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Core - 制作プロセス


きっかけ

2024年2月15日、and_dという大阪に拠点を置く学生団体の方から、「アーキディスコ」というイベントへのお誘いをいただいた。あとで聞いた話には、SNSで作品を見て誘ってくれたらしい。建築の学生が主体になっている団体とのことだったので、「なぜ自分に?」というのが最初に思ったことだが、詳しい活動内容を見ていると様々な分野に跨いだ作品展示や講演会、Zineの制作などとても興味深く、ぜひ参加させてほしいと伝えることにした。

展示場所として用意していただいたのが、MOGANAというホテルのロビー空間だった。滞在する人々が休憩したり、ちょっとした時間を過ごすための空間で、幅5m・高さ3mほどの大きなスクリーンがある。サイトの写真などを見た限りでもとてもワクワクする空間だったので、建築や空間デザインを見てみたいという意味でも楽しみな展示であった。

京都市中京区にあるホテル「MOGANA」

実際の展示の際に知ったことだが、声をかけてくれたand_dのメンバーであるYusuke NakamaeさんはこのMOGANAを設計した人であり、訪れた時には設計者本人からデザインについての解説を聞くという贅沢体験をすることができた。細部までこだわり抜かれた建築で、特に工業用のベルトコンベアの素材を使ったという廊下の床は独特で見たことのない雰囲気と歩き心地で驚いた。輝いていてスタイリッシュながら、どこか畳のような落ち着き感のある素材だった。

工業用ベルトコンベアの素材が廊下の床材として使われる

制作プロセス

1. アイデア

前述の通り、展示場所はホテルのロビーであり、作品展示が目的の場所ではない。よって、過度に主張のある映像や没入感のある演出などは空間を阻害してしまうと考えた。また、大抵の映像作品にはストーリー性があり、始まりと終わりがあるものを鑑賞するのが一般的だが、今回は作品を「鑑賞する」というより、その空間を通り過ぎたり、なんとなく時間を過ごす人にとって自然に目に入って、ふと眺めていられるような映像にしたいと思った。よって、以下の点を作品の条件としてアイデアを考えた。

  • 抽象的・アンビエントであること(主張しすぎないこと)

  • どのタイミングで見ても一定の変化をしており、ループする映像であること

  • 尚且つ、コンセプトを持った作品であること

制作時のメモ

今回のグループ展のテーマは「テクノロジーとクリエイション」ということだったので、自然とChatGPTをテーマとして作品を作りたいと考えたが、自分の作風的にはあからさまにAIに対する批評的な、テクノロジーに対する問いかけとなるような作品を作ることは難しいと感じた。

とはいえ、ちょうどChatGPTを使ってProcessingのアニメーションのコードを生成し、実験的にジェネラティブ・アートのようなものを作っていた時期だったので、この延長で作品を作れれば良いとなんとなく考えていた。

ChatGPTを使ったアニメーションコード生成

これらの抽象的なアニメーションと、自分の今までの制作のテーマである「輪郭」や「境界」などの概念から色々と手を動かしているうちに、「中心」というキーワードを思いついた。

2. 実践

オブジェクトとそれ以外を区別したり、何かを認知するための線引き、境界に対して視覚効果や陰影などを使ってアプローチし、「揺らぎ」を演出するのが今までの作品で行ってきたことである。しかし、認識している対象の「中心」のようなものについては、あまり意識してこなかった。

円には中心があり、その「中心」の存在は人が自然と意識し得るものだ。案内板などに「現在地」を示す点を中心に大きな円が描かれることがある。それは「円」を意識するよりも、その「中心(=現在地)」を意識してくださいという意図であり、円というものはその輪郭というよりも「中心」にその存在の本質か、主題というべきものが置かれるのではないか。

「中心」と言う言葉を広く捉えれば、あらゆるものには「中心」があると言うこともできる。様々な図形及び立体物には「重心」がある。人間であれば「心臓」あるいは「脳」を中心と考える人もいるかもしれない。話題の中心、社会の中心など、概念的な言葉にも用いられるのが「中心」である。それらの中心は、多層的に絡み合い、影響し合い、この世界を形作っている。つまり、「中心」はこの世界のあらゆる「対象(オブジェクト)」そのものと言うことができる。そのような広い意味での中心として、今作のタイトルを「Core」とした。

