見出し画像

コロナ禍での自殺者数の変動についてのメモ【雑記】

自殺者数16%増加」のニュースで話題となっていた、Nature誌掲載の論文について、その結果を大まかにまとめました。

【出典】Tanaka, T., & Okamoto, S. (2021). Increase in suicide following an initial decline during the COVID-19 pandemic in Japan. Nature Human Behaviour, 1–10. https://doi.org/10.1038/s41562-020-01042-z
【注1】論文の結果や図表はそのまま引用していますが、それに基づく解釈については筆者の見解が中心であり、論文では直接的に書かれていないことも一部含んでいます。

【注2】本記事(および論文)で対象としているのは、近年の自殺状況と比較した際の2020年の自殺状況の「変化」であり、実数としての大小を扱っているわけではありません。また、もともと自殺者数が少ない層では、少数の増加でも大きな変化率となりやすい(あるいは、統計値が安定しない)という問題もあります。本記事では「〇%増加/減少」という表現を使ったものの、これらの数字にはそこまで大きな意味はないと考えています。

①全体的な変化・男女別・年齢層別の変化〔Fig.2

・2020年2月から6月を第一波、同年7月から10月を第二波と定義して、近年の自殺者数との変化率を検討した。その結果、全体としては第一波の時期に14%の減少〔Incidence Rate Ratios; IRR=0.86, 95%CI=0.82-0.90〕、第二波の時期に16%の増加〔IRR=1.16, 95%CI=1.11-1.21〕がそれぞれみられた。

(以下、詳細な統計値は省略する)

・性別ごとにみると、第一波の時期に男性で14%の減少、女性で18%の減少がみられる一方、第二波の時期には男性で7%の増加、女性で37%の増加となっている。第一波の時期には男女差がみられなかったが、第二波の時期は女性における自殺者数の増加がより大きいことがいえる。

・年齢層別の検討として、子ども(20歳未満)、成人(20代~60代)、高齢者(70歳以上)の3つの層に分けて検討を行った。第一波の時期は、子どもではっきりとした減少がみられず、成人では15%、高齢者では13%の減少がみられた。第二波の時期には、子どもで49%の増加がみられ、成人で17%、高齢者で11%の増加がみられた。

すなわち、子どもは第一波の時期でも減少しておらず第二波の時期に急増するという傾向があり、成人や高齢者は第一波の時期に少なく、第二波の時期に多いという傾向があったと言えるだろう。

画像1

【Fig. 2】The effects of COVID-19 pandemic on suicide across gender and age groups using DID and event-study approaches.

画像2

【Supplementary Table 2】Full results of the effects of COVID-19 pandemic on suicide across gender and age groups using DID.

画像3

【Supplementary Table 3】Full results of the effects of COVID-19 pandemic on suicide across gender and age groups in each month using DID.

※補足
・子ども(20歳未満)で第一波の時期の減少がみられないのは、6月の時点で自殺者数が増加寄りに転じているから(IRR=1.24)とは言えそうである。ただし、95%信頼区間も含めて解釈すると、4月や5月の自殺者数が明らかに例年より減少しているとも言えない。このあたりは、子どもの自殺者数を扱う際の統計的な限界と言えるだろう。

・第二波については、Figure 3c においても扱われている。ここでは、女性成人(44%増加)と女性高齢者(27%増加)において増加が著しいことがわかる。Supplementary Table 3 と合わせて考えれば、2020年10月の増加の影響が大きい(女性:82%増加)ことが示唆される。

画像11

【Fig. 3】Heterogeneous effects of the COVID-19 pandemic with age groups and gender, before and after the state of emergency and school closure.

②緊急事態宣言の影響 - 男女・年齢層別〔Fig.3

・緊急事態宣言下(4月・5月)と、それ以外の第一波の時期(2月・3月・6月)、そして第二波の時期(7月から10月)について、男女別に成人(20代~60代)と高齢者(70代以上)の変化率を検討。

・緊急事態宣言下では、男性成人(21%減少)と女性成人(27%減少)において明確な減少がみられ、緊急事態宣言以外の第一波の時期よりも2倍ほど大きく減少(男性成人: 10%減少; 女性成人: 15%減少)している。

・緊急事態宣言下の男性高齢者(15%減少)と女性高齢者(20%減少)については、緊急事態宣言以外の第一波の時期と大きな差はない(男性高齢者: 13%減少; 女性高齢者: 18%減少)。

画像4

【Fig. 3】Heterogeneous effects of the COVID-19 pandemic with age groups and gender, before and after the state of emergency and school closure.

画像5

【Supplementary Table 5】Full results of the heterogeneous effects of the COVID-19 pandemic among age groups and gender, before and after the state of emergency and the school closure.

③一斉休校の影響〔Fig.3; Fig.4

・一斉休校の効果については、一斉休校前(2月)、一斉休校期間中(3月・4月)、一斉休校後(5月から10月)という3つの期間を分析している。

・子どもを対象に分析〔Fig.3d〕すると、一斉休校の期間前・期間中には明確な減少がみられないものの、一斉休校後に35%の増加がみられる。一方で、生徒を対象に分析〔Fig.4f〕すると、一斉休校期間中に大きな減少(49%の減少)がみられる一方で、それ以外の期間の増減はみられない。

・子どもの自殺はそもそも実数が少なく、95%信頼区間もかなり広く、また使用されたデータの限界などもあるだろうが、あえてこの結果をそのまま解釈すれば、一斉休校期間中に生徒の自殺は減少したが、学校に通っていない若年層の自殺の影響で「子ども」(20歳未満)の自殺は減少しなかった一方、一斉休校後の期間に生徒の自殺は特に増加していないが、学校に通っていない若年層の自殺の影響で「子ども」の自殺は増加した、と言える。

画像12

【Fig. 3】Heterogeneous effects of the COVID-19 pandemic with age groups and gender, before and after the state of emergency and school closure.

画像6

【Fig. 4】Heterogeneous effects of the COVID-19 pandemic according to job status.

画像7

【Supplementary Table 6】Full results of heterogeneous effects of the COVID-19 pandemic across job status.

④労働状況の影響〔Fig.4

・労働の状況によって自殺傾向に大きな差はなく、労働状況によらず、第一波の時期には減少傾向、第二波の時期には増加傾向がみられる。

自営業(self-employed)の人は第二波の時期においても自殺者数は多くない(5%減少)。また、専業主婦(Housewives)は、第一波の時期においても自殺者数が増加傾向にあり(17%増加)、第二波の時期にはより顕著な増加がみられる(132%増加)。

画像8

【Fig. 4】Heterogeneous effects of the COVID-19 pandemic according to job status.

⑤地理的要因による差〔Fig.5

・新型コロナの起こる前に自殺率の高かった地域と低かった地域を比較すると、もともと自殺率の低かった地域に注目すると、第一波の時期でもあまり減少はみられず、第二波の時期に大きく増加している

・逆に、もともと自殺率の高かった地域に注目すると第一波の時期において大きく減少しており、第二波の時期には大きな増加がみられない

・新型コロナの感染状況による差や、一人あたりの収入(の地域差)による自殺傾向のちがいはみられず、一貫して第一波の時期には減少傾向、第二波の時期には増加傾向がみられる。

画像9

【Fig. 5】Heterogeneous effects of the COVID-19 pandemic across geography.

画像10

【Supplementary Table 7】Full results of heterogeneous effects of the COVID-19 pandemic across geography.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?