分な性能のものを所持していないため。
Apple music：windows10のPCによる再生→公式ソフトウェア、サンプルレートは最大値（192kHz）ビット/サンプル24。
DAPによる再生→全てロスレス再生以上、ハイレゾロスレス含む。

②機材

PCはデスクトップのwindows10機。ピークリミッターを解除して使用。
詳細スペックはおそらく再生性能に関係せず記事を冗長にするため記載しない。
DAPはshanling M6 Ultra。
↓
PCとの接続：USB接続にノイズ除去機材「iDefender+」を使用、USBケーブルはOYAIDE ( オヤイデ ) / d+USB class S rev.2/1.0
DAP：OYAIDE ( オヤイデ ) / d+USB class B/1.0で接続
↓
DAC/アンプは「ifi NEO iDSD2」および「RME　ADI-2/4 Pro SE」を使用。
☆今回の視聴はすべて付属のバランスケーブル（4ピン）を使用している。

③比較対象になった筆者所持のヘッドホン

・AKG K712 Pro
・HIFIMAN　edition XS
・SHURE　AONIC50
・SENNHEISER　HD800S

【音質以外について】

全体としてのビルドクオリティは非常に高い。カーボンのフレームにシープスキンのイヤーパッド・ヘッドパッド。
イヤーパッドの肌触りは最高によく、耳を包みこんでくれる。合皮でないのが最高である。
最近はハイエンド機種でも合皮（ただしアルカンターラという高級素材ではある）が増えてきたのだが、しばらくするとぼろぼろになる宿命なので、革製かベロアが個人的には好き。
ただし革製なので、結構蒸れる。通気孔は空いているが、素材的に仕方がない。あと革製なので交換パッドが高い。33000円。
また、重量はずっしり重めの４９０gであるが、ヘッドパッドがうまく出来ているのか、その重量の割には首が疲れない。
側圧は比較的強めである。筆者の頭がでかいだけかもと思ったが、HD800Sだと結構緩めになるくらいなので、一般的にもちょっと側圧は強く感じるだろう。ヘッドパッドのフレームはカーボンなので、力を入れて曲げるのは絶対に厳禁だ。たぶんバキッといく。
ケーブルは1.5メートルのシングルエンド、3メートルのバランス（4ピン）が付属している。被覆はどちらも樹脂で、若干取り回しが悪いかもしれない。個人的には布被覆が好きだった。
遮音性は、オープン型なので無い。外部の雑音も貫通するので、静かな室温の使用が前提と思われる。
ドライバの故障に限り、メーカー保証が5年もあるのはすごい。自信がうかがえる。
価格は定価660,000円。高価に見えるが、5000ドルくらいの製品なので執筆時の為替だと75万円は超えるはずなのでむしろお買い得である。日本販売代理店がめちゃくちゃ頑張っている。

【音質について】

出音の総評としては「非常に素直」。フラット・ナチュラルで、どちらかというとウォーミー（温かみがある）。
解像度は高いが、分析的になる手前で調整されているようだ。音の分離はしっかりしていて、ドライバーの性能は極めて高いのがわかる。
全音域のバランスに優れ、突出している音はないように感じる。低音は少しだけ弱めに感じたが、音像がくっきりとしているので十分である。幅広いジャンルに対応できるようにとの設計の意図を感じる。
ボーカルのバランスはボーカルが前に出てきすぎずちょうどよい。ボーカル特化型ではない。
音場はやや近めである。筆者所有の中ではHD800Sが「広大な」と表現されるが、それと比較すると明らかに近い。しかし空間表現は垂直・水平方向ともに十分である。
前述のとおり、ウォーミーであるが音は全くもたつかず、精細かつ整然としている。そのため、上流の機材もナチュラルで味付けの少ない特性のものが合うだろう。筆者の所有の中では、NEO iDSD2よりもADI-2/4 PRO SEのほうが合っていた。
音楽ジャンルとしては、ほとんどのジャンルでオールマイティーに高得点は出せると思われるが、繊細な音の表現が得意なので楽器の種類が多いオーケストラや、複雑にハーモニーを奏でるジャズなどが一番合っていると思う。反面、力強いボーカルやガツンとくる低音に特化したタイプではない。個人的には、意外と電子音楽とも相性がよくて嬉しかった。
ドライブするだけならアンプに大きなパワーは必要ないが（80Ωのインピーダンス）、鳴らし切るにはADI-2/4 PRO SEで言うならばハイパワーモードでの中程度の音量の出力が必要だと感じた。アンプのパワーが弱いからといって「音が痩せる」という状態まではいかないが、ドライバーの性能が活かしきれないと感じる。

【おわりに】

いわゆるハイエンドヘッドホンは初の購入だが、全体的には満足できて良かった。
音に関しては筆者の好みによく合い、問題ないが、重さ・側圧・蒸れやすさから、装着感は長時間の使用をするとやや評価は厳し目になる。筆者の場合は、長時間の作業時に音楽を流すときには別のヘッドホンを選ぶかもしれない。
音質は最高なので、音源を新たに聞き直す楽しみができた。
高級機種だからといって温存せず、普段遣いしていきたい。高性能なものほど使用頻度は増やすべきだと思う。

音質のレビューでも書いたが、ボーカル特化型ではないので、ハイエンド機にもう1本、ボーカル向きのやつが欲しくなった…！この沼深すぎる。

【おまけ・今回のレビューで聞いたリファレンス曲紹介（読み飛ばし可）】

最後に、今回の検証で聞いた曲を紹介することで、筆者の視聴傾向から本レビューがどの程度ご自身の音楽鑑賞に合致するかの参考としていただきたい。今回聞いていない音楽ジャンルによっては、レビューの内容も変わると思われるので、購入された方はぜひレビューしてみてほしい。

Cold Tears(Original)/TEMPLIME&星宮とと、ポーリュシカ・ポーレ/ORIGA、Zigman: Émigré：shanghai/上海交響楽団・ロン・ユー、カナヅチ/雨宿り、てせうす/x髥莏、OUR DAYS/KMNZ、Childhood/ムシぴ、PLAIN/EMA、スラッシュ禅問答/筋肉少女帯、幽霊とU.F.O/現実みろ、Cello Suite No.4 in E-Flat Major,BWV 1010:Ⅳ.Serabande/ヨーヨー・マ、
HAPPY/group_inou、百年/理芽、鰐/オーラルヴァンパイア、さよなら/存流、アーティフィシャル・アイデンティティ/長瀬有花、オルターエゴ/DUSTCELL、
不登校少年少女のエチュード/ポップしなないで、イエスタデイ・ワンス・モア/カーペンターズ、1984/ハレトキドキ、暮しガスメータ/電≠鯨、In the snow/レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、タイトロープ/きのこ帝国、死神/大森靖子、革命前夜/ミソシタ、・おやすみ・/猫シCorp.、All Hope Is Gone/スリップノット、ZAZA/Diggy-MO'、鬼の形相/ぐしゃ人間、Thriller/マイケル・ジャクソン、in case…/BiSH、スタンプラリー/扇愛奈、Chippin'In/SAMURAI