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イルカはハリケーン被害でトラウマを抱えるのか?

水族館に行くと,イルカたちがショーをしています。たまに,それぞれのイルカの紹介をするなかで,性格のようなことにも言及されることがあります。でも,イルカにも性格ってあるのでしょうか。

論文を調べると,当たり前のように検索結果に出てくるのですよね。

性格の判定方法

どうやって性格を判定するの?という疑問も浮かびそうです。動物の性格の判定方法は,おおきく2つに分けることができそうです。

1. 人間が評価する
2. 行動を測定してまとめる

人間が評価するというのは,動物を観察してその動物の様子を質問紙にチェックしていくというやり方のことです。「人間が判断するの?」とそれでいいのかとさらに疑問に思うかもしれないのですが,ここでもひとつ工夫することがあります。それは,ある動物の個体についてその様子をよく知っている複数の人が回答する,という方法です。そして,どのくらい判断が一致するのかを検討します。もしもそれぞれの人がある動物をバラバラに評価してしまうのであれば,その判断は信頼できません。しかし,ある程度一致するようであれば,たしかにその動物は何らかの固有の行動パターンを取っており,私たちに一定の印象を与えているということになります。ひとりが評価するのではなく,複数の評価の一致を見るという点がポイントです。

もうひとつは,行動をさまざまな観点から測定していきます。何を何回したのか,どれくらいの時間そこにいるのか,どれくらいの距離を移動したのか,ある場所から別の場所までどれくらい時間がかかったのか,などなどです。いろいろな行動上の特徴を,データにしていきます。そして,多変量解析(因子分析や主成分分析)を使って,その行動のデータを集約していきます。すると,ある行動パターンをする個体は別の行動パターンも行う傾向があるとか,ある行動をする個体ほど別の行動はしないとか,そういう行動次元のまとまりというのがわかってきます。そして,その行動のまとまりに「名前をつける」のです。「活動性」とか「行動抑制」とか,そういう感じです。これがいわば,性格のようなものとして扱われます。

ハリケーンを経験したイルカ

2005年8月末,アメリカ南東部をハリケーン・カトリーナが襲いました。ハリケーンが来る15ヶ月前に,ミシシッピ州にある水族館で飼育されていた16頭のイルカたちがビッグ・ファイブ・パーソナリティの評定を受けていました。

ハリケーンがこの地域を襲うと,この水族館は破壊されてしまい,イルカたちが飼育されていたプールも壊れてしまいます。ハリケーンが襲ってきたときに,半数のイルカはスタッフによって避難していましたが,もう半数は大丈夫だろうという見込みの下でそのままになっていました。ところが,残っていた8頭のイルカたちはあふれた水に押し流されてしまいます。

その後,奇跡的にこの8頭はメキシコ湾で発見されたそうです。海に流されていったのですからそのまま逃げ出しそうなものなのですが,自分たちで餌をとることはせず,人間が助けに来るのを海で待っていたそうです。

最終的に全てのイルカは,バハマ島にあるリゾート水族館に集められたそうです。

イルカの性格は安定するか

こういう状況にあったイルカたちですが,こういう機会を逃さないのも研究者です。ハリケーンが襲う前と襲った後で,イルカたちのパーソナリティに変化が生じるかどうかを検討するチャンスが与えられたのでした。その研究の内容は,この論文にまとめられています(Do Bottlenose Dolphins ( Tursiops truncatus ) Have Distinct and Stable Personalities?)。

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