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外向性は外交性でも社交性でもありません

芸能人の中で典型的に外向的な人といえば,誰を思い浮かべますか?
実際にお目にかかったこともありませんし,単なる印象にすぎないことは断った上で,私が知っている芸能人の中でいちばん外向的だなと思う人は,

明石家さんまさん です。

皆さんが持っている「外向性」のイメージと同じだったでしょうか。

今回は,当たり前のように使われているにもかかわらず,意外と誤解の多い外向性という言葉について考えていきたいと思います。

心理学の歴史においてこの外向性はとても重要な概念のひとつで,現在のパーソナリティ心理学でも多くの研究で用いられ,測定され,議論されている,長年重要な位置を保ち続けている概念です。人間の性格を大きく5つの次元(数直線)で捉えるビッグ・ファイブという研究があるのですが,外向性はその5つのうちの1つの次元でもあります。

目次

・外向性?外交性?
・外向性概念のはじまり
・外向性の中心
・外向性イコール社交性か
・外向性=ウェイ系?
・内向的な人は
・外向性を表す言葉
・外向性はコミュニケーション能力か
・外向性の国,アメリカ
・適材適所

外向性?外交性?

学生はよく「外交性」と間違えるのですが正しくは外向性(extraversionあるいはextroversion)です。授業で何度か訂正したのですが,どうしても「外交性」と書きたくなってしまうようで,そのうちこちらが辞書に掲載されるのではないかという勢いを感じます。

どうして「外交」と書いてしまうのでしょう。

辞書上の意味は明らかに違うのですが,この両者を混同するということは,外向性を「人との交わり方が中心の概念」だと捉えているのかな,と思ったりします。心が自分の外側に向かっているようなイメージでしょうか。

また,「外向性=コミュニケーション能力」と考えている人も多そうな印象です。しかし前回の記事(万能の言葉「コミュ力」)で考えてみたように,コミュニケーション能力は「あらゆる好ましそうな」意味を含む言葉として使われているようで,心理学で使う外向性よりもはるかに広い意味の言葉です。

ちなみに日本語のWikipediaの外向性と内向性の項目の記述の中にも「外交型」という記述があって「ちょっとそれはないんじゃない?」と思ってしまいました(2018年7月15日現在)。英語版を読む方が詳しい情報が多く良いと思います。

外向性概念のはじまり

外向性ー内向性という概念は,ユングの理論に由来しています。ユングによる外向性は心のエネルギーが自分の外側に向かっていて,一人でいるよりも誰かと一緒に,活動的で社交的なイメージです。また内向性は心のエネルギーが自分自身の内側,思考や感情に向かうイメージです。

ユングが研究していたのは1920年代なのですが,この外向性ー内向性という基本的な枠組みはその後も多くの研究に取り入れられていきました。ただし,現在パーソナリティ心理学で研究に使われる外向性ー内向性の意味は,ユングが想定していた意味から少しずつ変わってきています

また,アメリカで人気がある心理検査MBTIや,日本でもツイッターなどでよく流れてくる16Personalitiesは,ユングの理論に基づいています。どちらも,外向性ー内向性を軸に16種類に人々を類型化する点は共通しているのです。

外向性の中心

イギリスの心理学者ネトルは外向性の中心的特徴を,ポジティブな情動反応の個人差だと言っています。え,社交性やコミュ力じゃないの?と思うかもしれないのですが,外向性のコアな特徴はそこではないのです。

外向性の高い人は,心地よい感情を感じることに動機づけられています。そういう特徴を報酬反応性とも言います。そういうポジティブな反応をもたらすようなことがらに敏感なのです。それが時に仲間になったり,達成であったり,ロマンスであったり,興奮するような出来事であったりするのです。

このような,いつも活発で楽しい雰囲気で,刺激を求めるイメージが冒頭の明石家さんまさんにぴったりだと思います(もちろん私の勝手なイメージです)。

外向性イコール社交性か

外向的な人が社交的とイコールであると混同されやすいのは,仲間と一緒にいることが好きだからです。アメリカだと,パーティ好きな人物が典型的な外向性の高さを表現しています。

しかし,一緒にわいわい楽しむことは好きなのですが,対人関係がうまいかどうかは外向性には関係ありません。とにかく人と一緒にいて,わいわい楽しく過ごし,刺激を得ることに動機づけられるのが外向性の特徴です。対人関係の上手さは,別の性格特性(調和性とか)にかかわる問題なのです。外向的で人と過ごすのが好きでも,他の人から見たら心地よう対人関係を築いているとは限らないということです。

そういう意味で,確かに外向性と社交性は重なるところはあるのですが,必ずしも完全に一致するというわけではないと考えられます。

(ここから有料です。外向性の特徴をさらに明確にし,社会の中で外向性という性格をどのように捉えれば良いのかを考えていきます)

外向性=ウェイ系?

アメリカでの外向性のパーティ好きイメージって,日本の大学生だと最近では……ウェイ系でしょうか。

ウェイ系の特徴として挙がっている特徴は,
1. 遊びが好き,2. お酒が好き,3. 性欲が強い,4. 頭が悪い,5. 一人が苦手,6. チャラい,7. ノリで生きている
だそうです。

このうち,1. 2. 5. 6. 7. あたりは,外向性の強い人に見られる特徴に共通しそうです。3.も,外向性の高い人は性的経験の多さに関連するという研究知見がありますので合致しそうです。4.は,まわりからウェイ系の人を見たときのイメージでしょうね。ちなみに外向性は知能や創造性とは無関連です。

内向的な人は

自分は内向的なので外向的な人になりたい
と悩む人は多いようです。学生の様子や授業への感想を見ていても,外向的になりたいと望む人が多い印象があります。でも,そもそもなぜそうなりたいのでしょうか。内向的であることの意味をわかって言っているわけではないようにも思うのです。

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