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2019ブルベの旅#7:修験道を辿り峠を巡る。SR600紀伊山地世界遺産

SR(Super Randonnées)600はブルベの競技カテゴリーの一つ。コースは600kmで獲得標高10000m以上、制限時間は60時間。通常のブルベと異なり出走日時は選ぶことができる。山岳ツーリングで難易度は高い。

日本には今5本のSRコースが設定されている。その中から昨年発表された「SR600紀伊山地 世界遺産」を走った。古の修験者が巡った熊野の山と世界遺産をロードバイクで巡るという、いつか走ってみたかったコース。

獲得標高10756m(ルートラボ)。最大標高は1200m+ながら、高低図は見ての通りなかなか刺々しい。

キューシート(コース設定表)を見ながら攻略計画を立てる。SR600は初めての挑戦なので、宿泊を新宮と龍神温泉の二か所にして制限時間一杯で走ることにする。後は補給。ブルベはノーサポートなので自分で全て計画する。Google Mapで調べると驚くほどコンビニが無く、たまにある店も営業時間が短い。補給場所をいくつか設定しておく。

ガーミンに地図を入れ、PCと主なピークをコースポイントに登録する。こうしておくと上りの際に残りの上り距離がわかって気持ちが助かる。キューシートはPDFにしてスマホに入れる。宿を予約、自転車が持ち込み可能なのを確認して、往復宅急便で着替え・充電関係・補給食を送っておく。

携行する装備はアピデュラの防水バッグに詰める。マルトの非常用輪行バッグ・レインウェア・医薬品・修理用品・温度調整の着替え・バッテリーの予備。あとトップチューブバッグに携行食・携帯バッテリー・骨伝導のヘッドフォン。

ブルベの準備はドラクエで冒険の準備をするのと似て楽しい。

[5/25]スタートは岸和田りんくうタウン駅近くのセブンイレブン。0500丁度に買い物をしてスタート時間を証明するレシートをもらい、最初のピーク葛城山へ向かう。10%前後の続く厳しめの登りだが、車には一台も会わない。天気も良く、気持ちのいい朝のヒルクライムだ。PC2山頂に到着。

ここからのR24までの下りは傾斜がきついので要注意。滑りやすいコンクリート舗装、クレーチング、段差も多いので慎重に下りる。

続いて世界遺産のPC3丹生都比売(にうつひめ)神社に向けて上る。空海が高野山金剛峰寺(PC15)を建立する時にこの神社が神領を寄進したと伝えられている。ここも登りは厳しめだがまだ余裕。ピークのトンネルを抜けると静かな盆地に田園風景が広がり、抜けて神社に到着。

その後は平坦区間を抜けてPC4モンベル五條店を通過し、三つ目のピーク、桜の名所吉野山へ。吉野神宮駅の右折からきつめの登り。この後補給難が予想されたので、参道の茶屋にて名物柿の葉鮨+お稲荷+うどんでがっつり補給した後、PC5コウヤマキの群生着。

吉野山を下り、R169を40kmほど南に向かって緩やかに上る。右側には吉野山と熊野三山を結び80kmに渡って1000-1900mの峰々を踏破するかっての修験道、大峰奥駈道が通る大峰山。かっての修験者はどのように山を越えたのだろうか。

この日は5月にしては異常な暑さで路上は35度。傾斜はそれほどでもないが、日陰が無くきつい。時々水をかぶりながら上る。140kmあたりのピークを超えると長いダウンヒル。152kmの道の駅吉野路上北山のコンビニで補給と休憩。そこから下り基調でPC6七色ダムを超え、山間の道をたどって、夕刻の美しい棚田風景が広がるPC7丸山千枚田着。

丸山千枚田からは多少悪路を経て下り、その後川沿いに平坦基調で熊野三山の一つ目、PC8熊野速玉大社へ。

夕食を済ませ、予約しておいた新宮のホテルに20時前にチェックイン。2amのリスタートまで6時間、冷温浴・ストレッチに、ビタミンC・タンパク質・アミノ酸を取り、5時間睡眠できるのは悪くない。往復宅急便で送っておいた充電器で各種バッテリーを充電し、着替えて、洗濯物を送り返す。初日の走行距離234km。

[5/26]予定通りに2amにリスタートし、熊野の山を目指す。熊野三山二つ目のPC9熊野那智大社を通過、那智山スカイラインを上って那智高原へ。周りは真っ暗、動物の鳴き声の中を修行のように黙々と上る。途中妙法山の卍を通過。

