アトリエ・タニュ

主にBlog(https://tanu.blog)に日々感じたことを書いています。学生…

アトリエ・タニュ

主にBlog(https://tanu.blog)に日々感じたことを書いています。学生時代には小説家か詩人になりたかったのに、気がついてみれば研究開発マネージメントをしていました。出来ることなら詩人になりたいのがこの場所です。

マガジン

  • 詩集 水曜のシジュウカラ

    Blogで時々公開してきたカジュアルな詩作をまとめています。

  • 旅 ブルターニュ

    フランス、ブルターニュ地方の旅をまとめています。フランス人の憧れのバカンスの地、ゴーギャンなどのポン・タヴェン派やバルビゾン派の画家が集まった自然豊かな地方、日本からはなかなか行く機会がありませんが、行けば必ず魅了される場所です。

  • 詩集 ネコトコトリ

    ネコがゴソゴソと狭い塀の隙間を抜けていくのを見ていると、猫が見ている世界が知りたくてウズウズしてきます。だから聞こえてくる音を詩にしてみました。

最近の記事

そんな大仰なものではない

そんな大仰なものではない。 少しばかりキナ臭い話がネットワークを通り過ぎ、 他人事のような災害の隅っこに立つ自分に時々気付いてしまうだけなのだ。 楽天的に過ごすには肩に重く、 人生を悲観するほどには生きるに困らない、 渇いた時間が流れていく。 それが何千年も続く今という時間である。 乗り合わせたその時代はどこへ向かうのか? 夏の終わりの写真を眺めながら、 それでも何も変わらない回転木馬のような時間にため息をつく。

    • 春休みってこんなだったかな

      春休みってこんなだったかな。 10代の子供達がけらけら笑いながら自転車で通り過ぎ、 昔ながらの電気店の店頭に置かれたTVでは、 ストライプの派手なジャケットを着たアナウンサーが、 場所が正確には思い出せないどこかの桜が満開になったと説明している。 滑っとした曇り空の夕暮れに、 コートを抱えたサラリーマンが、 スマートフォンにひきずられるように通り過ぎ、 その横の公園では、 もう暗くなって来たというのに子供達がすべり台を順番に滑り降りる。 暖かな日没のすっきりしない空気と曖昧な

      • 今日を動かすもの

        誰もがもう終わりだと言い出せないまま降り続く雨と 誰かが決心しないまますれ違い続けるいつもの朝とが 誰もが思い出そうとしない街の時計を動かし続ける 束の間の晴れ間に昨日まであった日陰を探す自分と 青くなった膝に張り付く湿った昨日を思い出す僕とが 前を歩く誰でもない誰かを追う私を動かし続ける あなたが次に向かおうと歩き出した水溜りの歩道と あなたが気にも留めない青色の驟雨を足急ぐ赤い傘とが あなたに誰かが譲る道の向こうで私を待つ今日を動かし続ける

        • The STAR BAR

          喉の奥に生ぬるい空気を感じながら、 突き刺さる塩辛い湿気に鼻を鳴らし、 ようやく明るさを増した朝一番の海へと腕を伸ばす。 昨夜の色とりどりの喧騒などなかったかのように 銀色のバーカウンターの窓はしっかりと閉じられ、 自分の靴がウッドデッキを擦る音がたったひとつのノイズ。 カラっと氷が動いたような気がしても、 それは昨日の記憶を置き忘れているというだけのこと。 日常に戻れば気づくこともない小さな記憶。

        そんな大仰なものではない

        マガジン

        • 詩集 水曜のシジュウカラ
          11本
        • 旅 ブルターニュ
          5本
        • 詩集 ネコトコトリ
          4本

        記事

          ブルターニュ:カルナック

          「一度は見る価値がありますよ。ストーンヘンジばかりが巨石文明の痕跡ではありません。ソールズベリーだって同じケルト文化圏なのです。そもそもストーンヘンジの石柱もカルナックの石柱もメンヒルと言いますが、ブルトン語ですからね。」  いや、もう少し分かり易く言ってませんか、そう言いかけた時、彼は顔を上げてこう続けた。 「ああ、失礼。カルナックはなかなか興味深い所です。まずは、案内所の上から眺めてみてください。全体像は空から見るしかありません。展望台になっている少し高い建物がありますか

          ブルターニュ:カルナック

          すれ違う朝

          ゆっくりと漂うコーヒーの微かに甘い香りを今日ときっぱりと切り分ける冷え切った歩道を、今日に無関心な爪先を靄のかかったような曖昧な黒革で締め付ける紐靴で急ぐ朝。踏み降ろす爪先の1ミリ下で、整然と敷き詰められた灰色の四角いコンクリートブロックの隙間が不安に震え、昨日の埃っぽい倉庫で単調に動き続けた右腕に後生大事に抱える赤茶色のバッグを持ち直す。 すれ違う空色のジョガーパンツを身につけたポニーテールの誰かは今日の汗をかくにはまだ早く、いつもの変わらないピンク色のクルーネックのシャ

          ブルターニュ:イル川

          「ミディ運河はたしかに良く知られています。大西洋と地中海を運河でつないでいるなど誰が想像できるでしょう。夏ともなれば、たくさんの船が行き交いますよ。でも、残念ながら、イル川にはミディ運河のような観光船が無いのです。夏のバカンスにでもミディ運河に行かれたほうが良いですね。」 運河沿いを少し歩きたいだけだと伝えては見たが、船で楽しむ冷えたシャンパンの方がまともだと信じているに違いなかった。 「えぇ、イル川沿いのハイキングも悪くありません。レンタルの自転車もありますよ。50km以上

