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収束的妥当性と弁別的妥当性

心理学で性格や態度や価値観を測定する時には,質問紙形式のアンケートがよく用いられます。そこでは,質問文(疑問文になっていることもそうではないこともあります)と,いくつかの段階からなる選択肢(あてはまらないを0点,そこからいくつかの段階を経てあてはまるを5点とか)を複数用意して回答を求めます。

あくまでも質問は質問であって現実ではない,というのが基本的なスタンスです。文章で尋ねても正直に答えてもらえるとは限りませんし,ちょっとした言い回しで回答が変わってしまうということも,実際にはよくあります。

お手軽

現実にある現象をそのまま見るのではなく,間接的に別の方法で測定する,というのが調査です。その最大のメリットは「簡単なこと」にあります。何時間もかけて面接をしなくても,複雑な実験を計画しなくても,文章と選択肢を用意して「回答してください」とお願いすればお手軽にデータを得ることができる(でも回答するのは大変ですが)というのが調査です。

では,その現実と間接的な測定との間をどうやってつなぐのかということが問題になってきます。

妥当性

そこで間をつなぐのが妥当性の検証という作業です。

外部に明確な基準があるなら,その基準との関連を検討することになります。たとえば,抑うつの傾向をアンケートで測定しようとするなら,得点が高い人はうつ病に罹患する人が高いのではないかという予想が成り立ちます。そこで,通院歴や医師の診断が「外部基準」となり,その外部基準との関連を検討することが妥当性の検証となります。

こういった検証のことを基準関連妥当性と言います。

概念どうしの関連

とはいえ,いつも外部の基準があるものを測定しようとするわけではありません。たとえば自尊感情や肯定的な感情や楽観性や外向性や……こういった概念は,「こうなったらこういう人」という,外部から観察できる客観的な様子があるわけでもありませんし,何か決まった結果が生じることで判断されるわけでもありません。

こういう場合には,どうしたらよいのでしょうか。

ひとつの考え方は,すでに使われている他の心理尺度等々との関連を検討することです。

理論通り

ここで重要なことは,理論から考えるとどのような関連が生じると予想されるのかを明確にすることと,その予想通りの結果が得られるのかどうかを検討することです。

収束的妥当性(Convergent validity)……関連がある(大きい)と予想して,その通りの結果を得ること
弁別的妥当性(Discriminany validity)……関連がない(小さい)と予想して,その通りの結果を得ること

この2つの妥当性について書かれた古典的な論文が,Convergent and discriminant validation by the multitrait-multimethod matrixです。

この論文の中に出てくるmultitrait-multimethod matrix(MTMM)は,日本語では多特性多方法行列と呼ばれるものです。複数の方法で複数の概念を測定して,対応する部分には高い関連,対応しない部分には低い関連が観察されることを期待するという検討方法のことです。

ちなみに英語版のWikipediaには解説があります。

ネットを検索していてちょっと気になったのは,弁別的妥当性はDiscriminant validityともDivergent validityとも書かれることがあるということです。そして,Divergent validityと書かれている記事の中には,「Convergent validityはプラスの関連,Divergent validityはマイナスの関連を検討すること」と書かれているものがあるという印象がありますので注意が必要です。弁別的妥当性は,「関連がない(低い)こと」を検討するというのが本来の意味のはずです。

どうして収束だけではダメなのか

この2つの妥当性なのですが,論文を読んでいてよく見かけるのは収束的妥当性です。つまり

◎AとBとの間には関連があるだろう → 実際に関連があった

というプロセスです。

その一方で,弁別的妥当性を積極的に検討しようという論文については,あまり目にすることがない印象があります。では,どうして収束的妥当性と弁別的妥当性の両方が大切なのでしょうか。

たとえば,とてもポジティブな内容の尺度,とてもネガティブな内容の尺度を新たに作った時には,たいてい他のどんなポジティブ・ネガティブな他の尺度とも関連が生じてきてしまいます。そこで収束的妥当性だけを検討していると,何を持ってきても「関連がある」という結果を得てしまうことになります。「この尺度とプラスの関連があるから妥当だ」という結果が得られたとしても,実は,本来とは違うことが理由で関連が生じてしまっている,という現象です。

そういうときには「同じようなポジティブな尺度だけれど,理論的に考えてこの概念とは関連が小さいはず」と考えることで,新たに作った尺度の位置づけが明確になります。

もちろんそのためには,しっかりとその概念について考えて,他の概念とどのような関連であるかを明確にしておくことが大切です。調査をする前に,しっかりと概念について考えておきましょう。

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