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出産によるキャリアの断絶、どう立て直す?【ゲスト回:イラストレーターふるりさん】

イラストレーターふるりさんは、夫の転勤についていくが、妻の気持ちを考えない夫に怒りと絶望を感じ、別居を決意する。

その後、1年間の別居期間を通して、二人が関係性を再構築された話は前回お届けしました。

今回は、ふるりさんがイラストとは全く関係のないパート勤務からイラストレーターとして自立されるまでのお話を伺います。

WEBコミックエッセイ執筆、ジェスチャードローイング講師、学生の課題採点、イラストレーターなど、幅広く活躍するふるりさんは、どのようにして経済的に自立できるようになったのか?

出産によってキャリアが断絶されたと感じている女性には役立つヒントが詰まっており、また、男性にとっては妻のキャリアへの視点が得られる機会になるかと思います。

前回のお話はこちら。

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出産と女性のキャリア

ふるりさんは結婚後、専業主婦として家庭を支え、夫の転勤先ではパートとして働いていた。

だが、転勤族の夫に帯同している限り、いずれ職場を去る日はやってくる。2年から3年で辞めてしまう人間が正社員になることはできず、ふるりさんの中には虚しさが募っていた。

虚しさ、寂しさ、孤独さは、出産を機にさらに膨らんでいく。妊娠、出産によって、働くことはできなくなり、キャリアからは遠のいてしまったからだ。

厚生労働省の調査によると、出産後に就業継続する女性は増えているが、出産と同時に退職する女性はまだ23.6%存在する。

https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/001101627.pdf

共働き世帯が増えているとは言え、夫の仕事が忙しい場合、その皺寄せは必ずどこかに現れる。多くの場合、それは妻への負担だ。

夫が働き、妻が専業主婦の場合、家事時間の差は7時間37分にまで広がる。共働きの場合の男女差は4時間38分であるため、専業主婦の場合、妻への負担の偏りが大きいことがわかる。

https://www.stat.go.jp/info/today/pdf/190.pdf

フルタイムで働きながら家事育児をワンオペでこなすことは並大抵のことではなく、東京大学大学院のレポート「子育てをしながら働く女性のストレスとメンタルヘルス」によると、ワーキングマザーは生活満足度や幸福感などのウェルビーイングが低いと言われている。

夫が就業している有配偶女性 2,505 人 を対象に分析した佐藤(2018)の報告では,最も幸福度が高かったのは,子どものいない専業主婦であ り,次いで子どものいない働く妻,子どものいる専業主婦となり,子どものいる働く妻で最も幸福度が 低いとされている

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjomh/31/1/31_21/_pdf/-char/ja

ぼくの身の回りでも、夫婦フルタイムで働き子育てをしている女性がパニック障害になったことがある。きっと、これを読んでいる同年代の女性の方にも、身に覚えがある方がいらっしゃるのではないでしょうか?

2021年、日本では2,346件(なんと過去最高…!)の労働関連メンタルヘルス障害のケースが記録された。

https://www.nippon.com/en/japan-data/h01371/

日本産業衛生学会の報告によると、日本の労働女性は男性の約1.67倍の割合で気分障害の治療を受けていることがわかっています。(出典:https://www.jstage.jst.go.jp/article/eohp/3/1/3_2020-0028-OP/_pdf/-char/en

女性の職場でのストレス要因としては、セクハラやパワハラを含む「人間関係」が挙げられ、その割合は男性よりも10%多い結果となっています。ぼくら男性には見えにくい世界ですが、働く女性が多くの苦悩を抱えていることは確かなようです。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/eohp/3/1/3_2020-0028-OP/_pdf/-char/en

特にコロナ禍であった2020年から2022年に辛さを感じていた方は多かったと思います。ぼくに夫婦関係の相談をされた方の中にも、その時期に妻が心理的に限界を迎えた方がいました。産後クライシスとダブルパンチだった方は最も辛かったはず。

そういう事情もあり、夫の仕事が激務の場合、専業主婦やパートを選ぶ女性は存在する。だが、それは望んでそうしているわけでもなく、消去法的に選択肢がなかったことを意味しています。

生まれたばかりの子どもを育てるために、仕事を辞めざるを得なかった。望まぬパートの仕事をするしかなかった。出産前は企業で重要な業務を担っていたのに、今では短い時間の中で与えられた事務仕事をこなす毎日。

事実、女性の年齢別就業率を見てみると、「正規の職員・従業員」は25~29歳が59.7%とピークとなり、その後、年齢が上昇していくにつれ、「パート・アルバイト」等の非正規雇用割合が増加している。

https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/001101627.pdf

それは、必ずしも彼女たちが望んだ「子どもとの幸せな家族生活」とは言えないはず。こんなはずではなかったと、無力感と焦燥感に駆られる女性も多いと思う。

人は自ら望んでいない選択肢を押し付けられた場合、幸福度が大きく低下する。2万人の日本人を対象とした調査の結果、学歴よりも年収よりも「自己決定権」が最も幸福感を決定することが明らかになっています。

https://www.rieti.go.jp/jp/publications/rd/126.html

ふるりさんは育児をしていると、自分が”空っぽ”であることを実感したと言う。

なんか本当に育児をずっとしてると、自分って空っぽだなみたいな、そういう感じを覚えました。

自分が築いてきたキャリアとか、子供の前では何の意味もないですし、私ってすごくキャリアにしがみついてたというか、自分のアイデンティティにしたかったのだと思う。仕事もキャリアも。

