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スポーツによるケガを予防するために

今回紹介させていただく論文

「A new framework for research leading to sports injury prevention」
スポーツ傷害予防につながる新しい研究の枠組み

Caroline Finchによる2006年に発表された研究論文となります。
スポーツ傷害を予防するためには、その予防介入プログラムがスポーツ現場で受け入れられることが重要です。結局のところ、傷害予防プログラムを選手自身が主体的に取り組まなければ意味がありません。
今回の論文では、スポーツ傷害予防のための新たな型や枠組みを提案している研究となります。

この論文は先日私が通っている大学院の講義でも取り上げていただき、私自身が今後もアスレティックトレーナーとしてアスリートのケガの予防に努めていくためにも大切な考え方だと感じましたので、私の復習の意味も込めて皆様に論文の内容をお伝えし、実際の現場ではどうなのかというところまでお伝えできればと思います。

スポーツ傷害予防のゴールドスタンダード

これまでスポーツ傷害予防のモデルとしてゴールドスタンダードと言われていた研究があります。それは1992年にvan Mechelenらが発表した、スポーツ傷害予防のための4段階のアプローチです。

  1. 問題の抽出

  2. 病因・傷害メカニズムの確立

  3. 予防プログラムの導入

  4. 効果の評価

そしてステージ1を繰り返していきます。
これまではスポーツ傷害予防のために上記の流れに従っていくと良いとされていました。

新たなスポーツ傷害予防のための枠組み

そこでCaroline Finchは「Translating Research into Injury Prevention Practice framework(TRIPP)」という6段階のモデルを発表しました。

  1. 傷害調査

  2. 傷害発生要因の理解

  3. 発生要因から解決策を特定、パイロットテストの開発

  4. パイロットテストの介入効果の評価

  5. 実際のスポーツ現場で実装できるかの確認

  6. スポーツ現場において介入および効果の評価

傷害調査をし、傷害メカニズムを理解した上で、実験室で試験的に予防策を開発し、スポーツ現場に適用できるかを調査し介入、その後適切に評価する。

以上が簡単なレビューとなります。
詳細は引用文献からアクセスして皆さんも読んでみてください。

【引用文献】
Caroline Finch,A new framework for research leading to sports injury prevention
 Journal of Science and Medicine in Sport VOLUME 9, ISSUE 1-2, P3-9, MAY 2006

van Mechelen W, Hlobil H, Kemper HC.: Incidence, severity, aetiology and prevention of sports injuries. a review of concepts. Sports Med, 14(2): 82–99, 1992.


私の経験から…

これまでの私の経験から、実際にスポーツ現場に傷害予防プログラムを実装させるのは簡単なようで、なかなか難しいというのが現状かなと思っています。
監督やコーチは練習をさせたい。だから練習のために時間を使いたい。
アスレティックトレーナーはケガを予防したい。だから予防プログラムを取り組ませたい。
そのため、アスレティックトレーナーは関係職種とコミュニケーションをとって、それぞれの落とし所を見つけて対応していくことが大切です。

例えば、ウォーミングアップの15〜20分の中に取り入れたり、練習前後の時間で選手たちに取り組ませたり、シーズンを見た時に試合のない中断期間を狙っていつもより多く時間をいただいたり…

その前に私たちアスレティックトレーナーは、この競技はどんなケガが多くて、このチームに多いケガは何で、どのような取り組みをしているかを調査していきます。
そうした現場におけるエビデンスを用いて予防策を実践していくわけですが、科学的根拠に乏しかったり、研究室で研究したエビデンスレベルが高いものでも現場では受け入れられなかったり…
それぞれのジレンマがそこにはあるなと感じております。

そんな現場と研究のギャップを縮めるために、今回ご紹介した論文のように段階的なのステップを意識しながらスポーツ傷害予防プログラムを導入していくことで、少しずつスポーツ現場や研究の場が変化していくのかなと感じております。

最後に…

私が大学院に進学したのも、現場での経験や疑問を、スポーツ傷害予防の研究を通してエビデンスを得ながら、現場的な視点を持って解決していきたいという思いがあったからです。
私も引き続き努力をしていきます。
今回もお読みくださりありがとうございました!

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