見出し画像

四十にして惑わず〜ライカ

承前。

左下が記事のM3

「あんた、いくつだった?」

店主は修理中のカメラから目を離さずに言った。

このあいだ40になったわ

「ほうかァ、もっと若いかと思っとった」
そう見られることが多いんだよ

店主が修理していたカメラはペンタックスだった。
ここはこう言った古いカメラの修理を請け負う。
修理の看板をあげてるわけではないけど、いわゆる口コミというヤツなのだろう。(最近のは分かんないね)と言いながらなんとかしてしまう。

スタンドで机に固定された馬鹿でかいルーペを退けて、こちらに向き直った。

「まぁ、ええわ。〜万円でええよ」
ん?
「いや、M3」
いや、それは安すぎるでしょ」
誕生日のプレゼントだわさ
「いやいや...」

そんなやりとりだった。
レンズはライツのが今ないから、とりあえずロッコールの40mm付けときなよ、悪くないやつだからさ、と言われ、そのとおりにした。
レンズはタダ同然の値段がつけられていた。

ぼくとライカと馴れ初めはそんな感じだった。
特別欲しかったわけではなく、言ってみれば「思いつき」みたいな感じだ。

ライカはずっしりと重かった。
ファインダーは明るくて、二重像も分離がはっきりしていて見やすかった。
シャッターは静かで小さく「チャッ」と鳴る。
巻き上げレバーもミノルタのときに書いたけれど、とても気持ちよく親指に抵抗がかかり、軸の回転する感覚がよく分かるスムーズさが心地よかった。

家に帰ってからずっと触っていたと思う。
デジタルカメラにすると言って家を出たのに、前よりも古いカメラを買ってきたぼくに家人は呆れていたが、その業界で仕事をしている家人も「ライカ」の名前は知っていて、高級なものという認識はあったから興味深い様子で眺めていたり、持ってみたりしていた。

手持ちでM3で撮った 1番古いもの。
たぶん記事のM3のはず。

それから1年くらいした頃、二重像がズレるようになり店主の所へ持ち込んだ。

「ああ、古いのは仕方ないんだわ」

そう言いながら1週間くらいで治ると思うから電話するよ、と請け負ってくれた。
1週間というと半月はかかる。
それがこの店だった(笑)
なにしろ店主ひとりの店だからやむを得ないだろう。
ぼくは任せて連絡を待った。

ところが半月どころか、ひと月経っても音沙汰がない。
さすがに気になって電話をしてみたが電話も出ない。
おかしいな、と思いつつ店に行ってみたがシャッターが降りたままだった。

後日、店主の奥さんから連絡があった。
店主は急逝されたのだという。
もし預かっているものがあるなら、店に取りに来てくれないか、というものだった。

同じロールから

二重像はズレたままだった。
そのライカはしばらく使っていたが、他のカメラ店でブラックペイントのが欲しいというお客がいて...と請われて譲ることにした。
買った金額と同じ金額で売れた。

レンズはズマロン35mm、フィルムはポートラ400

それを元手に、またM3を買った。
前よりも程度のいい年式も新しいものだが、ブラックではなくシルバーだった。

それでいろんなものを撮った。
明るめのレンズとライカがあればなんでも撮れると思った。 

それから幾星霜、紆余曲折、右往左往...。
いやはや散財した。

今ぼくの持っているカメラは古い、そうは言っても実用範囲内のデジタルカメラばかりだ。
最新のは知らないけれど、ひと通りは使ったから、それなりの見識はあると自負している。
でもまぁ、そんなのは個人の感想であって意味なんかない。
どんなに最新で高級なカメラやレンズだろうと、どんなに安価でおもちゃみたいなカメラでも、自分が好きだ、これイイ!と思ったものが1番いいのだ。
今どきちゃんと写らないカメラなんてないし。

カメラはどこのメーカーのを使おうが写真が上手くなると言う事は無い。あるいはカメラはどこのメーカーを使おうが写真はよく映る。

chotokutanaka

これは慧眼であろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?