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リサーチクエスチョンの4つのタイプ

以前,リサーチクエスチョンについて記事を書いたことがあります。こちらの記事です:『良いリサーチクエスチョンを立てるためには』。実はこの記事は私のnote記事のなかでも,一番読まれているもののひとつになっています。それだけ,多くの人が必要とする話題なのでしょうね。


オススメ本

最近,リサーチ・クエスチョンについて,面白い本が刊行されました。『面白くて刺激的な論文のためのリサーチ・クエスチョンの作り方と育て方: 論文刊行ゲームを超えて』です。

よいリサーチクエスチョンを立てることは,それに対する答えを与えることと同じくらい重要なことであり,よい研究を成立させるためにはよいリサーチクエスチョンを練っていくことが重要です。

この本の中で,リサーチクエスチョンの基本的な4つのパターンが書かれていました。Dillon (1984) による分類だそうです。次のうち,記述的な問いがもっとも基本的なもので,次が比較の問い,さらに説明的な問いと規範的な問いが続くという構造です。

記述的な問い

もっとも基本的な問いが,記述的な問いです。これは,何らかの現象を構成する要素を明らかにすることを目的とする問いとされています。

◎現象の本質:それが何であるのか
◎機能:それがどのような役割を果たすか
◎根拠:特定の性質をもつ理由

このような問いを立てることで,現象そのものを特徴づける内容に迫ろうとするのが,記述的な問いです。

比較の問い

次の比較の問いは,複数の現象の間の関係を明らかにしようとするものです。

◎随伴関係:ふたつの現象がどれくらい関連し合っているか
◎相違:ふたつの現象がどのように異なっているか

ある現象の内容がどのようなものかという,記述的な問いを基礎として,複数の現象の間の関係を明らかにしようとするのが,比較の問いです。

なお,「男女で自尊感情に差が生じるか」という問いと,「性別と自尊感情は関連するか」という問いは,同じことです。同様に,「外向性が高い人と低い人との間で自尊感情に差が生じるか」という問いと,「外向性と自尊感情は関連するか」という問いも同じです。外向性を高低に分けて自尊感情の平均値を検討することと,外向性と自尊感情の相関係数を算出することは,明らかにしようと試みていることは同じだからです。

説明的な問い

次の段階は,説明的な問いです。因果関係や,因果関係が成立する条件を探ることと言っていいかもしれません。複数の現象とその属性との間に存在する相互関係に関する知識を生みだすことを目的とする,と本には書かれています。

◎相関:2つの現象の属性の間に影響しあう関係
◎条件性:相関関係が第3の属性に依存する関係
◎因果関係:ある変数が別の変数に変化をもたらす関係

ちょっとわかりにくいかもしれませんが,「因果関係」「媒介関係」「調整関係」という,心理学でよく使われる関係性について述べられていると考えればよいのだろうと想像します。

◎因果関係:A → B (AがBの原因となる,AがBに影響する)
◎媒介関係:A → X → B (AがXを介してBに影響する)
◎調整関係:Xの場合 A → B (ある条件下で影響関係が成立する,関係性を変化させる変数Xが存在する)

調整関係は少しわかりにくいかもしれません。たとえば,男性では外向性と自尊感情に関連が見られるのに対して,女性では関連が見られない,というパターンです。この場合,性別が変数Xですね。

規範的な問い

最後に規範的な問いです。これは,「どうあるべきか」という問いです。

多くの場合,社会においてどうあるべきかとか,何をするべきかとか,より良い方向に進むためにはどうすべきか,といった問いの立て方になります。

規範的な問いに答えを出していくためには,ここまでの問い(記述的な問い,説明的な問い)への答えを用意していくことが必要になるとのことです。

問いから知識が生まれる

ここまでの説明を見てくると,特定の問いから特定の知識が生みだされてくるという様子がよくわかると思います。リサーチ・クエスチョンは,どのような知識を生みだすかを想定した上で設定するとよさそうです。

そして,より高次の問いは,低次の問いへの答えを必要とするという点もポイントです。まず対象となる現象がどのようなものか,という問いに答えが与えられて初めて,それらはどのような関係なのかという問いへと進んでいくことができるのです。いや,確かに,学生の皆さんが初めて研究に取り組むときの問いの設定の仕方を見ていると,この点が曖昧になっている印象があります。

よいリサーチクエスチョンを

卒業研究などで研究を始めるとき,問いの立て方の分類を頭に置いておくと,少しはヒントになるのではないでしょうか。また,この問いの立て方は,物事を理解しようと試みる際にも役立ちそうです。

目の前の問題に対して,頭の体操だと思って,問いを立ててみるといいかもしれません。

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