見出し画像

ドラゴンシェフで作った「じゃがいもの美味しさを引き出す料理」の話

さて、今回も作らない。
でも、レシピは構築したので、公開したいと思います。

僕が指名されない理由は簡単。
僕は5位なので、指名してもあまりメリットがないから。

僕なら、上位3名のうちの誰か(よほどの理由がない限り1位を指名する)と、次の指名権のある自分より一つ上の順位を選ぶなー。

そうすれば、1位か次の出演権を獲得できるので、色んな意味で美味しいと思うから。

それはさておき、今回の課題食材は「じゃがいも」

例によって、テーマと評価のポイントが定められている。以下のとおりだ。

テーマ:「ジャガイモを使った独創的な料理を作れ」
評価のポイント:「ジャガイモの魅力を引き出した料理になっているか?」

ジャガイモといえば、須賀さんの師匠にあたるロブションの代名詞ともいえる「ジャガイモのピュレ」がある。

そのロブションのレシピを参考にして、僕も過去にジャイものピュレに挑戦したことがあるが、めちゃめちゃ手間がかかって大変だった記憶がある。

なかなかにハードルの高い課題だ。

できれば、戦いたくない。w

だって、否応なしに、あのロブションと比べられるわけなので、参加者みんなそんな心持ちだったんじゃないかな?

そうなってくると、ロブション出身者の山下泰史(やました たいし)くんがどんな料理を作ったのか気になるが、彼もまた今回も指名されていない。

生産者の紹介:尾藤農産「雪室熟成越冬ジャガイモ」

「野菜は獲れたてが美味しい」というセオリーがありますが、こと芋類に関していえば、獲れてからしばらく一定の環境下で熟成させると美味しくなりることが知られている。(正確には、甘くなる)

芋類の一部は、温度や湿度をコントロールしながら一定期間保管することで追熟していく。
これは、自身の持つ酵素の働きで澱粉が時間の経過とともに糖化するため。糖化とは文字通り、澱粉質が糖と化すことで、甘みだけでなくコクが増し、身質もしっとりとしてきます。

ちなみに、一般的な追熟期間は、ジャガイモで2週間程度、サツマイモで2ヶ月程度です。

ここで、今回の食材に刮目して欲しい。

雪室熟成とは、雪に埋めて保管し、熟成を促す方法で、雪国でジャガイモを作られている農家の方達が時折使う熟成方法で、通常より手間がかかるし、かなりマニアックなジャガイモです。一般的な熟成期間は、8ヶ月ほど。(芋の澱粉含有量によって変動する)

が、尾藤さんのところでは、越冬させる。ひと冬ではなく、ふた冬、み冬と越冬させる。つまり、熟成期間は年単位。

いい意味で、狂っておられる。

実際に、現場で男爵のライマン価と糖度を計測したところ、ライマン価は13.7%、糖度は12%を超えていました。
通常の男爵は、ライマン価は13%前後で、糖度は8%くらいなので、異常値なのがわかると思います。

【ライマン価、糖度とは?】
・ライマン価: 澱粉の含有率
・糖度: 糖類(果糖、ブドウ糖、ショ糖など)の含有率

つまり、100gにそれぞれが〇〇g存在しているということを示しています。

糖化してなお、ライマン価13%を維持しているということは、そもそものライマン価が高いことを示しています。そして、まだまだ甘くなる余地があるということ。

レシピ名は「発酵ポタージュ」

そんなわけで、今回のレシピは、雪室熟成越冬ジャガイモの澱粉を限界まで糖化させるレシピを以て、独創的でジャガイモの魅力を引き出した料理とさせていただくことにします。

澱粉を糖化させるために必要な酵素を発酵物から補い、温度コントロールで糖化を促進させる。ざっくりいうとそんなレシピです。

【材料】
<野菜出汁>
野菜の皮 500g
水 500cc

<ジャガイモのペースト>

じゃがいも 300g
野菜出汁 150g
塩 5g
モルトパウダー 5g
塩麹 5g

<ネギオイル>
長ネギの青いとこ 適量
ロックチャイブ 少量
米油 適量

<浮き具>
軟白ネギ 適量
ジャガイモ 適量(軟白ネギより多めにする)
ディジョンマスタード 少量 
米酢 少々

【作り方】

<精進出汁>
野菜の皮(玉ねぎ、じゃがいもなど)を圧力鍋で、加圧開始から15分煮る。
蒸気が出るかでないかくらいのギリギリの火加減を維持して、香りをなるべく逃がさないようにするのがポイント。

画像1

画像2


画像3

濾し器を使って濾した後に、コーヒーフィルターを使って、澄ませる。

画像4

<ジャガイモペースト>
じゃがいもの皮を剥いて、2cm幅の半月切りにして、圧力鍋で加圧開始から7分煮る。このときも、ギリギリの火加減を狙うと香り高く仕上がります。

画像5

出汁150gと共にブレンダーに材料を合わせて、ペーストにする。

画像7

この時に加える麹とモルトパウダーには、ジアスターゼという酵素がたっぷり含まれています。この酵素の力で、澱粉を糖化していきます。

画像7

低温調理器に65℃に設定し、真空パックしたじゃがいもペーストを沈めて30分放置。ビールのマッシングの要領で、澱粉を更に糖化させる。

画像8

ちなみに、調理前の男爵の糖度は9.2%でしたが、この調理工程を踏むと、15.1%まで上がりました。

画像9

<浮き具>
軟白ネギは千切りにして、沸騰したお湯で10秒煮て氷水に取り上げる。
じゃがいもも千切りにして、同じように1分茹でて、氷水に取り上げる。

シャキシャキした食感とフレッシュ感を加えるために、ジャガイモ自身を浮き具にしてみたが、食感に面白さが欠けたので、ネギの香りの弱い軟白ネギを同じように千切りにして加えた。

画像10

よく水気を切ってから、ディジョンマスタードと野菜出汁、米酢を和えておく。

<ネギオイル>
ネギの青い部分とロックチャイブをオイルと合わせて、ハンドブレンダーで砕いて、弱火で加熱して香りを移す。

画像11

じっくり根気よく炒めていくと、ネギのクロロフィルが油に溶け出し、鮮やかな緑のオイルが取れる。

画像12

これを濾してから使う。
ネギオイルは、見た目と香りのアクセント。食感の儚さを求めて、浮き具に軟白ネギを使ったので、香りを増強してあげる効果も狙っている。

ちなみに、このネギ油は、参加者の山下くんに教えてもらった技法で、もともと僕自身、香味油をよく作るのですが、ネギのクロロフィル(葉緑素)がこんなにきれいに出ることは知らなかった。

山下くんとあたったら、べつの香味油に変更する予定だったのだけど、作らなかったのでこちらで紹介したい。

画像13

<盛り付け>
保温しておいたジャガイモペーストを器に優しく注ぎ、浮き具を盛り付けたら、ネギのオイルを数的垂らす。

画像14

画像15

なかなか、出番がめぐってこないけど、毎回自分と戦っている。

審査員のツボを押さえながら、自分の表現をブラさない。
僕みたいなオールジャンル(強いていえば、創作料理)の料理人は、これが結構難しいような気がしている。

スパイスを高評価していたら、使いたくなるし、
コンセプトの複雑さを指摘されれば、簡素にしたくなるが、

あくまで、アーティストとして出場しているわけなので、ここはブラさないように注意して、次回に臨もう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?