性格は何かをしたらどれくらい変化するのか
「何かをしたら性格は変わるのですか?」という疑問は,本当に根強いものがあります。
進学をして新しい学校に通い始めたり,留学をして海外での経験を重ねたり,アルバイトをしたり学校を出て勤め始めたりすれば,性格は変わるのではないかと思うのではないでしょうか。
結論から言えば,性格(パーソナリティ)がある時点で固定化されてもうそれから変わらない,となってしまうことはありません。生涯かけて変化し続けると考えた方が良さそうです。
ただしそこにも注意点があるのです。
それは「あなたは何をもって変わるとみなしますか?」という問題です。
体重と同じ
体重が変わることをイメージしてもらえば良いと思うのです。そもそも,体重が何kg変化したら「変わった」と言うのでしょうか。これ,なかなか難しい問題だと思いませんか?
そしてもちろん,生活習慣が変われば体重も徐々に変化していきます。でも劇的に変わるわけではありません。
朝60kgだった体重が,夕方には50kgになっている……なんていうことはまずありません。何日もかけて,徐々に変化していくものです。
性格だって同じです。朝は外向的だった性格が,夕方にはとても内向的になっている,ということは考えにくいのです。そんなにコロコロとかわるようなものは,そもそも性格という概念の定義からしてもちょっと変です。
でも,体重が徐々に変化していく可能性があるように,性格も徐々に変化していくのも十分にあり得ることです。実際に,年齢とともに一定方向に変化していく様子も観察されます。
どれくらいの差
あるグループと別のグループである得点に差があるのかどうか,何かをする前と後で得点に差があるかどうかを問題にすることはよくあります。そういう場合,「ある」か「ない」かに注目しがちです。しかし,同じ「差がある」といっても,問題によってずいぶん取り扱い方が違います。
たとえば「差がある」といっても,靴の大きさを問題にするときと,身長を問題にするときと,野球場の大きさを問題にするときとでは,取り扱う数字が変わってきます。靴の大きさを問題にするときには1cmの「差」が大きな問題ですし,身長であれば10-20cmくらいの差が大きな,そして野球場の大きさであれば10mくらいの違いが大きな問題になるのではないでしょうか。
そこで,何らかの形で差が「ある」「ない」よりも「どれくらいの差があるのか」を問題にしするほうが,建設的な議論ができると考えられます。では,その「どれくらい」はどうやって決めれば良いのでしょうか。
効果量
最近では,心理学の研究でも差があるかないかだけではなく効果量を記載するようになっています。たとえば2つのグループのあいだの「差」であれば,標準偏差を基準にして大きさを考えます。
標準偏差を基準にするというのがわかりにくいかもしれませんので,具体例を出してみようと思います。
たとえば大人の身長の標準偏差はだいたい6cmくらいです。ということは,身長の差が6cmあると「標準偏差1つぶんの差」があるということになります。差が3cmだと「標準偏差0.5分の差」になり,12cmの差があると「標準偏差2つ分の差」になるというわけです。
そして,成人男性の平均身長はだいたい171cmで,成人女性の平均身長はだいたい159cmです。ということは,男性と女性の平均身長は「標準偏差2つ分の差」があるというわけなのです。
標準偏差○分
受験生に馴染みがある学力偏差値でいうと,「標準偏差1つ分」は「偏差値10」にあたります。偏差値は,標準偏差1つ分に「10」という数字をあてたものですのです。ですから,前回の模擬試験から次の模擬試験にかけて偏差値が5上昇したのであれば,「標準偏差0.5個分上昇した」ということになります。いかがでしょうか,なんとなくイメージはつかめるでしょうか。
ではいったい,どれくらいの「標準偏差○分」であれば「大きな差」だといえるのでしょうか。目安としては…
◎大きい……0.8
◎中程度……0.5
◎小さい……0.2
これくらいかな,とされています。大きな差は偏差値でいえば8,中程度の差は5,小さな差は2だということです。目指す大学の偏差値が2くらい違うというのは,無視するほどではありませんが些細な差なのです。
ただし,もちろん取り扱う問題によってこの目安も変わってくると考えてもらう方が良いと思います。
とにかくポイントは,「標準偏差いくつ分」で考えるということです。
パーソナリティの変化
何かをする前後で,パーソナリティが実際に変化するのでしょうか。どうやったらこの問題にしっかりと答えを出すことができるのでしょうか。
この問題に取り組んだ論文のひとつがこれです(A Systematic Review of Personality Trait Change Through Intervention)。この論文では,過去の研究を統計的に統合するメタ分析の手法を使って,この問題に取り組んでいます。
この研究で分析の対象になったのは,何らかの介入によってパーソナリティの変化を検討した207研究です。
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