そして、”空っぽ”からくる虚しさが続くことで、夫を恨む恐れがあることにふるりさんは気が付く。

たぶんずっとこの虚しさが募って、変な話、もしこのままキャリアにしがみついたら、今度は私の刃が夫に向くかもと思った。転勤するのはお前のせいみたいな。キャリアの断絶が夫のせいになったら、たぶん恨んじゃうし、彼ともやっていけない。

下リンク先の記事に書いたように、女性の「夫への恨み」は無意識に生まれ、非主張的自己表現によって加速し、夫婦が一緒に暮らし続けることでトラウマ想起が継続され、本人ですら溶解させることが難しいほどかたくななものとなる。

ふるりさんは気がついていたのかもしれない。自分の人生を選べない虚しさを、夫のせいにすることで納得させようとする小さな悪魔の存在に。

しかし、ふるりさんは夫を恨む代わりに新しい道を選択する。

キャリアがなくなった状態を突きつけられて、自分と向き合わざるを得なかったんです。

空っぽなら、もういっそのことやめちゃおうって思ったんです。
このままだとキャリアにしがみつくなって。

だったら、思い切ってその頃「絵を描く」って素敵だなと思っていたので、じゃあ描いてみようみたいな。そんなきっかけで始まりました。セカンドキャリアなのかな。

ふるりさんは学生時代は美術部に入っていたが、美大出身ではなく、大学卒業後もアートとは関係のない仕事をしていた。急に絵を描くことは難しいように感じるがそうではなかったようだ。

絵を描くのに筆とキャンバスは要らず、タブレットとパソコンがあれば簡単に描けてしまう。そして、SNSを使えば発表することだってできる。ふるりさんはその手軽さに驚いたと言う。

ふるりさんはInstagramとX(Twitter)を使い、作品を発表し続けた。

こちらはInstagramに載せられている、2019年頃の作品。

https://www.instagram.com/frr_illust/

2020年夏から、ふるりさんはnoteでコミックエッセイ「晩酌日和」を描き始める。企業案件ではない個人作品とは思えないほど完成度が高い。ふるりさんはこの作品を誰に頼まれたわけでもなく、一年間描き続ける。

2020年の秋頃に、noteフォトギャラリー用イラスト提供も開始する。

2020年10月には香川県三豊市における「ミトヨで、やってミヨ」ポスターコンテストに当選。

こちらは2021年頃のInstagram投稿、徐々にテイストが洗練されていることがわかる。ジェスチャードローイングの発表も増え始める。

https://www.instagram.com/frr_illust/

同じく2021年6月から、ゆるゆるエッセイ「海と私」をnoteにてスタート。こちらも企業案件ではなく、個人作品だ。

2021年10月からは、女性ファッションに特化したInstagramアカウントを作り作品を発表。まるでファッション雑誌のような細かな解説が入っている。

https://www.instagram.com/fururi8_fashion?utm_medium=copy_link

2022年のInstagramではジャスチャードローイング投稿が多くを占める。おそらくこの時期がふるりさんが自分の画風を手に入れようと勉強に集中していた時期と思われる。

https://www.instagram.com/frr_illust/

2022年6月から、CHANTO WEBにてご本人の体験を元にしたコミックエッセイ「結婚したけど別居した〜夫婦やり直します〜」連載がスタート。

今でも連載は続いており、まもなくクライマックスを迎えるためぜひ読んで欲しい。

2023年に入ってからは、作品に鮮やかな色彩が帯び始める。ジェスチャードローイングのダイナミックさに豊かな色合いがプラスされ、現在のふるりさんの画風が完成され始める。

https://www.instagram.com/frr_illust/

2023年中頃になると、まるで動いているかのように感じられるほど体の表現がダイナミックなものとなり、人物の表情にもバリエーションが増え始める。

https://www.instagram.com/frr_illust/

2023年夏からはジェスチャードローイングの配信が増える。ふるりさんは美大生の課題添削も仕事してやられているが、こういった作品制作過程を発表することも生かされているのかもしれない。

https://www.instagram.com/frr_illust/

2023年秋頃は、ロゴデザインのような作品を発表されていた。作れる物の幅が広がっていることがわかる。

https://www.instagram.com/frr_illust/

Instagramだけではなく、Xでも精力的に作品をアップし続ける。

2023年秋頃からは作品発表だけでなく、イラスト集やドローイングスタディブックを発売開始する。

ふるりさんの公式サイトはこちら。過去作品を閲覧できるので、ぜひチェックして欲しい。

ふるりさんはSNSをフル活用し、自分の作品を発表し続け、自分の存在をまわりに伝え続けた。

絵を描く前の時期を振り返り、ふるりさんはこうおっしゃった。

私が思っていたアイデンティティって、儚いものだったんだな。

アイデンティティはどこからやってくる?

