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Big Fiveの批判ポイント

現在,心理学の研究以外でも当たり前のように使われている,ビッグ・ファイブ・パーソナリティですが,当然ながら批判もあります。

今回は,今から十数年前に出版されたハンドブックの内容を踏まえながら,ビッグ・ファイブ・パーソナリティを批判するポイントをまとめてみたいと思います。

この記事です(Critique of the five-factor model of personality)。

置き換わってきた

ビッグ・ファイブ・パーソナリティの5つの因子というのは,いつでも必ず自然に出てくるものではなさそうです。外向性と神経症傾向については,イギリスの心理学者アイゼンクのパーソナリティモデルにもなっていますので,比較的見いだされやすいのですが,開放性・協調性・勤勉性については,2000年代に入ってもその解釈がどうなのかとか,実際にどれくらい安定して見いだされるのかということが問題になってきていたようです。

アイゼンクのパーソナリティ・モデルは,外向性(E),神経症傾向(N),そして精神病傾向(P)と呼ばれる3つの次元になっています。頭文字をとってPENモデルと呼ばれることもあります。

このあたり,歴史的に完全な決着がつけられないままに,次第によく使われるモデルが置き換わっていったような印象もあります。

いや,実はこういうことは研究の流れの中でよく起きるのです。「多くの研究者が注目したもの勝ち」とか「多くの研究者が引用したもの勝ち」という側面が,研究の中にあるのは間違いありません。

それなりの結果

でもその一方で,「それなりの納得のいく結果が出てくるから使われる」という側面があるのも確かです。ビッグ・ファイブ・パーソナリティのそれぞれのパーソナリティ次元は,それぞれが特徴的な行動や現象に結びついていて,またそれなりに納得できる結果になっています。

そこで明らかに「おかしい」という結果が報告されれば,次第に注目されなくなり,その研究のシリーズは終息していきます。これもまた,研究の世界ではよく見る現象です。

ビッグ・ファイブは安定しているか

ビッグ・ファイブがいつも安定しているわけではないという点は,開放性でも見られます。実は開放性は意味が揺れやすくて,過去には知性と書かれたり遊戯性と書かれたり,項目内容を見てもけっこう内容がズレやすいという印象があります。

また,HEXACOモデルのこともあります。語彙研究からスタートして,5つの因子ではなく6つの因子を導いた研究です。このことからも,5つの因子というものを必ずいつでも,どこでも見いだすことができるというわけではなさそうです。

大まかすぎる

5つの因子がどれくらい予想される現象を説明するのか,ということも問題になります。

神経症傾向は,精神病理的な側面に全体的に関連する傾向があります。その他,開放性の高さはパラノイアや妄想的な思考に関連しますし,勤勉性の低さは自己制御の低い特徴,外向性は刺激を希求する傾向に関連していきます。

ビッグ・ファイブ・パーソナリティのそれぞれの次元はそれぞれ特徴的な社会の結果に結びついていくのですが,では「どれくらい関連するのか」という「関連の大きさ」を考えると,やや心もとない面があります。

そういうときによく行われることは,ビッグ・ファイブ・パーソナリティの下位次元(ファセット)に注目することです。ファセットに注目することで,特定の社会現象との関連はよりはっきりしてきます。ということを考えると,ビッグ・ファイブ・パーソナリティの枠組みは「おおまか」なものであり,おおよその方向性を知るための枠組みだと考える程度なのが良いのかもしれません。

まとめ

ビッグ・ファイブ・パーソナリティが人間のパーソナリティをうまく全体的にカバーすることができているのか?という問題は,まだまだ検討されるべき問題であると思います。またこれは,「どういう方法をとったらうまくこの問題を解決することができるのか」という問題でもあります。もしかしたら,技術的な進歩が問題の解決をもたらすかもしれません。

パーソナリティを考える上で,言語の問題を避けることはできません。この点も,何を基準にどのようにまとめるのが妥当なのか,さらに多数の言語に共通する要素を検討するうまい方法があると良いのだろうな,と思います。が,いつになったらこの点は解決されるのか,可能になるのだろうか……という気もします。でもきっと,誰かが取り組んでいく問題であろうとも思います。

あとは,複雑な相互作用をどのように扱っていくのかという問題です。現実は,ある特性がある環境において特定の結果が出る,ということが繰り返されて,さらにそれらが組み合わされて複雑化していくという現象が,さらに組み合わさっていくようなことが起きていくと考えられます。

ところが,私たちはなかなかそのような複雑さに追いついていけないという大きな問題があるように思います。ここでの限界は,もしかしたら人間の認識の限界にあるのかもしれないと思います。

心理学のモデルは,複雑な個人差やプロセスを理解可能な範囲で単純化するものではないでしょうか。どこまで私たちがその複雑さについていけるのか,どこまでうまく単純化することができるのか,この点についても次への進展があれば,また違った展開へとつながっていくかもしれないなと思っています。大きなデータがそれを補完するか,数理的なモデルの展開が牽引していくか,それはまだよくわかりません。

これから10年後,どのようにこの研究領域が変化していくでしょうか。研究の進展を期待しましょう。

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