見出し画像

新型コロナ・ウイルス感染拡大下の米国経済 = 昨年10-12月期GDP統計が映し出す米国の姿 =

                        2021年2月10日

〇 回復基調の継続が示された10-12月期

 世界最大のコロナ・ウイルス感染者数を更新し続ける米国であるが、昨年10-12月期の実質GDPは前期比年率4.0%、前年比でマイナス2.5%となった(表1)。

表1. 米国:実質GDPの推移

実質GDP比較表[2937]

 実質GDPの水準を新型コロナ・ウイルス感染拡大前の19年10-12月期の水準を100として比べると、ロックダウン(都市封鎖)を実施した4-6月期89.9と10%を上回る水準にまで低下、その後ロックダウン解除を受け7-9月期には96.6、10-12月期には97.5まで回復してきている。

 これをリーマン・ショック時と比較すると昨年10-12月期は景気後退1年目である08年10-12月期の97.2に対応しており、リーマン・ショック時では更なる下落過程にあるのに対して、今回は回復基調の中にある。

〇 今年後半にはウイルス感染拡大前の水準を上回る見込み

 図1では今回実績(赤線)とリーマン・ショック時(青線)に対して、2月1日米国議会予算局(CBO: US Congressional Budget Office)が公表した21~31年の中期経済見通し(赤線赤丸)を重ねて描いている。

比較(GDP)[2941]

図1. 米国:実質GDPの推移(2007年、2019年、Q4=100)

 これを眺めると、今年7-9月期には19年10-12月期の水準を上回る姿が描き出される。すなわち、リーマン・ショックからの回復には3年を要したが、今回の新型コロナ・ウイルスからの回復はその半分の期間で危機から回復するという姿である。

 今回のCBO予測は昨年7月予測よりも上向きに修正されている。今回の予測にはワクチン接種が順調に進展する前提の下で、バイデン新政権による財政支援策の効果が組み込まれている。バイデン政権は議会上下院で民主党優位の状態を確保したものの、予算成立には共和党の反発もあり、注意深く眺めていく必要がある。

 CBOの予測では今年1-3月期 実質GDPは前期比年率で4.9%増を予測しており、4-6月期以降は同3%前後で推移すると予測している。暦年では昨年の3.5%減から今年は4.6%増を見込んでいる。

〇 民間消費、回復示すも足踏み状態

 それでは実質GDPの需要項目について概観していこう。

 最大の需要項目である民間消費支出(実質)は、リモートワークや在宅時間の拡大を受け耐久消費財を軸に、7-9月期の急回復に続き10-12月期も回復を示したが、伸びは前期比年率で2.5%増に止まった。

 月次ベースで眺めると、昨年4月に前年比でマイナス16.5%を底に回復に転じ、9月には同1.9%減にまで回復、しかし、10月同1.9%減、11月同2.7%減、そして12月同3.3%減へと再び減少幅を拡大しており、民間消費の回復が足踏みしている。

 2月5日に公表された米国就業者(非農業)の推移を眺めると、民間消費の推移を裏付ける動きを示している(図2)。

就業者[2938]

図2. 米国:就業者の推移(前年比増減、万人)

 就業者の落ち込みは昨年10月に前年比で893万人減まで縮小してきたが、その後11月、12月と落ち込み幅は再び拡大している。サービス業の再悪化がその背景で、雇用や所得面から家計の改善に足踏み状態が浮かび上がる。ちなみに、今年1月の就業者は前年比で913万人減と昨年12月の915万人減より2万人程度の縮小に止まっており、改善は足踏みしている。

 10-12月期の実質民間消費の位置付けは表2に示したように、19年10-12月期に対して2.6%低い97.4となっている。

表2. 米国:実質家計部門需要の推移

比較表(家計部門)[2936]

 図3は実質民間消費の実績にCBOの見通しを加えたものである。CBOの予測では今年1-3月期以降も回復が継続し、年後半には新型コロナ・ウイルス感染拡大前の19年10-12月期の水準を上回るとしている。

比較(民間消費)[2942]

図3. 米国:実質民間消費の推移(2007年、2019年、Q4=100)

 民間消費の状況については別のレポートで詳細をお示しするが、CBOの見通しにあるような回復を継続するには、順調なワクチン接種とともに、バイデン大統領の1兆9000億ドルの「経済復興支援策」が必要である。とくにこの支援策は個人への直接的な支援援助が主軸となっている。労働市場の状況や株価高騰を眺めても所得格差がより顕在化している現在不可欠なものであるが、共和党の反発もあり、成立施行に遅れが出る可能性もある。

〇 民間住宅投資、急激な拡大続く

 新型コロナ・ウイルス禍の下、急拡大しているのは民間住宅投資である。もちろん、リーマン・ショック不況下では観測されなかった状態である。

 前掲表2に示したように、実質民間住宅投資も昨年4-6月期には前期比年率で35.5%減と大きな落ち込みを示したが、その後7-9月期同63.0%増と急回復し、19年10-12月期の水準を5.7%上回る水準に復帰している。10-12月期も同33.5%増と高い伸びを持続、19年10-12月期の水準より13.7%高い水準を記録している。

