見出し画像

食トレンド2024 topics9_サラダボード、韓国の日常食、シロさん的自炊、ネクスト抹茶、3つの消費行動、未利用魚から生まれる新しい食文化

物価の高騰、気温上昇による食材の変化、夏日の増加——わたしたちを取り巻く多くの社会変化は2024年のフードシーンをどのように変えていくのか。Yellowpageでは国内外の2024年予測レポート、消費における生活者レポートをふまえて9つのトピックスでまとめました。(Cover image:Siniz Kim ByUnsplash)


1. サラダはプレートが新しい

image:Eating Well

2022年から欧米で流行した「バターボード」。常温のバターをプレートに塗り、スパイスやソース、具材を載せてクラッカーやパンをディップして食べるもので、コロナ禍を経て再開されたホームパーティーなどで重宝されているようです。
このアイデアが派生し、最近みかけるのが「サラダボード」です。
これはボウル皿ではなく、カッティングボードの上に野菜やディップソースをのせたサラダの食べ方で、食材ごとの取り分けたり、味付けを変えることが可能です。2017年頃に流行した「チョップドサラダ」は、具材を細かく刻むことでスプーンでサラダを食べることを叶え、サラダを主食の位置づけに進化させました。この「サラダボード」は、皿の形状を変えたことで前菜としてのサラダから、つねに食卓の真ん中に置かれる「メインディッシュ」のようなポジションにアップデートし、拡がる菜食文化に呼応して話題になっていくかもしれません。

2. 好きだから作る。シロさん的自炊が増えていく

食料品の高騰・世帯のソロ化によって「節約なら自炊」という時代ではなくなってきました。ひき肉や卵、玉ねぎを買うよりも小売店でハンバーグを買ったほうが経済的な場合もあります。これまでの「経済合理性」で取り組んできた自炊の役割が変わると、家庭の料理は毎日作るべきタスク的なものから「経済合理性ではない別の価値」として向き合う存在に変わっていくのかもしれません。それはWell-beingの文脈にも通じますし、趣味的な、アクティビティのような意味合いが高まっていくことを意味します。

そんな料理との向き合い方で参考になるのは、テレビ東京系列のドラマ「きのう、何食べた?」の主人公、シロさん。繁忙な弁護士でありながら定時での退社を心がけ、パートナーとの食卓のために料理時間をたのしむひと。残った食材をいかに調理するか、冷蔵庫内の食材をどうアレンジするのかをゲーム感覚で楽しんでいるようにも見えます。家庭での料理と私達の関係は「作りたい・楽しい」を前提にしてキッチンに立つようになっていくのではないでしょうか。

3. 気になるのは、韓国や台湾の”日常食”

料理家の長谷川あかりさんをご存じでしょうか。
薬味たっぷりだしカレー」や「酒蒸しハンバーグ」など、ほっとするレパートリーが特徴で、この工程&組み合わせでこんな味わいに?と驚くことも多々。2022年以降に出版された料理本はどれも重版し、SNSのフォロワー数40万人超えという人気の料理家さんです。インタビュー記事によると、料理における長谷川さんポリシーは「型をつくり、やらないことを決めること」。主たるフォーマットは「酒蒸し料理」で、食材や調味料をアレンジしてバリエーションを増やしているのだそう。「家庭の料理でやらないことを決める」というのは、広がりすぎた家庭の料理を良い意味で狭めることを意味し、とても現代的だなと感じました。前段が少し長くなりましたが、これからの家庭での料理は「唐揚げもグラタンも何でも家庭で作る時代」から「外食や中食を前提にした家庭の料理」という時代に移り変わるような気がしています。

家庭でつくる料理を絞りこむ——その時に選ばれる料理はなにかと考えると、長谷川さんのレシピのような「落ち着く」「沁みわたる」という言葉が似合うスープや米、野菜を中心にした料理、優しい味付けの料理たちに無意識にもたどり着くのではないか、と思います。これらはベン図的に健康の文脈、菜食中心スタイルとも重なり合い、シニアから若年層まで取り込む潮流になるポテンシャルを秘めていると思います。

 もちろん連日「やさしい食」だと飽きてしまいますし、新しい料理に出会うワクワクも生まれませんから、オーソドックスな粥やスープに新しい知覚を付与したものとして、韓国や台湾の日常食が日本で拡がることも考えられます。「タッケジャン」や「ミヨックッ」「水キムチ」「チャンアチ(漬物)」といった魚介や肉から出汁をとった滋味深いスープや惣菜たち。もっと世界観を伝えるなら、Netflixのオリジナル番組『スープの国 ~韓国汁物紀行~』『総菜の国 ~韓国米食文化探求~』のあたり。

