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続きの続き

僕が名古屋に戻ってからも、彼女とは頻繁に連絡を取り合った。
一番心配していた病気も少しづつ快方に向かっていて、地元での仕事も見つけた。

何度か名古屋に遊びに来た。
金曜の夜に来て、日曜の夜に帰る。
シンデレラ・エキスプレスだね、と笑った。

「顔が違う」
うん?
「こっちにいると、さ」
そう?
「うん」
ま、ジモトだからね
「そうだね」

何かきっかけがあった訳ではない。
僕は名古屋での仕事に次第に没頭する様になり、彼女も自分の仕事により深く関わる様になっていった。
若かった所為もあると思うのだけど、何かに没頭し始めると他の事が目に入りにくくになるのは、仕方がないことかも知れない。
本当に自然に、そして静かに僕らの関係は希薄になっていった。
言い訳をするつもりはないけれど、僕は彼女がとても好きだったし、それはいつも気持ちの何処かにあって、ある意味では拠り所になっていたのは事実だった。今なら慌てて結論など出さなくても良いのに、と思う。
でも僕、或いは僕らは、その中途半端な状態に馴染めないでいた。

「ね」
うん
「この先さ」
うん
「どうにかしようかなって思う?」
どうにか?
「どうにか」

彼女の言っている事の意味は分かっていた。
一般的に適齢期とされている二人であれば、相当の意思確認である。

今は何とも言えない
「そっか」
うん
「私もそうだ」
だよな
「うん」

呆気ないと言えば呆気ないかも知れない。
僕らはそれで終わった。

新幹線のホームで、いつもの様に見送る時、彼女は「じゃあ、また」と言った。

また

僕は随分間抜けな顔をしていたに違いない。
ホームは湿り気を帯びた風が吹いていた。
寂しいとか悲しいとかは全く感じなかった。
春が来て夏が来る。そして夏が終わる。
あえて言うなら、そんな感じだった。
始まりも自然なら、終わるのも自然だった。

帰りの車で聞いていたラジオから、その年最初の台風が南の海で誕生したと言っていた。
不思議にそんな事をはっきりと覚えている。
胸の奥底の辺りが「しん」と音を立てた。
信号待ちでタバコに火を着けようとしたら、咥えているタバコの先が揺れて上手く着けられなかった。

この話には、もう少しだけ続きがある。

こちらに続きます。

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