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突然の訃報に耳の塞がれど往生際の良き夏空よ



aeuさん、旬杯勝手に賞(短歌)、ありがとうございました。
お礼が遅くなってごめんなさい!

aeuさんが選んで下さったのはこの短歌

突然の訃報に耳の塞がれど
往生際の良き夏空よ

その突然の瞬間から一気に言葉にしてできた短歌のうちの一首でした。
だからうれしかった。
とってもうれしかった。
ありがとう、aeuさん。

自分の日常が変わったわけではない
自分の気持ちが過去に戻ったわけではない
ただ忘れてはいけない一瞬の事実

でした。

「突然の訃報」という「陰」な要素を含む上の句に対しての「往生際の良き夏空よ」という下の句が本当に秀逸で。
空は潔いほどに晴れて眩しい。その空の青さに、それでも世界は変わらずに進むし、今日も明日も当然に生きる私は、後悔や思い出を糧にして進むしかない

aeuさん談

その瞬間の気持ちを同じ目線で汲み取って下さいました。
ありがと〜ありがと〜、ほんとにありがと〜♡




悦びのaeu賞、過去記事「ありがとう、旬杯私設賞」に追記させていただきます。
感謝感謝♡♡♡


こちらはaeuさんの旬杯作品♡
一句一首に動きとドラマを感じさせてくれる
想像の余白を読み手に与えてくれる、とても短くて奥域の深い小説のよう

特にひろ生が好きなのは、

♡宵の道蟻蟻蟻蟻吾子が在り(俳句)


♡沈黙に溢れそうなアイスティー
妥当な言葉も見つからぬまま(短歌)


aeuさんの旬杯参加作品
↓↓↓


ここにこの悦びを追記するよ
↓↓↓



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気まぐれに思い立ったのだけど、記憶に留めるため、少しだけこの歌の背景を記しておこうと思った。
少しだけというのは、思い切り書いたら長編小説擬きになってしまうから笑笑笑


短歌はあと二種

白虹をゆるゆるなぞる君の爪
色なき色のじわりと滲む


潔く著書に囲まれ永遠の
安住の地を得し蠍かな



その人は詩人でコラムニストで化学系企業の研究員で、その昔恋人でした。
三回別れて、その後会うことなく最期の別れになりました。
訃報はその人の娘さんからでした。明るくてはっきりした素敵なお嬢さん。
初めての対話だったけど、知らせてくれたのがうれしかった。

比較的若くして、作家で組織されている複数の大小の会の理事や広報や、遡れば電子書籍の普及にも携わって、線の細い身体で、縁の下の力持ち的裏方と、数々の講演などの表舞台、執筆以外にもいろんなことを両立させているずいぶんと器用な人でした。
出版物も多数あるけれど、息子の父親であるその人のペンネームは、その人に家族がある以上、私がこの記事の内容の中に公に記すつもりはないから、著書の紹介もしません。

けれど、知り合った頃、初めてその人の詩を読んだ時の衝撃は決して忘れない。
色を表したいなら色を書くな
灯りを灯したいなら灯りを書くな
愛してるんなら、愛してる以外の言葉で表せ
自分自身に言い聞かせるように、斜に構えて淡々と言葉を操っていました。

弱音を吐くのが嫌いでプライドが高くて、人たらしのくせに敵が多くて。
クールなふりしてものすごく嫉妬深くて。
些細なことでヘソを曲げるどころか、ぐにゃぐにゃにこんがらがって、
実は全然クールじゃない。
だから繊細な詩が書けるんだ。
コラムは面白い。
たとえば文章における縦書きと横書きの与える印象や読まれ方についてや、誤植の想定外の面白さを書いたかと思うと、環境問題や社会への真面目に意地悪な批判。
矛盾を斜めから整えるふりの詩。
数少ない小説は……ノーコメント笑。
以前、一度読んでノーコメントと返したら、
それ以来小説を書かなくなってしまった……わ、わたしのせいじゃないよ!

