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米国:予想上回る回復示すも、不透明感払拭できず(3) = ロックダウン解除で所得回復し財布の紐緩める =

                       2020年11月18日

 今回はレポート(2)で眺めた米国民間消費支出について、所得面から眺める。

〇 経常移転受け取りで高い伸びを示す個人所得

 図1、表1は個人所得について、前年比及び個人所得全体に対する前年比増加寄与度で推移を眺めたものである。

個人所得[2713]

図1. 個人所得の推移(前年比増加寄与度、%)

表1. 個人所得の推移(前年比、増加寄与度、%)

個人所得(表)[2712]

 図1でも明らかなように、過去最大の落ち込みを示した今年4-6月期の民間消費支出の裏側で、個人所得は前年比10.4%増と過去最大の伸びを示している。続く7-9月期も同6.8%増と前期よりは伸びが鈍化したものの、11年以降記録した最大の伸びを依然維持している。

 その高い伸びを生み出しているのは経常移転の受け取り、すなわち政府からの支援である。

 経常移転の受け取りは、民間消費支出が大幅な下落を示した4-6月期に前年比82.1%増、7-9月期には同40.1%と伸びは半減したものの高い伸びを維持している。

 個人所得全体に対する寄与で眺めると、4-6月期、経常移転受け取りは寄与度で13.8%となり、雇用者所得など他の個人所得項目の落ち込みを大幅に上回り、個人所得の前年比10.4%を作り出している。7-9月期は前年比6.8%増となった個人所得に対する経常移転受け取りの寄与度も6.8%増となり、7-9月期の個人所得の伸びも経常移転で保たれている。

〇 7-9月期非農業事業者所得が回復、雇用者所得も9月にプラス

 個人所得の高い伸びが経常移転受け取りで生みだされている状況の下、表1に示されるように7-9月期には他の所得について変化がみられる。

 事業者所得は7-9月期前年比で8.0%のプラスへ転じている。農業所得がコロナ・ウイルス拡大の下でも前年比プラスを続ける中、非農業事業者所得が7-9月期前年比8.0%増へとプラスに転じている。ロックダウン解除による回復である。

 また、個人所得最大の項目である雇用者所得は4-6月期前年比4.5%減、続く7-9月期も同0.3%減となったが、月次で眺めると、9月に前年比0.5%増へと転換してきている。個人所得の落ち込みの主因であった雇用者所得が増加に転じたことは、リーマンショック時と比べても短期間の落ち込みとなり、民間消費支出の早期回復の環境が見えてきている。

 前のレポート(2)で「必需品」中心の耐久財消費増であった動きが、7-9月期から乗用車や「その他耐久財」の消費が増加に転じた背景には、事業者所得や雇用者所得の回復があると考えられる。

〇 所得格差拡大を促す流れ

 他の所得の動きを眺めると、個人所得に対する増加寄与度は小さいが、賃貸所得が増加を続けており、月次で眺めても7月、8月、9月とその増加幅を高めている。前回レポートでお示ししたように、コロナ・ウイルス拡大による都市部からの移転需要がその背景にあると考えられる。

 他方、利子:配当所得は金利低下、企業業績下落から4-6月期以降前年比で減少を続けているが、リーマンショック時と比べるとその落ち込みは小さいものに止まっている。

 リーマンショック時と比べ、今回金利低下幅が小さいことが影響していると考えられる。他方、配当も減少してはいるものの株価は上昇基調にあり、キャピタル・ゲインはリーマンショック時とは大きく異なっている。

 雇用者所得が低迷する中でのこれらの動きは高額所得層に有利に働いており、所得格差拡大を促すものである。

〇 実質可処分所得、依然高い水準

  個人所得は4-6月期歴史的にも高い伸びを示し、7-9月期も前期の伸びより鈍化したとはいえ過去に経験した高い伸びと遜色のない状態にある。個人所得が増加する中で、なぜ民間消費支出が過去最高の下落を示し、7-9月期も依然前年を下回る状態という疑問に対し、所得の面から順を追って眺めていこう。