さらに上って那智高原のピークにたどり着いたころに夜が明けた。

ここからK43,45,44と県道を40kmほど走りつつ二つピークを越えるのだがこの区間は曲者。森の中の一本道なのだが、一部区間で舗装が剥がれ、大きな穴が無数、土砂も浮いている。さらに湧き水で深い水たまりだらけ。明るいときに走ることを強くおすすめしたい。また時間にもよるが、245kmあたりの那智臨海のコンビニを過ぎると347kmの十津川温泉までほぼ補給は期待できない。自販機すら無い区間もある。くれぐれもお気をつけて。

県道ゾーンを抜けると国道に入り、川沿いを気持ちよく走る。随所に熊野古道への入り口があり、トレッキングされている方もちらほら。挨拶などしながら快調に走って瀞峡トンネルを抜けると「え、そこに曲がるの?」という道へ進むように指示が。そしてこのトンネル。

真っ暗な中を抜けると十津川村に入り、玉置山への登りが始まる。10%越が延々続くところもある今回の大ボス区間。この登りは厳しかった。

途中パンクで時間を食いながら、標高1000mのPC10大峯奥駈道石碑に到着。大峯奥駈道は75の「靡(なびき)」と言ういわばチェックポイントを巡るのだが、この玉置山は第10靡。PC番号と一致しているのは設計者の意図かな?しばしこの道を駆けた修験者に思いを馳せつつ休憩。

玉置神社に上ってくる対向車に気を付けながら下り、十津川温泉で100kmぶりの補給にありつく。PC11熊野三山三つ目の熊野本宮大社にて名物熊野もうで餅と抹茶を頂き一休み。

さらに熊野古道中辺路に沿って国道を走る。中辺路は和歌山県の田辺と熊野三山を結び、かっては多くの参詣者が寒い中でも水浴びをして心身を清めながら熊野三山へ歩みを進めたそうだ。

途中に「九十九王子」と呼ばれるほど点在する王子(=神社)の一つ、PC12近露王子跡(13:51)に到着。お誂え向きの藤棚のベンチで横になって少し休み、早めの食事。この後は補給難区間なのでしっかり補給する。その後いくつかアップダウンを超えて、二日目の宿泊地、日本三大美人の湯こと龍神温泉に到着(17:15)。

宿泊は有軒屋旅館さん、ロードバイクは玄関屋内で預かっていただき、なんと貸し切り渓流露天風呂まで楽しめた。

到着時間によっては食事がとれないことを予想して往復宅急便にて送っておいた食料で補給。充電等済ませて130amのリスタートまで6時間しっかり睡眠をとることができた。二日目走行距離228km。

[5/27]リスタート後は今コース最高地点の護摩壇山への上り。周囲は当然真っ暗闇、動物の声しかせず、車も全く通らない。こういう暗闇を心拍数を上げすぎないよう黙々と上っていると無の境地になる。標高1280mの最高点を超え、PC13着。

しばらく高野龍神スカイラインを快調に下った後、右折して野辺川村へ。下り基調だが路面の段差が多く落石もあって気を使う。空が少し白み始めるころ、もう一つの熊野古道、高野山と熊野三山を結ぶ参拝道小辺路の看板PC15着。

きつめのピークをいくつか越えて高野龍神スカイラインに戻ると、あとは下り基調でPC15高野山金峰寺に到着(6:12)。新宮以来250kmぶりのコンビニに、修験者の世界から現代に帰ってきたような感覚さえ覚える。

海南まで50kmの下りは文字通り「下界に戻る」感覚。久しぶりの市街地走行に気をつかいつつPC16着。このあたりから信号峠がきつい。PC17で最後の坂を上りゴールへ向かう。りんくうタウンが見えた時には感動しました。

ゴールのセブンイレブンで時間証明のレシートをもらう。11:28、54時間28分の冒険の旅が終わった。

SR600紀伊山地世界遺産、歴史を感じながら、山岳ブルベ楽しさと厳しさを満喫できる素晴らしいコースだった。新宮と龍神での宿泊も計算しやすい。もう一回、主要スポットを明るいうちに走れるようスタート時間を少しずらして、桜の季節に走ってみたいと思った。一方厳しさもある。特に補給場所が限られること、下りが非常に厳しいこと、一部の悪路、そして途中はほぼ電車が通っていないのでDNFが計算しにくいところは要注意。

素晴らしい旅を楽しませていただきました。AJ近畿の皆様ありがとうございました。

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