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おくやみ窓口(父の死亡診断書提出時を思い出す)

地元の区役所にやってきた。
父の死亡診断書を携えて。
16年前のことだ。
母は車椅子だったし、
父が亡くなったあとの諸々のことを、1人でやらなくてはいけなかった。

死亡診断書。
父の亡くなった時間と場所、死因が記されている。
こんな紙切れに、父の死が証明されてしまう。

ーーー
ジェントルマンだった父。
経済学を学び、日経新聞を愛読した。
書道が趣味だった。日展に入選したこともある。

わたしは20歳で初めて海外旅行に行った。
帰国時の羽田空港は土砂降り。
思いがけず迎えに来てくれた父の手には、
なぜか傘が2本。
一緒に行った友人の分まで傘を持ってきたのだ。

ーーー

入院して、転院して、ほんの2ヶ月ほどで父は亡くなった。

総合病院の医者は、父が亡くなることを前提とした話ばかりした。
心臓の周りに溜まった水も
「どうせすぐ溜まりますから、抜いたって同じですよ」と
ボールペンをカチカチいわせながら答えた。

辛かったはずなのに、
1度も愚痴を言わず。
1度も下の世話をさせず。
娘のわたしに手間をほとんどかけさせずに亡くなった。

いや、一言だけあった。
点滴が嫌だと。
管は父の心臓が止まって30分経ってから、
ようやく抜かれたのだった。

ごめんね。お父さん。
もう点滴は必要ありません、と早く言えばよかった。
つらかったね。ごめんね。

ーーー

そして、区役所。
どこで何をすれば良いのかわからない。 

年金に関する書類。
介護関係の書類。
世帯主の変更。
あと、何があっただろう。

これは2番窓口
それは8番窓口

行った窓口で、その次の場所を聞いて。
フロアをあちこち移動した。

ーーー
後期高齢者受給者証の担当窓口で。

これが最後の手続きのはず。たぶん。

職員が気がついてくれず、しばらくカウンターの前でたたずんだ。

小走りでやってきた男性。

「父が…なくなったので、あの、受給者証の返却なのですが」
「はい、お預かりします」
そういうと、机の上の書類入れに
ほいっと受給者証を投げ入れた。
そこには既に何枚かの受給者証が入っていた。

え?

電話が鳴り、あわただしく受話器をとる職員さん。

これでいいのか?
今日の私の役目は、これでいいのか?

「こんなふうに終わっちゃうんですね…」


思わず口からこぼれた言葉。
誰も聞いていなかった。

父が亡くなったあとの手続きは
たくさんの事務処理に埋もれて。

こんなふうに終わっちゃうんですね。
書類の中に、ほいっと投げ込まれていくんですね。

ーーー

のろのろ歩いて帰る。
足が進まない。

ふと、ブラウスの胸の部分が濡れていることに気がついた。
わたし、泣いてる??
なんかもう、ハンカチ出す気にもならないや。。。

ーーー

多死社会。
これからたくさんの人が、死ぬ時代を迎える。

山形市には市民が亡くなった後に遺族が行う各種手続きにワンストップで対応する「おくやみ窓口」がある(日本経済新聞2022年6月6日)。

山形市では、多い場合には18課で手続きが必要という。
18とは。もはや疲れ果てるしかない。
遺族が各担当部署回る手間を省き、手続きの迅速化を図るのが「おくやみ窓口」の狙いだ。

1階の市民課に担当の「おくやみコンシェルジュ」を2人配置する。死亡届の提出時に、必要な死後の手続きをまとめた「おくやみハンドブック」を配布。初七日後などに行う手続き時にコンシェルジュや各担当課職員がワンストップで対応する。3営業日前までに予約が必要で、1日4組まで受け付ける。

日本経済新聞より

あの時、そんな窓口があれば。

泣きながらノロノロ歩くことはなかったのかもしれない。

たくさんの人が亡くなる時代とはいえ
私にとってはたった1人のお父さん。
かけがえのない家族だ。

遺族の気持ちに寄り添うような事務処理があると良い。
それが「おくやみ窓口」だ。

「おくやみ窓口」でググってみると、思いのほか、たくさんの自治体で設置されている。
あなたの住まわれている自治体にはあるだろうか?
調べておくと、何かの時に役に立つかもしれない。

なお、おくやみ窓口は予約制であることが多い。
行政側にも準備があるのだろう。

私の住んでいる自治体にも「おくやみ窓口」はあった。やはり予約制だった。
重い気持ちとは言え、
事務処理で、悲しさに拍車がかかる事態は避けられそうだ。
親族に何かあったときには利用したい。

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