 民間住宅投資の拡大の背景には以前のレポートでもお示ししたように新型コロナ・ウイルス感染を避けるための移住がある。加えて、移住が可能とする人たちは中間所得増以上であることも念頭に置いておく必要がある。この動きは家具・家事用品、乗用車、レクレーション関連の耐久財消費の増加に結び付いている。

 消費者物価においても、これらの価格上昇が観察される。例えば、新車価格は昨年7月に前年比でプラスに転じ、12月には2.0%増と上昇基調にある。中古車は8月に前年比4.0%増とプラスに転じ、9月以降は同10%を上回る上昇を続けている。

 物価については、輸入食料品の価格上昇に加え、国内産食料品価格も4月以降前年比で4%程度の上昇を続けており、潜在的な物価上昇圧力となっている。

〇 長期拡大続ける民間設備投資

 民間住宅投資同様力強い回復を示しているのが民間設備投資である。実質民間設備投資は19年10-12月期前期比マイナスに転じ、昨年4-6月期には前期比年率で27.2%と大きな落ち込みを記録した。

 その後、7-9月期には同22.9%増、10-12月期も13.8%増と強い伸びを示している。この結果、表3に示したように昨年10-12月期の設備投資水準は19年10-12月期より1.3%低い水準にまで回復している。

表3. 米国:民間設備投資、輸出等の推移 ( 実質 )

比較業(設備投資輸出)[2943]

 民間設備投資を牽引する要因である輸出等について眺めると、実質輸出等は昨年7-9月期以降大きく回復してきているが、それでも昨年10-12月期は19年10-12月期の水準より11%低い水準に止まっている。

 注目すべきは輸出等が回復するも水準が低い状況で、民間設備投資が力強く回復していることである。

 民間設備投資の中身を眺めると( 図4 )、輸出等が昨年7-9月期以降回復に転じたことを反映して景気に敏感な設備機械投資が回復に転じている。注目すべきは景気に左右されない独立的な投資である知的投資が昨年4-6月期の落ち込みも少なく、11年以降から継続して拡大し続けていることである。

設備投資[2939]

図4. 米国:実質民間設備投資の推移(2002年1-3月期=100)

 知的投資はICT、IOTと情報技術革新の進展がその背景にあり、新型コロナ・ウイルス感染拡大によるリモートワークなどの拡大が更なる拡大加速を促している。

〇 技術革新循環にある民間設備投資の長期拡大

 図5は総需要に占める民間設備投資の構成比率(実質)である。以前のレポートでご紹介したが、10年を底に上昇を示している民間設備投資比率は12年にそれまでの設備投資比率のピークを上回り、その後も大きく上昇している。

設備投資比率[2940]

図5. 米国:実質民間設備投資の推移(対総需要構成比、%)

 16年、17年と民間設備投資比率の上昇が足踏みする姿が観察されるが、それは景気に敏感な設備機械投資によるものであり、知的投資はその間も着実に拡大し続けている。

 10年以降の知的投資の長期間の持続的な拡大は、技術革新の流れを反映したものと判断できるものである。この技術革新による景気循環はシュンペータより提唱されたもので、「コンドラチェフ循環」と呼ばれる。

 「コンドラチェフ循環」は約50年周期の循環とされる。この点から現在の米国経済を眺めると、「コンドラチェフ循環」の上昇期25年に対して、10年から動き出した知的投資による技術革新は35年頃までの上昇期の中にあり、現在はまだ上昇期の半分の時期に達していないということになる。

 以前のレポートでも紹介したが、新型コロナ・ウイルスがパンデミック化している状況でも株価が高騰しているが、低金利と資金供給に加え、持続的な知的投資による技術革新の流れが大きな要因になっていると感じられる。ダウ工業株よりNASDAQの堅調さにもこの姿が映し出されていると考える。

 米国以外でも株価が高騰してきているが、各国の低金利政策や量的緩和による潤沢な資金供給という共通要因はあるが、基本的には米国の技術革新の流れがあり、技術革新の流れが鮮明でない日本など米国以外の株価をも押し上げているとみるべきであろう。

〇 技術革新が進展する中、所得格差拡大が顕在化する回復

 新型コロナ・ウイルス禍の米国経済を眺めてきたが、技術革新の流れが着実に進展する状況で、新型コロナ・ウイルスによる景気後退からの回復が観察される、

 しかし、新型コロナ・ウイルス禍からの回復の下で所得格差の拡大が着実に進行していることを忘れてはならない。必要な政策はワクチンの迅速で平等な接種であり、同時に「取り残された人々」を直接的に支援し、社会・経済の安定に最大限の力を注ぐことが重要である。これは技術革新の流れが観察されてない日本などの国々、すなわち経済成長を生みだす設備投資の弱い国々では米国以上に重要である。

 回復を示す米国であるが、CBOの予測でも労働市場の改善には相当の時間が必要との報告が示されている。民間消費支出や民間住宅投資など家計部門の需要が新型コロナ・ウイルス禍に対する需要増、それも中間所得層以上で支えられている状況がその背景にあると思われる。

 新型コロナ・ウイルス禍の下でも環境問題も含め新技術が大きく進展することで産業構造にも急速に大きな変革が進展していくことが見通せる現在、この流れに取り残されないよう個人、家計を支援していくことが最大の政策である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?