Netflixのオリジナル番組『スープの国 ~韓国汁物紀行~』のヴィジュアルより


Netflixのオリジナル番組/ミッパンチャン書影

ちなみに、韓国のメディア「FoodBank」による韓国の国内外食産業の展望をまとめた記事では2024年の展望として、「健康食の拡大」「伝統的な食」をあげており、その流れが日本にきても違和感はないのと、最近では北坂伸子さんによって『ミッパンチャン(主婦と生活社)』という韓国の常備菜のレシピ本が発売されており、2024年は、少し大人な雰囲気の韓国フードを見かける機会が増えるかもしれません。

4. 豆と種の新時代

環境負担の高い食品の消費を控える動きや「物価の優等生」といわれた卵の高騰は、”代替”としても活用できる豆腐や豆乳の登場機会がますます高まることでしょう。
既に豆腐コーナーでは変化が起きており、相模屋さんからはがんもやカルビ、チーズをはじめ、「たんぱく質のとれるとうふにゅうめん」など”豆腐を超えた商品展開”が日々加速しています。また、料理家の今井真実さんの「おとうフムス」も洋風白和えともいえそうな名レシピですし、2023年9月に刊行されたウー・ウェンさん著『豆乳 からだを整える基本の食材(主婦の生活社)』では、スープからデザート、シチューやお粥など、上記であげた調整食の文脈にもあうレシピに出会えます。

また、今年は種にも注目していきたいです。
たとえば、かぼちゃの種は炒るとおいしいスナックになりますし、京都にあるSHUKAさんは「種と糖」だけでつくる「種菓」をはじめ、種でつくられたジェラートが味わえます。

作り手の熱量と技術によって、植物性でも満足度の高い、おいしくて環境負担が軽い食品たちが増えてきています。今後は豆と種が主役となっていきそうです。

5. ネクスト抹茶として”きなこ"

”ネクスト抹茶”——日本の食材を再解釈し、スイーツやドリンクにも拡がって世界でも人気がでるフレーバーをずっと探していましたが、最近は”きなこ”ではないかと思うようになりました。

きなこは、大豆を炒ったあとに挽いた粉。香ばしさと植物性らしい優しい甘みは、乳やチョコレートとも相性がよく、アイス界隈では既にたくさんの商品が展開されています。今年だけみても、5月はサーティーワンアイスクリームから「抹茶きなこ –とろ~り黒蜜–」味、11月に「チロルきなこもちアイス」「桔梗信玄餅のアイス」が発売、ハーゲンダッツからは2種クリスピーサンド「きなこのバタークリームケーキ」と、9月は華もちシリーズ『吟撰(ぎんせん)きなこ黒みつ』が販売。

画像は各社のWebサイトより

Google Trendsの人気度の指標だと「きなこ」は2011年から2023年にかけて微増傾向で、ドリンクカテゴリではドトールが2023年9月に「きなこ豆乳ラテ」を販売しています。スターバックスのフラペチーノは2019年にきなことわらびもちをつかったフラペチーノを展開しながらも、そこから継続の商品化はされていない模様。再度フレーバー展開がきたら「きなこ」PMFのサインかも?

Google Trends 「きなこ」の人気度(2011年〜2023年、フード、ドリンクカテゴリ)

6. グローサリーやスイーツはフレーバーの重ね付けで差別化

アメリカの生活者メディア「Batter Homes Gardens」のトレンド予測の記事では、「複雑なスパイシーと甘味、スパイシーと酸味、スパイシーとクリーミー、その他の創造的なフレーバーの組み合わせについて、食品や飲料のカテゴリー全体でさらなる機会が開かれる」と書かれています。

唐辛子×チョコレートはまだ勇気が必要そうですが、レストランやスイーツではたとえば、小説家・原田マハさんが主宰する京都のセレクトショップ「YOLOs」のドライフルーツ×実山椒のソフトクッキーや、東京・代々木の「FarmMart & Friends」の雑穀ヴィーガンドーナツの「すだちのカード味」をはじめ、ケイジャン×マヨネーズ、カルダモンやケッパーに生クリームを合わせるなど、食材を縦横無尽に扱って辛味、酸味、苦味を重ねていく味付けに一層魅了されていくのではないでしょうか。家庭の料理がシンプル化していくならば、外食やグローサリーは、プロフェッショナルによる複雑で摩訶不思議な味付けが求められてくるのかもしれません。

7. 食の消費行動は3層のグラデーション。
”日常のハレ”はカルディ的商品に注目

Whole Foods Marketのトレンド予測記事では「ちょっとした贅沢」も挙げられましたが、博報堂生活総合研究所による2024年の消費意向に関する調査によると「2024年にお金をかけたいこと」は旅行や貯金に次いで、3位に「ふだんの食事」、4位に「外食」がランクインし、食に関する消費意欲は依然高いことがわかります。

