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【シロクマ文芸部】『りんご箱殺人事件』(解決編)

*こちらは【シロクマ文芸部】『りんご箱殺人事件』(事件編)の続編になります。未読の方は先に読まれることをお勧めします。

   ◇     ◇

 『りんご箱殺人事件』は掌 延琉てのひら のべる探偵の活躍により、あっけなく幕を閉じた。犯人も自分の罪をすんなり認めたという。こういう時、見苦しいくらいに自分の罪を否認したり、抵抗したりする犯人もいるが、今回は幸いだったというところだろう。
 
 さて、事件が解決した夜である。
 延琉とその助手は、掌探偵事務所にいた。
「先生、どうしてあの人が犯人だと分かったのですか?」
「助手のジョシュ君。君は本当に勘が鈍いね……あのダイイングメッセージの謎がまだ分からないなんて、君の脳みそは半分くらい豆腐でできてるんじゃないのかい?」
「先生……先生は本当に口が悪いですねぇ……分からないものは分からない。しょうがないじゃないですか」
「しょうがなくなんかないよ。分からないんじゃなくて、考えてない。そう思っちゃうけどね……。ま、いっか。いいかい? あの現場をよーく思い出してごらん?」

容疑者は以下の3人
 赤井 実果(あかい みか)
 後藤 凛(ごとう りん) 
 林 豪太(はやし ごうた)

「はい、思い出しました。死んだ男は間違いなく、りんごの箱の間に頭部が挟まれていました」
「そう。大事なのはね、どうしてりんごの箱だったのかってところだよ。他の箱もあったのにりんごの箱を選んだ。そこに意味があったんだよ」

 ジョシュは考え込む。確かに柿と書かれた箱もあった。柿とリンゴの違い。すぐに思いつくのは色の違いであるが……。

「たしかに、あそこには柿の箱もありました。柿とりんごの違いと言えば、色。色を伝えたかったとも考えられますが……」
「そう、たしかに色の違いはある。しかし犯人は赤井美果さんではなかった。まるでこの事件のために用意されたような名前であるが、彼女ではない。もしも彼女を示したいのであれば、箱の間に頭を挟める必要なんてないからね」
 述琉探偵の言うとおりである。赤い実を示したいなら、それだけを示せばいいはずだ。
「いいかい? 君はもう犯人の名前が分かっているんだから、名前をよくよく考えれば、すぐにダイイングメッセージの意図に気づくはずなんだよ?」

 ジョシュはまた考え込む。柿ではなくりんごを選んだ。だとするならば、りんごという名前自体を示したかったことになるはずだが……。

「りんご……それ自体が犯人を示している、とも考えられますが……」
「そう、たしかにそれ自体が名前を示しているんだ。だが、犯人は林豪太さんではなかった。りんとも読め、続けて読むとりんごうたとなりりんごが現れる。だが、彼でもなかった。彼だとしたら、先ほどと同じくりんごの箱に頭を挟める必要がないんだ……」

 そうなのだ、犯人は後藤凛さんだった。ジョシュはもうそれを知っている
 だが、あのダイイングメッセージがどうやって後藤凛に結びつくのかが分からなかった。

「先生、やっぱ僕の頭じゃダメみたいです。多分8割がた豆腐でできてるんだと思います。あのダイイングメッセージの解き方を教えてください」
 ジョシュは頭を下げる。
「8割じゃないよ、きっと10割だねジョシュ君。答えが分かっていて辿りつけないなんて、私の助手失格だよ。もうちょっと勉強をするべきだ」

 そう言った後、延琉は優しい顔になる。
 何かを教えてくれる時、必ず延琉はこの顔をする。
 口は悪いが根はやさしい人間である。

「いいかい? そのままなんだよ。りんごの箱の間に頭部が挟まっていた。それが被害者が残した犯人の名前を示すダイイングメッセージなんだ。りんごは漢字で書くと『林檎』。その間に頭が挟まっていた。だから『林・頭・檎』になる」
「あぁ…そうか!」突如、ジョシュの頭の中にひらめくものがある。
「うん、わかったみたいだね」
「林、頭、檎! 逆から読むとご・とう・りん! 後藤凛さんになります!」
 もやもやしていたものが晴れてジョシュはすっきりする。
「ご名答」延琉はそう言って頷きながら、よくできましたと言わんばりの笑顔を見せる。「まぁ、逆から読まなきゃいけないことがうまく示せてないあたり、及第点のダイイングメッセージってところだけどね」
「それ、死に際の人が残したメッセージに対して言うことです?」
 
 やっぱり述琉探偵は口が悪い。

こちらの企画に参加させていただきました。
勢いで書いたままに事件編を先に投稿してしまったので、もうちょっと練れたところがあったなぁと思いつつ、解決編を書いていました。いやぁ、全部書いてから投稿すべきですね。

#シロクマ文芸部
#りんご箱

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