そういった世界観を、抽象的なグラフィックでアニメーションとして落とし込めないかと考え、ChatGPTにプロンプトを打ち込む。

それを実行しながら、アニメーションの調整を行う。私は基礎的なプログラミングの知識はありつつ、今までProcessingなどのグラフィックコーディングツールを使って本格的なアニメーション生成を自力で行ったことはなかった。対話の中で、自然言語によってコードの調整を行いつつ、その過程で少しずつ自分の中でコーディングの理解を深めていった。

対話を通じたコーディング

情報収集の手段がインターネットでの「検索」からChatGPTとの「対話」に移行したのはかなり大きな変化であると感じる。疑問を持つ→問いを立てる→情報を得るというプロセスに無駄がなくなり、個別的な状況とパブリックな知識が直結する。何かを生み出すという行為が、「個人的なもの」から、「対話の中で生じるもの」に変化する。

「作る」ことの定義はメディアによって変容する。ChatGPTというツールは対話を通じて「思考」という領域にまでその範囲を広げている。そこで問われているのは、より根源的な自分の欲望のようなものであるような気がする。「どう作るか」が外部化され、「何を作りたいか」あるいは「なぜ作るのか」という問いに向き合わざるを得ない。

最終的にできた映像の内容は以下のとおりである。

2000個の円が拡大と縮小を繰り返しながら画面の中心を回転する。
それぞれの円の動きは三段階の軌跡を重ねて計算される。
軌跡A:画面を中心とした円
軌跡B:軌跡A上の点を中心として回転する円
軌跡C:軌跡B上の点を中心として回転する円
それぞれの軌跡もまた、一定のサイクルで拡大と縮小を繰り返している。

1つの円はそれぞれサイズが変化する3重の軌跡上を回転している

ある軌跡は何かの軌跡を中心として、そして、その軌跡もまた何かの軌跡を中心としている。この多重に影響する運動が、複雑な、時にランダムに見える動きを生み出しているという「状況」を、環境的な映像として表現したかった。それぞれは独立しているようにも見えるが、時に大きな一つの円を形成する。

3. 展示

実際の展示の様子
ホテルの利用者が休憩するロビーの空間に設置された5m×3mのスクリーンを使用

京都での滞在時間が少なく、見に来てくれた方や滞在者の方の反応を見ることはほとんどできなかった。しかし、在廊していたスタッフの方などから、「ずっと見ていられる」「話しながら眺めてしまう」といった感想をいただき、意図した通りの見え方になっていることがわかって嬉しかった。

また、映画「メッセージ」のに出てくる宇宙人が使う文字を想起させるという感想は、予想外であるがとても作品の趣旨に近いものだと思った。

この映像において、円の中心をその「本質」や「意味の中心」であるとするならば、それらが影響しあい、変化すること、変化の中で意味が生まれるということを意識して制作した。1文字に意味を込める書道のような感覚に近いものかもしれない。

まとめ

今作では新しいツールによる新しい制作手法への挑戦とフィードバックを行うことができた。また、ホテルという特殊な環境下で展示を行えたことが貴重な体験であったと同時に、様々な発見と出会いがあった。

今回の一連のプロセスで考えたテーマや表現方法はは中心と周辺、表面との関係など、対象と私たちの認識との関わりを考える上で重要なものであった。特に、ルールが絡み合い、互いに同時進行で影響し合うような表現は今回のプログラミングを使った映像ならではの表現と言える。

一方、映像の表現自体はまだまだ目新しいものとは言えず、それ自体で成立し得るようなものではなかった。今後さらに複雑な映像表現や、別のツール(Open FrameworksやTouch Designer)を使った表現にも手をつけていきたいと思う。

機会をいただいたand_dの方々、見ていただいた方々、その他携わってくださった方々、ありがとうございました。

何回きても良い京都

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