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パートナーへのケアの目的は、「褒められること」ではなく……。

「喧嘩が絶えない夫婦は、どのような話し合いをすれば分かり合えるのでしょうか?」

生後5ヶ月のお子さんがいらっしゃる「おちびママさん」からお悩み相談をいただきました。

ポッドキャストでお答えしましたが、記事では違った角度からお答えしますね。

ーー✉️お悩み内容✉️ーー

結婚1年目の妻です。現在生後5ヶ月の息子と3人暮らしです。息子が産まれてから夫婦喧嘩が絶えません。

夫婦喧嘩をするとお互いが分かり合えるので良いことだと思うのですが、やはり、育児をしながらの夫婦喧嘩は精神的にしんどいです。

喧嘩の内容はざっとこんな感じです。

【私が感じていること】
夫にどんな期待をしている?
→家の中の変化に気付き、いいねと言って欲しい(家しか私のパフォーマンス発揮できるところがないから)洗顔の補充、脱いだ服を畳み直す、散らかったスリッパを履きやすい場所に おいてあげるなどの心配りした行動に反応して欲しい

【なぜ叶えられてない?】
→暗黙の了解とは頭では分かりつつ言葉にされない
→そもそも私が先回りしているだけだから相手にとっては不必要なこともやっている

【私はどんなことを感じている?】
→変化を生み出しても意味がない、無関心だと思われている、いてもいなくても同じ結果、どんな態度を取っている?
→気づいてくれない不満が積もって言い方がキツくなる、子供に集中したいのにできないからイライラ、自分がやった事に対して反応がないから興味がなくなって会話したくなくなる

私の中で【私がいてもいなくても同じ】というのが一番しっくり来ました。 夫とは出会って結婚するまでが短く、お互いをよく知らないままここまで来てしまいました。

今後私たちはどのような話し合いをすることでよりより関係を築いていけますでしょうか。長文で失礼致しました。

ーー✉️ーー

お子さんがまだ5ヶ月とのこと、まだまだ大変な時期ですよね。ぼくも思い出したくないくらいです。

3人目ではかなり手を抜いたので、大変だと感じることは上の子たちの時ほどなかったですが、一番最初の子ってどうしても手をかけすぎてしまうんですよね。

そんな中で夫さんとのコミュニケーションもうまくいかないとなると、参ってしまうはず。

いくつか感じたことがあるので、書かせていただきますね。

子育てに関して辛い時期だからムリせずに。

生後5ヶ月の子どもを抱えて、今までと同じような家事は難しいと思います。

産褥期を過ぎたとはいえ授乳や寝かしつけなどタスクはいくつもあり、セルフケアもままならず睡眠不足になっていないでしょうか?

子どもの誕生によって環境がガラリと変わりましたから、まずは、家事内容を今の環境に合わせて変化させるのはいかがでしょうか?

楽をすることは始めは罪悪感がつきまといますが、慣れてしまえばどうってことありません。

洗濯を楽にするために全自動洗濯乾燥機を使う、掃除を楽にするためにロボット掃除機を使う、シワになっても困らない洗濯物は畳まずに各自の洋服ボックスに放り投げておく、洗い物の手間をなくすため使う食器の数を減らす。夫にも家事を負担してもらう。

などなど、いくつか工夫できるところがきっとあるので、おちびママさんの心身の体調管理のためにぜひ生活を見直してみてください。

だけど、お話の中で一番気になるのは、「夫に対する過剰なお世話」です。

夫への過剰な世話は恨みへと転換される。

夫が脱いだ服をたたみ直したり、夫が散らかしたスリッパを履きやすい場所に戻したり。

そんなことは夫が自分でもできるはずですが、おちびママさんがやって「あげて」いる。

きっと他にも良かれと思ってやっている夫への「お世話」があるのではないでしょうか?