近年の食における消費行動は3つのグラデーション——「特別な食事、日常のごちそう、日常食」で整理することができます。「特別な食」は、予約して訪問するレストランや、アフタヌーンティー。「日常のごちそう」は、成城石井やDEAN&DELUCA、コンビニ食の「プレミアムライン」、ハーゲンダッツなど。「日常食」は、いつもの料理やPB商品。外食や中食、自炊を織り交ぜて、日々の食事にアクセントを持たせていきます。

日常のごちそう(ちょっとした贅沢)で参考にしたいのは、やはりカルディ。
手頃な高級感を味わえるものとして、トリュフ味の鍋や茶碗蒸し、ラーメンをはじめ、雲丹や牡蠣ペーストなどが豊富に揃っており、貝殻のようなパスタ(コンキリオーニ)は、中にスモークサーモンやチーズを入れて前菜にもなります。中でも「アーティチョークのペースト」に注目。日常的に食べられないアーティチョークが身近になる名品です。

画像:カルディのWebサイトより。
上はトリュフ商品と雲丹。下中央がアーティチョークペースト。

8. 未利用魚による魚料理のアップデート

気象異常によって、店頭に並ぶ魚たちに変化が起きています。
サンマは小ぶりで高価になり、鮭も安易に手が出せる価格ではなくなってきました。その一方で、最近では少し見慣れない魚種が低価格帯で並ぶように。これらの魚たちは、これまで値がつかず漁場で肥料や飼料にされていた末(低)利用魚たちで、最近では高騰化する知名度のある魚に対しての策として販売されはじめたのだとか。ただ”初見・初耳”のワイルドな魚たちを上手に調理する自信はまだ生活者にはなく、そのままスルーしてしまうことも。今後は以下のような対応がすすめば調理頻度を高め、活用した魚料理が増えていくのではないでしょうか。

<流通・小売>
・未利用魚の名称の統一
・販売のフォローとして、赤身なのか白身なのか、認知された魚種だと何が近しいのかを伝えでイメージを近づける
・内臓や鱗、三枚カットのフォロー

<レシピサイト・料理発信時>
・SEOの意識も含めて、知名度のある魚種以外にどんな魚でも適しているのかのフォロー

9. 端切れ野菜にアイデンティティを

食品ロスの観点から葉や皮、芯の活用は草の根的に拡がりつつありましたが、食材の高騰によって、一層”常識”として認知されていくかもしれません。
ここからは”端切れ”と括られてしまった野菜の楽しみ方を再整理して伝えることが重要です。レシピのない即興料理教室や調理アシスタントをされる大塚祐子さんのnoteでは、「長ネギの青いとこ」のレシピが紹介されていますが、このように、パーツパーツごとにアイデンティティを整理して、使い方を提案するといいのだと思います。
私的な話になりますが、我が家では皮は極力で剥かないで調理しますし、うまれた端切れ野菜は微塵切りにして冷凍庫保存。焼き春巻きや餃子、ハンバーグに加えたりします。ブロッコリーの芯は”アスパラ”と再定義して切り方を変えてサラダに入れて楽しんでいます。

可食部を増やす——このアクションは、節約の観点や食品ロスの課題の観点からも、これからは必修のスキルとなっていくかもしれません。


コロナ禍よりも大きな、不可逆の新常態がはじまる

予測トピックスは以上になります。
メニュー単位での流行ではなく、市場の空気感、生活者の捉え方を中心に予測していきました。いま不安材料の物価の高騰や異常気象が単年で終わることはまずなく、ここから不可逆的に常態化していくことが現実的です。ただ悲観的に考えすぎす、これまでの安価だったゆえの生産と消費の歪みが見直され、新しい食の慣習がうまれはじまる転換点だと捉えることもできます。ここから、また新しい現代の食のカルチャーを一緒に作っていきましょう。

参考文献
Whole Foods Market Forecasts Top 10 Food Trends for 2024
2024 Food Trends You’re About to See Everywhere
味の素PARK「やらないことを決めて楽になる。長谷川あかりさんに聞くごきげん料理生活のススメ」
COLOCAL:〈SHUKA gelato〉京大農学修士の甘納豆屋4代目が、本場イタリアの配合理論でつくる“種”のジェラート
・ELLE gourmet(2023年7月号/9月号/11月号)
・電通報「食のトレンドは節約から、節楽へ」
博報堂生活総合研究所 2024年の生活調査


食メディア「Yellowpage」では国内外のトレンド、社会変化×食の記事を配信しています。今はニュースレター(無料)に登録いただくと、食カレンダー2024がダウンロードいただけます。ご興味あればぜひ🙌


食カレンダーに関する関連記事はこちら


この度はありがとうございます!わたしのメディア「Yellowpage」のニュースレターに登録いただけましたら、とっても嬉しいです。https://yellowpage.tokyo/#newsletter