子育てのパターン
子どもが生まれると,親はどういう態度で子どもに接するかということを気にするようになります。いや,実際にはそんなに意識的に「どうしよう」と悩むのではなく,けっこう自動的に,それまでの経験から「こんなものだろう」というかたちで,子どもとの接し方が決まっていくようにも思います。
世の中の親御さんたちはどうでしょうか。
裏口入学スキャンダル
アメリカで大規模な裏口入学のスキャンダルが発覚して,大きなニュースになっていました。ハリウッド女優を含む裕福や親たちが,自分の子どもを大学に合格させるために,試験点数のねつ造,子どもが有利になるようなニセの診断書類のねつ造,賄賂を送ってやってもいないスポーツの推薦を取りつけるなどの裏口入学に関与していたことが疑われています。
そこまでする?という印象がある事件ですが,自分の子どもが有名大学に合格するならそれくらいのことをしてしまう親もいるということなのでしょうか。
子育てパターン
アメリカの臨床心理学者で発達心理学者のバウムリンドは,子育てのパターンを発表したことでも知られています。
そこで使われる単語も,学生時代には「要注意英単語」のひとつとして習いました。それは,「authoritarian」と「authoritative」です。似た単語なのですが,意味は随分と違います。
authoritarianは,「権威主義者」とか「権威主義の」,そして「独裁主義者」という意味もあります。親が何でも決めてしまう,というイメージの言葉です。
authoritativeは,有無を言わせぬという意味もあるようなのですが,「権威のある」「信頼できる」といったように,きっぱりとした態度でありつつ尊敬を集めるような態度のことを指します。
このふたつが,要注意の単語としてありまして,もうひとつのタイプがあります。
それはpermissiveです。「寛大な」とか「大目に見る」という意味がありますので,甘やかして自由にさせるような親の態度と言えるのではないでしょうか。
応答と要求
バウムリンドの親の養育スタイルはタイプ(類型)です。パターンとしてはとても面白いのですが,そこまで明確で極端な子育ての態度をもつわけではない親というのもたくさんいそうです。
先ほどの3つの子育てパターンは,2つの要素の組み合わせでできていると考えられています。それは,応答(responsiveness)と要求(demanding)です。
応答というのは,子どもの欲求や不足していることに対してどれくらい積極的に応じるかという態度のことです。欲しいものややりたいこと,悩みなどに耳を傾けて,相談に乗るような態度です。
要求は,子どもの成長や成熟を求めることを意味します。ルールを守らせ,社会に必要な礼儀作法やあいさつを教え,厳しく統制するような態度のことです。
組み合わせ
この応答と要求を組み合わせることで,さきほどの3つの子育てタイプになります。つまり……
◎権威的:応答も要求も強い
◎許容的:応答が強く,要求が弱い
◎権威主義的:応答が弱く,要求が強い
というわけです。
さて,「強い」「弱い」で組み合わせていますので,もうひとつタイプができますよね。応答も要求も弱いパターンです。このパターンは,そもそも子どもに対して積極的に関与しようとしていないパターンだとも言えます。論文によってはこれを「放任」とすることもあるようです。
養育スタイルとアイデンティティ形成
この養育態度とアイデンティティ形成との関連を検討した論文があります。自分が何者であるのか,何になりたいのかをはっきりと考えることや,それに基づいた行動をすることは,精神的な健康にとっても大きな要因となるものです。果たして,親の養育態度は若者たちのそのような傾向に関連するのでしょうか。
この論文では,大学生328名のデータを分析しています。親の養育態度は,小学校に入った頃から中学高校くらいまでの,父親と母親それぞれの様子を思い浮かべながら回答を求めています。測定内容は,先ほど説明した応答と要求についてです。そして,現在のアイデンティティの程度についても測定されています。
養育態度については,父親と母親それぞれについて,クラスタ分析で権威的,権威主義的,許容的,放任の養育態度を設定しています。
父親については,権威的な親のほうが放任の親よりもアイデンティティの統合得点が高く,アイデンティティ混乱の得点が低い傾向が見られました。アイデンティティ混乱については,権威的であることと権威主義的であることとの間にも差が見られました。
母親についても同様に,権威的な親のほうが権威主義的な親や放任の親よりもアイデンティティ統合の得点が高く,アイデンティティ混乱の得点が低い傾向が見られました。
結果を見ると,父親も母親も関係なく,また大学生が男性であっても女性であっても,同じような養育態度とアイデンティティとの関連が見られるというところが興味深い点です。やはり,父親も母親も,子どもの意見を尊重しつつ,きちんと統制して成長を促すような態度が,子どもの自立したこころにもつながっていくということなのでしょう。
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