 表2は実質可処分所得の推移である。可処分所得とは個人所得から所得税などを差し引いたものであり、税引き後の所得ある。家計や個人はこの可処分所得を基に消費や貯蓄をする。ちなみに、4-6月期以降雇用者所得など経常移転以外の所得が下落したため税金なども前年比で減少し、結果として可処分所得の伸びは個人所得の伸びを上回っている。

表2. 実質可処分所得の推移(前年比増加寄与度、%)

実質可処分所得(表)[2714]

 表2は物価の変動を除いた実質的な購買力として実質可処分所得を示している。定義的には名目の可処分所得から物価上昇分を差し引いたものである。

 実質可処分所得の伸びは4-6月期に前年比11.8%増と急伸し、7-9月期は同6.4%へとなっている。月次で眺めると、8月前年比4.9%へと7月より大きく鈍化したが、9月には5.5%と伸びを高めている。これは表1にあるように、8月経常移転の受け取りの伸びが7月より縮小する中で、9月には非農業事業者所得や雇用者所得がプラスになったことを反映している。

〇 ロックダウン解消による所得回復の流れが財布の紐を緩める

 実質可処分所得を基に家計や個人が消費をするか貯蓄をするかを決定すると紹介しましたが、ここでは実質民間消費支出の変化を実質可処分所得の変化と消費性向の変化で眺めてみましょう。 消費性向の変化は当期の実質可処分所得に対する実質消費の割合であり、貯蓄性向の変化の裏返しです。

 表3において、今年4-6月期の実質可処分所得は前年比で11.8%増、実質民間消費支出は同10.2%減です。すなわち、実質可処分所得の伸びを22.1%引き下げて消費を行ったことを示しています。この寄与度で22.1%消費を引き下げたということは、その分消費せずに貯蓄に回したということになります。

表3. 実質民間消費支出の推移(前年比増加寄与度、%)

実質消費(表)[2715]

 4-6月期の貯蓄率、すなわち可処分所得に対する貯蓄の割合は、1-3月期の9.6%から、25.7%へと大幅な上昇を示しています。

 4-6月期はロックダウンが施行された時期であり、コロナ・ウイルス拡大の終息が不透明な状態です。失業保険給付など政府からの経常移転の受け取りが急増しても、雇用者所得など通常の所得が減少しており、先行き不安の高まりから貯蓄を増やし消費を抑制した行動が示されている。

 コロナ・ウイルス拡大がもたらした経済社会活動の停滞が家計や個人に想定以上の大きな影響を与えているかは、図1,図2を合わせてリーマンショック時と比較して眺めてみれば明白である。

実質省(図)[2711]

図2. 実質民間消費支出推移(前年比増加寄与度、%)

 7-9月期はロックダウンの解除、失業者、失業率の低下から経常移転受け取りの伸びが鈍化し実質可処分所得は前年比6.4%の伸びと鈍化するが、逆に、実質民間消費支出は同2.9%減と前期に比べ下落幅を縮小している。

 実質可処分所得の伸びがプラスを続ける中、実質民間消費支出が依然マイナスを続けているが、消費性向の変化が前期の22.1%減から9.3%減へと減少幅を縮小、すなわち、貯蓄に回す分を前期より減らし消費を前期より増やした姿である。

 これが実質可処分所得の増加が前期より弱まった中で、貯蓄率が前期の異常に高い水準から7-9月期15.8%へと10%ポイント近く低下させた姿となっている。月次で貯蓄率の推移を眺めると、8月以降14%台へとさらに低下してきている。

 この裏側では先に眺めたように自営業主所得の回復や雇用者所得の回復が先行きの不安感を和らげ、財布の紐を緩めてきたことを示唆している。9月の民間消費支出は前年比2.0%減にまで落ち込みが縮小してきている。

==> 次のレポートでは、家計や個人について労働市場面から眺める。

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