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【思い出】大学受験の前日、阿佐ヶ谷のホテルで

やや、刺激のある内容です。

時は2000年代。atoatokoは大学受験を控えていた。

我が家はいくつも大学を受けられるほど経済的に余裕があるわけではない。受験料だけでなく、往復や宿泊のお金もある。

それに、いっぱい受かっても、行ける大学はひとつ。受験の日に学校を休むのも、もったいない。むだにまじめな思いもあり、受けたのは合わせて三つの大学。このうち一つはセンター試験利用のすべり止めで、直接足を運んで試験に臨んだのは残り二つの大学だった。どちらも、欠席が最小限になる土日の日程だ。

一つ目の大学は第二志望で、学力的にはいけるという心づもり。第一志望に向けた予行演習と考えていた。

緊張とワクワクと

田舎の町から、大学がある大都会への一人旅。緊張しないわけはなかったが、ワクワクがあった。一人で悠々と車窓を楽しめる新幹線。親を気にすることなく、自分で食事が決められる。ファストフードに寄り道して帰ることもままならないほどの町にはない選択肢が、山ほどあるはずだ。

ひとり、新幹線に乗って

東京駅の長ーいエスカレーターに驚きつつ、一段高い中央線ホームへ。窓が曇ったオレンジ色の快速電車に揺られ、たどり着いたのは阿佐ヶ谷という街。全く土地勘がないので、大学との位置関係も街の意味合いもわからない。

駅の出口を間違えたのか、迷いに迷う。駅から30分ほど歩き、やっと今宵の宿泊先のホテルへ。看板のフォントからして、新しくはなさそうだ。父親がJRのびゅうプラザで申し込んだ安いプランだから、期待はできないと思っていたけれど。とにかくチェックインして、シングルルームに入る。

古いながらも、ひとりならではの高揚感はなにものにも代え難い。いや、僕は試験を受けにきたのだ。ちょっと勉強して、お楽しみのご飯だ。待った、少しだけテレビを見よう。

チャンネル、いっぱい映るなー…田舎とは違うわ。あのテレビ東京も映る。リモコンでパチパチとチャンネルを変えてみる。


ん、ん、なんだこれは。これは…。

映像

学ラン姿の高校生には、あまりに刺激の強い映像であった。ちょっとレトロ風味の、アダルトな映像だ。

そういうジャンルのちゃんとした映像は、それまでまったく見たことがなかった。東京ではこんなチャンネルが見られるのか。ちょっとだけ、と思いつつ、釘付けになってしまう。

2、3分眺め、ドキドキしたところで映像が乱れてしまった。WOWOWと同じ、スクランブルがかかったのか。パチパチし直してもやはりスクランブルは解けない。

備え付けのパンフレットを見る。ここから先は…横にカードを入れないといけないのか。で、そのカードは有料で、買わないといけないのか。1000円…

ほぉ…これが東京か。

遮るものは何もない

きょうは、いつもの日とは違う。親はいない。ちょっと高いご飯を食べても余るくらいのお金をもらっている。

たまに羽を伸ばしても、いいんじゃないか?

いや、何しに来た。僕は試験を受けに来たのだ。こんなものを見て舞い上がってどうする。

ちょっとだけ、ちょっとだけ…。いや…

エレベーター前の自販機。右を見て、左を見て、誰もいないことを確かめる。結局、1000円出して、楽しんでしまった。終わると、深い後悔にさいなまれた。

楽しみのお食事

出発前、楽しみにしていたご飯。何を食べたのか、まったく覚えていない。それくらい、翌日の試験で大失敗し、ネットで不合格の通知を見て担任に報告したときのショックは強烈だった。

「1000円」のせいなのかは分からない。けれど、僕はそのせいだと思った。

予行演習で学んだこと

ある意味、スイッチが入ったのかもしれない。それからは、第一志望に向け、なりふりかまわず勉強した。2回目の上京では、あのチャンネルは絶対に見ないと誓った。

次に泊まったホテルは阿佐ヶ谷よりも立派でキラキラ。フロントのお姉さんはキットカットをくれた。テンションは上がった。あのチャンネルはその日も手招きしていたけれど、振り払った。

出来は手放しで良かったとは言えないけれど、結果として、大学には合格した。

予行演習のおかげでスイッチが入ったからなのか、よこしまな気持ちを捨てられたからなのか。それは分からないけれど、ひとまず大学受験は終わった。

大学受験のシーズンが来るたび、思い出す話。

アドバイス的なものを期待された方、すみませんでした。


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