おちびママさんにとって、それはお世話ではなく、妻としての思いやりであり、もしかしたら職務であるとすら捉えているのかもしれません。

だからこそ、「子育てで忙しい中、あなたにも思いやりを向けてあげているのに、なぜ気がつかないの?」とイライラしてしまう。

「どうせ、私なんていなくてもいいんでしょ」と、自己効力感が地の底まで落ちていく。

今はまだイライラだけで済んでいますが、夫に気持ちを理解してもらえない悲しさやモヤモヤはやがて強い怒りへと変わり、その怒りは夫への激しい嫌悪感へと姿を変えるはずです。

「私の気遣いに気がつかないこの人は、なんて自分勝手でどうしようもない奴なんだ。こんな奴に指一本触れられなくない。こんな奴、いなければいいのに」

育児の最中はオキシトシン(目の前の相手を愛おしいと思える効果があり、育児に前向きになりやすくなる)というホルモンが分泌され、その副作用で周囲の人間に排他的になります。

赤ちゃんを守るメスライオンのように、害を及ぼしそうな存在には夫であっても牙を剥くのです。いわゆるガルガル期です。

そんな精神的変化が、おちびママさんの「夫への嫌悪感」を促進させるはず。

やがて夫もおちびママさんに対して、こう思うようになるかもしれません。

(出会った頃は甘えた猫のように可愛かったのに、今では獰猛なライオンになってしまった…。怖くて話しかけることもできない…。)

良かれと思って行う「夫への過剰なお世話」は、二人の関係性を引き裂く野生動物の鋭い爪のようなものです。

では、なぜ、おちびママさんは「夫への過剰なお世話」をしてしまうのか?

なぜ、それを夫への気遣いと捉えているのか?

なぜ、自分自身の行動に疲弊しているのか?

それは、価値観をすり合わせる間もなく育児に突入したためかと思われます。

価値観のぶつかり合いと育児のダブルパンチ

結婚1年目で5ヶ月のお子さんがいらっしゃるということは、妊娠していない状態での結婚生活がなかったということですよね。

子どもが生まれるまでの期間はお互いの価値観をぶつけ合い、受け止め合い、妥協し合い、来たるべき育児という共同作業に備える期間だったなと、ぼく自身感じています。

おちびママさんたち夫婦は、準備期間なしで育児に突入してしまったわけで、「価値観のぶつかり合い」と「子育ての苦労」のダブルパンチ状態です。大変なはずです。

ですので、まずは「二人の価値観」を作り上げているところから始めるのがいいんじゃないかなと思います。

おちびママさんのお話で気になるのは、「夫婦喧嘩が多い」と書かれているけど、「夫が何を感じているのか」が書かれていないことです。

もしかしたら、喧嘩の中で「夫への気遣いに対する感謝が欲しい」というメッセージを伝えていないのではないでしょうか?

夫婦喧嘩には、お互いの意見を知れるというメリットが確かにあると思います。

ですが、ぼくは夫婦喧嘩の「温度」が大切だと思うのです。そして、その温度管理が夫婦の価値観を作り上げる下地になるのです。

以前のぼくらもそうでしたが、分かってもらえない悲しさが怒りとなり、真夏の太陽のようにヒートアップしてしまうことってありますよね。

もしくは、理論的な夫婦であれば、「そこはそうすべきじゃないよね。こうすべきだよね」と、真冬の吹雪のような冷たさで接してしまうこともあるかと思います。

どちらのケースもうまくいきません。なぜなら、自分のメッセージが相手の心に届く温度になっていないからです。

相手の心に届けるためには、暑くもなく寒くもなく、過ごしやすい春や秋をイメージするといいかもしれません。

例えば、おちびママさんの場合、本当はこういったことを夫に伝えたいのではないでしょうか?

「毎日、忙しい仕事から疲れて帰ってくるあなたが少しでも楽になればと思って、あなたにとって家庭が居心地のいい場所になればと思って、スリッパを整えたり、脱いだ服を片付けたりしてるの。

でも、全然あなたが気がついてくれなくて、とても寂しくなる。

ああ、私はこの人にとって、いてもいなくてもいい存在なのかな。

そもそも私は無駄なことをしているのかなって。

私の気持ちをこの人に知って欲しいな。私もこの人が何を感じているのか知りたいなって。

私たちの間に、とっても流れの早い川が横たわっている気がするの。両岸に私たちは立っていて、だけど、霧がかかっていてあなたの姿が見えない。あなたからも私の姿が見えない。

声を出してあなたに気がついて欲しいのだけど、早くあなたの岸に行きたいのだけど、なんて言えば、どんなことを言えば、あなたに私の声が届くかわからないの。

どうすれば、あなたに対するこの気持ちが届くのだろう?」

お子さんをご両親やベビーシッターに一日預けて、自分だけの時間を作り、自分がなにを感じているのか、その感情に手を触れてみてください。

自然の中など自分の心が落ち着く場所で、ゆっくりと深呼吸をし、自分の感情を取り出してみてください。

そこで出てきた柔らかな感情を、そのままの温度で夫に伝えてみてはどうでしょうか?

