タイプC:ガン患者に特有の性格は
以前,タイプAとタイプBという性格について記事を書きました。タイプAは,いつも急いでいて,精力的に仕事に没頭し,イライラしやすくて敵意や攻撃性を抱きやすい性格傾向のことです。そしてタイプBは,その逆の平穏でゆったりとした傾向のことを指します。
今回は,タイプAでもタイプBでもない,もうひとつの性格(行動傾向)について見てみたいと思います。その名も,タイプCです。
この研究の歴史は,心理学でよくある歴史の流れでもあります。
肺がんとパーソナリティ
ガン患者に何か特有なパーソナリティ傾向があるのではないかという研究は,早くも1960年代には行われています。
たとえば,KissenとEysenckの1962年の論文です(Personality in male lung cancer patients)。このアイゼンクは,心理学の教科書にもよく登場する,イギリスのパーソナリティ心理学者ハンス・アイゼンクです。
この論文では,116名の男性肺がん患者と,123名の非ガン患者対照群とを比較しています。そして,ガン患者は非ガン患者よりも,少しだけ外向的で神経症傾向が低いことを報告しています。
考察部分で,喫煙者と肺がん患者が異なるパーソナリティを持っていそうだということを示唆すると述べられているのですが,これは当時の研究の流れがありまして……それはまた別の話にしたいと思います。
乳がんとパーソナリティ
肺がん患者は男性だけでしたが,女性のガン患者でも同じような傾向は見られるのでしょうか。そこで,乳がん患者を対象にした研究も行われています。
この論文では,71名の乳がん患者を対象にして,パーソナリティ検査が実施されています(Patterns of expression of anger and their psychological correlates in women with breast cancer)。
そして,乳がん患者は神経症傾向が低い一方で,状態不安や特性不安は高い傾向にあることが示されています。ガン患者は情緒不安定性が低いにもかかわらず,不安な状態にあるというアンビバレントな状態にあることが示唆されています。
さて,こういった研究から,ガン患者に特有の性格傾向が導き出されていきます。
タイプCとは
以前記事に書いた,心臓疾患に結びつきやすいパーソナリティ傾向であるタイプA,健康なタイプBになぞらえるような形で,ガン患者に特有な性格傾向としてタイプCという名前が使われるようになっていきます。
タイプCの特徴は,感情を強く感じてもあまり表に出さない傾向や,感情そのものを押さえつけようとする傾向,ストレスに上手く対処できずに落ち込んだり抑うつ気分を抱きやすく,簡単にあきらめてしまうような内容を含んでいます。
そして,このようなパーソナリティ傾向を測定する尺度も開発されています。
さらに,ガン患者40名を対象とした調査が行われています。そしてガン患者にはタイプCに相当するグループが多いことが結果に示されています。
乳がんと心理変数のメタ分析
さて,研究が蓄積してくると,報告された統計値を統合してメタ分析するという研究が報告されるようになっていきます。あるひとつの研究だけで結論が下されることはなかなかなく,個々の研究はどこかで統合されて「だいたいこうなる」という結論が下されていくことが多いのです。
たとえばこの論文は,乳がん患者に特有な心理的特徴があるのかをメタ分析で検討しています(Psychosocial Factors and the Development of Breast Cancer: A Meta-Analysis)。
扱われている心理変数は,不安・抑うつ,児童期の家庭環境,葛藤—回避的なパーソナリティ,否認・抑圧,怒りの表出,外向性—内向性,ストレスフルな出来事,そして分離・喪失です。
ガンになることはストレスフルな出来事ですので,その出来事に対する対処方略やそれに伴うストレスフルな出来事を経験するのは当然なのですが,パーソナリティの要因に関しては効果量も低く,関連の安定性も高くないという結論になっています。
外向性と神経症傾向とガンの死亡率
そして近年になると,大規模な研究が可能になってきます。疫学調査にもパーソナリティ変数が取り入れられる機会が増え,オンライン調査も手軽に行うことができるようになってきているからです。
たとえば,外向性と神経症傾向が,ガンの発症や死亡率に関連するかどうかを検討した2010年の論文があります(Personality Traits and Cancer Risk and Survival Based on Finnish and Swedish Registry Data)。
この研究では,59,548名のスウェーデン人サンプル (1974年から1999年)とフィンランド人サンプル(1976年から2004年)が対象となっています。
結果としては,外向性も神経症傾向も,ガンの発症や死亡率とほとんど関連は見られませんでした,という結論になっています。
病気と性格
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