その人は自然や自由を好んだ。
時間の隙間を見つけては、山や海でひたすらぼーーっと空を眺め、いつも眠ってしまう。
鳥になりたかったのは事実。
だから特に空を飛ぶことを好んだ。
自由を求めて求めて、もっともっとぼーーっとしたかったはずなのに、結局自分自身を束縛していたのではないかしら。
忙しすぎたと思う。頑張りすぎたとも思う。
創作に? いいえ、文化人であることに。社会の中にある人間であることに。

その人が逝く三日前だった。
その人との共通の知人である日本画家の個展を観に行った。
庭に通じる全てのガラスを開け放った畳敷きの空間で、深く妖しい胡粉の白が鮮やかな作品を観ながら真っ青な夏空を見た。
ここにはその人のことを知っている人間がたくさん集まっていた。
その時、急に思ったのだ。
「会わなくちゃ」

会わなくなって、一体どれほど経っていたのだろう。
その間、その人が大動脈解離に倒れたことを知った。生死を彷徨ったけれど蘇った。
心配はしたけれど、祈りもしたけれど、もう今は関係ない人。
それに、私には好きな人がいた。

そしてさらにその人は癌に冒された。
「俺は長生きの家系だから」と自慢げに語っていたその人。
その言葉に惑わされて、なんの根拠もなく、その人は生き延びるだろうと都合よく思おうとした。
だからすぐに会わなくてもいい。
年老いたら、笑顔で手を握り合えればそれでいいと、勝手に思っていた。

あの青空を見た時、それは違う! と思った。
今会っておいた方がいいんだ、と思った。
けれど、様子が全くわからない…………
そして三日後の訃報だった。
仕事に行くので、いつもの道を急ぎ足で歩いていたところ、突然電話が鳴った。
駅までの道がぐに〜と曲がって見えて、周囲の音がよく聴こえない。
ただただ真っ青な夏空が、やめてというほどにそちらに引き込もうとする。

物質と化したその人の肉体のありかを、娘さんが教えてくれた。
その人と一度しか会ったことのない息子と会いに行った。
何にもない小さな空間に、その人は横たわっていた。
誰もいない。
私と息子だけ。
人付き合いの華やかだったその人は、たったひとりでひっそりと目を閉じていた。
放射線治療の激しさを、顔半分を覆ったマスクからほんの少しはみ出した邪悪に黒い皮膚が物語っていた。
辛かったねって初めて涙が出た。
まるで実感が湧かない。

告別式はせずに親族だけでただ見送るという。
儀式事は無しだ。
本人の意思だ、と私は知っている。
娘さんがl私も呼んでくれた。
親族じゃないのに……このことがうれしかった。
でもやっぱり行かなかった。
その人は自分の本や原稿や決してやめない煙草に囲まれて、旅立ったそうだ。
原稿まで……? ここは今も疑問だけど
ただ、その人の妹さん夫婦がクリスチャンなので、出棺するときに讃美歌を歌ったそうだ。
無神論者のその人だって、そのくらいはうれしかったはず。

そしてその人は自分だけの墓に入る。
自分のペンネームが刻まれた墓。
ずいぶん前から用意していたと、以前、私に見せた墓。
「ここにひとりで入るんだ。自由だなあ」と笑っていた。
やっと自由になったんだね。
私は忘れないよ。
でも普段は忘れてるふりをするからね。
それにしても、いくら山が好きだって、空に近いからって、こーんなに高い山の上、
結局家族にまた迷惑かけ続けるんじゃないのかしら。

ま、わたしは海にばら撒かれるから。


自由な俺は空と同化するのだ



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備忘録のつもりが、すっかり長くなってしまいました。

最後まで読んでくださってありがとうございました。

はああ、展覧会が目の前なのにやる気が………笑


みんな、いつもありがとう。


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