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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・シズオカ

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実在の自治体とは関係ありません。
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記事一覧

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・シズオカ #6

「矢崎先生、次の方で最後です」

「はい、わかりました」

ナースの声に応え、私は電子カルテに記録するためにキーボードを叩いた。

この左手の指も随分となめらかに動くようになったものだ。軽快に、まるでピアノを弾くかのように文章を打つ。

私はサイボーグ脳機能外科医だ。

専門はもちろんサイボーグ脳機能外科。私自身、頭部及び頸部、胸部、右上腕以外の身体すべてをサイボーグ化したサイボーグでもある。

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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・シズオカ #5

"副市長、謝罪会見にて抑揚のない声で平謝り"

"記者を恫喝!!「落涙機能を付けたらあんたは満足なのか」"

"ボディのマットブラック塗装に市民税金無断使用の疑い"

"ネクタイが悪趣味"

"第3世代K型の量産に伴い副市長の自我の存在意義が問われる"

……猥雑な言葉の羅列がSBC(静岡放送)ワイドショーのテロップで躍り続ける。

やはりテレビは低俗だ。サイボーグ及びアンドロイド差別にぎりぎり抵

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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・シズオカ #4

製造年月日は2002年12月7日。

私はアンドロイドだ。

「わたし」の自我は、戦争終結後に廃棄物処理アンドロイドとしてロールアウトされたY型建設機械。

当時の主な職務内容は、静岡市周辺に撃墜された戦闘機や旅客機などの飛行体及び戦車の残骸の処理。使えそうな部品や破片を回収し、そうでないものは処理施設へ送る。簡単にいえば、都市建造物の材料調達と掃除だ。戦争終結直後は、大破した戦闘機や戦車の中に生

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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・シズオカ #3

鼠が紛れ込んだようだ。

市長が山口県を空爆してからというもの、日本政府はもちろん、国際社会もこの静岡市を強く批判した。遺憾の意を表明ってやつだ。当たり前だよな。突如として理不尽に山口県を消し去った静岡市は再び世界の仇敵だ。
しかし、当然のことながら、軍隊だとか、戦闘機や戦車は絶対にここには来ない。報復のミサイルさえも飛んでこない。各国は、というより主に日本とアメリカだが、各々が海に艦船をいくつか

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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・シズオカ #2

……

……

……

「……将軍!沖縄米軍基地より3基のミサイル発射を確認。軌道からここ静岡市役所を目指しているものと思われます」

「到達予測時間167秒。弾体に加速装置の使用を確認」

「……フン、盗っ人の豚どもめ。良いだろう。望み通りにしてくれる。アメリカ大陸に向けて焦土兵器"さわだ"の使用を許可する。着弾地点は"15分前"のホワイトハウスだ!」

「了解。"さわだ"高速展開……5、4、3

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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・シズオカ #1

結論から言う。

山口県は滅んだ。

その言葉以上でも以下でもない。山口県はこの日、日本国の地図上から跡形もなく消滅した。スペースシャトルに乗って宇宙から地球を見たなら、日本列島のその位置には、きっと真っ黒な焦土が広がっていることだろう。

話を数時間前に戻そう。

8月。
蝉が鳴いている。
中部地方の都市圏の大学に通う僕は、夏休みを利用して生まれ育った静岡県の山間の村を目指していた。午前でさえも

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