きっと、今までのようなネガティブな感情が飛び交う喧嘩にはならないのではないかなと思います。

お互いを知らないまま結婚したとしても大丈夫。素直な思いをシェアできるようになれば、付き合いの長い夫婦と同じくらいの親密さを作り上げられるはずです。

何のために家事育児をしているのか?

おちびママさんは、「家しか私のパフォーマンスを発揮できない」と感じているんですよね。

そして、自分がしたこと(スリッパの位置を直したり、脱いだ服を畳み直したい)に対する夫の「反応」がないことに不満を抱いている。

おちびママさんは、夫からどういった「反応」を求めていますか?

「よく頑張ってるね。ありがとうね」などの称賛とねぎらいでしょうか?

もしかしたら、おちびママさんは「夫から褒められること」を目的に家事をしていないでしょうか?

称賛、感謝、ねぎらい。これらは夫婦関係に欠かせない潤滑油だとぼくも思います。

ですが、それを目的とした行動を取ることは順序が違うと思うのです。

パートナーが自身の労力を気にせずにケアしてくれるからこそ、感謝とねぎらいの言葉が込み上げてくる。

パートナーへのケアの目的は、パートナーから「褒められること」ではなく、パートナーの「苦しみを取り去ること」そのものにあるのではないでしょうか?

もし、おちびママさんが「夫の苦しみを取り去ること」を望んでしたいと思えなかったり、違和感を感じるのであれば、本当にケアされるべき存在は夫ではなく、あなたなのかもしれません。

もしそうであるならば、自分の心の奥にある柔らかな気持ちを夫に伝えてあげてください。きっと、夫からおちびママさんへのケアの感情が生まれるはずです。その時は夫の柔らかな感情もぜひ拾い上げてください。

それから、「家しか私のパフォーマンスを発揮できない」と感じられている件ですが、おちびママさんは、なぜ家庭内で「パフォーマンスを発揮」しようとしているのでしょうか?

家事は点数を競う試験ではなく、家庭は空気が張り詰めた試験会場ではなく、夫婦は競争相手ではありません。

家事は家族が心地よい空間を作るための手段であり、家庭は家族がくつろげる場所であり、そして、夫婦はお互いに支え合う存在であるはずです。

おちびママさん、あなたは、もう十分に頑張っている。

お子さんを産むという大仕事をこなし、あなたの子どもはもうすぐハーフバースデイを迎えようとしている。

それに加えて、あなたは夫のことも気にかけている。

もう十分です。だいじょうぶ。あなたは十分に頑張っている。

そんな自分を褒めてあげてください。いたわってあげてください。自分で自分を大切にしてあげてください。

あなたがあなたのことを大切にできるようになれば、夫への気遣いも見返りなくできるようになるはず。

お子さんが産まれてまだ5ヶ月。まだまだ無理していい時期じゃありません。出産という一大イベントを無事にこなした自分をいたわってあげてください。

おそらく今は、夫をケアすべきタイミングではなく、あなたがケアされるべきタイミングなのだと思います。そして、あなたの夫はそのことに気がついていない。

だから、あなたは現状の夫婦関係に苛立ちを覚えている。そうではないでしょうか?

「私のことをケアして欲しい。私のことを大切に扱って欲しい」

そう伝えることは怠慢でも何でもなく、あなたの素直な感情の表出であるはず。夫にそう伝えていいんです。むしろ、伝えるべきだとぼくは思います。ぼくが夫であれば嬉しく感じます。

おちびママさん、あなたは十分に頑張っている。どうか無理をせず、自分の素直な気持ちに触れ、その想いを大切にしてください。



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