キャリアは、どこで働くか、どのポジションかとか、どれくらい稼いだとか、そういった環境がないと成り立たないもの。つまり、他者からもらうものであって、自分の内側から湧き出るものではなかった。

今は、自分の好きなことが見つかり、それに向かって頑張れる自分がいる。

もし報われなくても、これだけ頑張ってやったよと、自分で自分を褒められる。

もう、他者からの承認を必要としていない。

いい意味で解放されて、キャリアにしがみつくこと、妻としてのあるべき姿、夫婦のあるべき姿も捨てることができたんです。

以前のふるりさんにとって、アイデンティティとは他者から与えてもらうものであり、他者からの評価がアイデンティティと結びついていたのだが、好きなことに努力を傾けることで、みずからの存在を受け止め、認めてあげることができるようになったのだ。

それは、単なるキャリアとしての話ではなく、世間から感じ取っていた無言の規律からの脱却をも意味していた。

空っぽになった自分を見た時に、空っぽって自由だなと思った。何でもないなら何にでもなれる。

若い頃は「世間の価値観」という鎧を着ていた。年齢による限定的な鎧、メイクをして強く見せなきゃ、モテ服を着てモテなきゃいけない、そういう価値観。

鎧を剥がされてしまうと、ヒョロヒョロの細い体をした剥き出しの自分がいるだけ。

鎧が剥がれたら別の鎧を持ってこないといけない。着せ替え人形のように。
空っぽになったからこそ、本当の自分が見えた。

ずっと他人の価値観の中で生きていて、自分には何もなかったんだな。あれは鎧だったんだな。

あれは鎧だったんだと思った時に、もう他人に振り回されたくない自分でいたいなと、自分の心の声を聞くようにしたり、自分と向き合うようになったんです。

世間の価値観に振り回されない大切さに気がついたふるりさんは、夫婦関係も同じだと言う。

夫婦関係もそう。

夫と向き合うこと、人と向き合うことって、自分と向き合うことと同義語。

常に自問自答しながら、彼と生きていって、自分も見つめられるようになってきたかなって。

前回の記事でも書いたように、ふるりさんは夫のタツヤさんと向き合うことを諦めなかった。家事をしないタツヤさんの心を掘り下げ、彼が心の奥で何を感じているかを見つけ出した。

二人の絆の根源には「相手と自分に向き合い続ける勇気」があるのかもしれない。

キャリアのあるべき姿、妻としてのあるべき姿、夫婦としてのあるべき姿から解放されたふるりさんの表情は、とても清々しかった。

なぜ、努力を継続できたのか?

ふるりさんは5年間、絵を描き続けてきた。なかなか結果が出ない時もあったと思うが、なぜ頑張ることができたのか?

味方がいてくれるなら頑張ろうかなって。応援してくれる夫に恩返しじゃないけど、ちゃんと形になったよというのを見せたくて努力した。

味方になってくれる夫の期待に応えたいというモチベーションが、そこにはあったと言う。

作品を一番最初に見せるのは夫であり、いつも「いいね、面白いね」と肯定的に受け止め、優しい感想をくれる。

それは彼の美徳ですと、ふるりさんは言う。

「夫には転勤という自分の都合で妻を振り回してしまう罪悪感もあって、応援せざるを得ないのかもですね」とふるりさんは言うが、ぼくがタツヤさんとのお話の中で感じたことは、妻への溢れんばかりのリスペクトだった。

包容力があり、努力家であり、何度も何度もあきらめずにこちらの心にぶつかってきてくれる。

そんなふるりさんにタツヤさんは心から尊敬の念を抱いていた。

だからこそ、応援したい、支えたいと思ったのだろう。

自分の心、夫の心、そして二人の関係性に真正面から向き合い続けるふるりさんの心の奥には、夫への愛情があることをタツヤさんは気がついていた。

二人が一緒にい続けるためには、努力をしなければならない。

だけど、その努力は痛みと辛さを伴う苦しいものなのだろうか?

タツヤさんを見ているとそうは思えない。

この人を支えてあげたい。自分の大好きなこの人のためになにかをしてあげたい……。

そんな素直な思いが、まるでこんこんと湧き出るあたたかな温泉のように、自然と生まれ出ているように見えたのです。

夫婦でい続けるための努力は初めは痛みを伴うのだと思う。

だけど、自分とパートナーと関係性への思いやりが自然とおこなえるようになったとき、かつてあった痛みは消え去り、感謝と尊敬がふたりを包むようになるのかもしれない。

この記事がキャリアに悩む女性、夫婦関係に悩む多くの人の参考になることを祈っています。

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@fururi8

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