          ブルターニュ:イル川

          つきとうみ

          星の重みから背骨をよじって逃げ出す前に 森の冷気にシワクチャの頭を捻り込む とこ とこ みち ある きと ころ ねこ とこ とり うんが みちそ ぞろあるき 東の大陸を流れゆく時代に 赤い果実から転げ出た種よりも重い空 みち とこ とり きみ とひ とり こと りと ねこ うんが みちふ たりあるき 西の大海を遥かに見晴らし くじらのため息よりも深く長く漂う小舟

          カンゲンクゲン

          湿気が溶けこんだシャツの重みに 上がらなくなった両肩と 白く凍った空に吸い込まれていく ヒリヒリ痛む首筋とを 忘れようと歩き出す昨日 ギッタン カンゲン クゲン ムゲン ラッカン キッタン ギーチョン グン 青野原に潜むスニーカー 蒸せかえる沈黙 耐えきれず鳴くキリギリス 蚊をつぶす手が誘う静寂 シンシン カンシン シカン オカン クウカン ゴッカン シータン ズン 白い息に痺れ始めたスニーカー 諫言を重ねたメッセージ 不意に広がる空から落ちる六花 音の染み込んだ土色の死骸

          Daily Life+

          なんでもない朝と特別でない夕暮れの隙間に日常を過ごし、 特別な朝となにかがあった夕暮れの隙間に追憶が紛れ込む。 春の始まりに降り忘れた驟雨をアルミ色の鳩が寄せ続けるように、 渇いた喉の奥に引っかかった昨日を熱いコーヒーで洗い流す。 雨雲が遠く見える地平線と28時間続く午後との境目は朧げで、 昨日までの異国がスーパーの買い物カゴの隙間に転げ落ちる。 そろそろ明日は来そうかと塗装の剥げ落ちた窓に反射する今日を眺め、 とっくに明日は過ぎたよと今日に反射する自分に言い聞かせる。 それ

          ブルターニュ:モルレー

          「夏のバカンスには良いところです。大西洋岸よりは案外静かですよ。ただ、おそらくはモルレーの街ではなく、少し北の街を話されているのでしょう。確かにモルレーからも船はありますが、おっしゃりたいのはもしかするとロスコフでしょうか。」 いや、海ではなく高架橋が見たいのだと言うと、顎髭をさすりながら彼はこう続けた。 「血塗られた歴史です。確かに美しい鉄道橋ですが、それ自体はさして古くはない。いや、新しい方が良いのです。教会を見下ろすような鉄道橋です。むしろその教会を訪ねられたらどうでし

          ブルターニュ:モルレー

          暖かくなるという事

          ただ閉じこもる言い訳、 黙して小雪の舞う季節。 散歩に出かける理由、 輝く日々に続くドア。 誰かを待つベンチ。 An excuse to just stay in, A season to fall in silent flakes. A reason to be off to stroll, A place to open off brilliant days. A vacant bench to wait for someone.

          暖かくなるという事

          ブルターニュ:ブロセリアンドの森

          「あぁ、ブロセリアンドの森ですね。今はパンポンの森と呼ばれています。とても美しい森です。興味をお持ちですか。遠方からの方には珍しいですね。これまでブロセリアンドの森のことを聞かれたことはほとんどありませんでした。まぁ、わざわざ遠くから訪ねるような場所ではないと思いますよ。もっと他にたくさん良い場所があります。そうだ、教会巡りなどいかがですか。この近くにもなかなか美しい小さな教会がたくさんあります。」 彼はそう言ってコーヒーを一口飲むと、遠くに見える教会の尖塔を目で示した。 「

          ブルターニュ:ブロセリアンドの森

          ネコトコトリ

          夏の市街地の地図よりも深く 黒猫の足音ほどに赤みがかった踵の釘 トコ ト トコ トコ ネコ トコ トリ トコ ネコ トコト コリ ネコ トコ トリ 重苦しい南風に連れ去られまいと 青い小石にしがみつく栃の実色の飾り羽 ンツ ンツ ナツ デニム ウミ ウミ ナツデ ニムニム クロ ニム ナツ デニムニ ムクロ 冬の幹の隙間よりも空虚に 小鳥の囀りほどに青みがかった朽ちた種 コト コ トコ ネコ ト コトリ トネコ トコト リネコ トコト 凍らない雨に流されまいと キンとした針金

          生きると言うこと

          日常のように淡々と時が過ぎ 日常のように終わりが曖昧なまま 過去が作られる そうやって 心のどこかに小さなトゲが残される 容赦ない自然の惨禍も 玄関先の蔓薔薇も 同じように傷痕を残しはするが 突きささったトゲは いつまでも 小さな痛みを与え続け 誰ひとりその終わりに気づかない 日常のみが ただ終わりを告げる それが日々を過ごすということ 自分には嘘をつかないこと だけどちょっぴり嘘をつくこと そうやって 僅かな幸せが訪れる その小さなトゲと 僅かな幸せが 瓦礫のように折り重

          生きると言うこと

          雨降りの昼下がり

          いつから雨が嫌いになったのだろう。 きっと嫌いになったわけじゃない。 ちょっと面倒になっただけなんだ。 だって、濡れた革靴を拭かなきゃいけないし、 自転車だとレインコート着なきゃいけないし、 待ち合わせに遅れるって電話したくないから。 雨が嫌いになったはずはない。 だって、雨の日のブーツだって持ってるし、 昨日だって傘を丁寧にしまったし、 黒い雲を見て目を背けたりもしなかった。 赤茶色の枯葉を踏み分けて近道を抜けたつま先に、 昨日蹴飛ばした空き缶のカケラがくっついているような

          雨降りの昼下がり