Suchmosの特異性と魅力について【愛すべき僕のルーツ】
僕が初めて聴いたsuchmosは、HONDAのCMで使われていた『stay tune』だった。
小学生のころはボカロに東方にアニソンにとニコニコカルチャーを浴びて育ってきた僕だったが、『シャルル』や『フィクサー』などボカロ界のオシャレ化の波が押し寄せ、僕は未知のオシャレ音楽に惹かれるようになっていった。
当時よく聴いていたのはMi8kさんの『イン・レインボウズ』やぬゆりさんの『フィクサー』。「グルーヴ」という言葉を知ったのもこの頃だった。
また、youtubeのおすすめで出てきた東京事変の『能動的三分間』などを聴いていたら、おすすめにsuchmosが出るようになった。
そんな具合で中一の頃はsuchmosや東京事変などのオシャレ音楽を知っている優越感に浸っていた。
中一の6月頃、クラスの男子5人と宇都宮のラウンドワンに行った。
そこそこ遊んで午後になりカラオケをしようということになった。
そこで後に共にバスケ部に入る友人I君が『stay tune』を入れた。
この出会いが今の僕を作っているであろう。
後に僕の所属するバンド、小出万里那のキーボードのいまいも加わるが、彼が当時唯一のsuchmosトークのできる友人だった。
ここからネオシティポップ→邦ロック→渋谷系→インディーロックなどへと繋がる土台が作られたように思う。
そして中一の冬、女子とカラオケに行った時に『Girl』を入れてしまった苦い記憶。
カラオケって入れるとスべる曲、ありますよね。
suchmosの特異性
suchmosはジャミロクワイなどアシッドジャズをルーツとするバンドである。
日本でアシッドジャズをやったバンド、他に誰がいるだろうか。
suchmosはただのオシャレバンドではない。
同世代のnulbarich、LUCKY TAPES、バンドものではないのに当時一緒に語られていた(少なくとも僕の周りが)SIRUPなどと比べても、その違いがよく分かるはずだ。
他にもネバヤンやヨギーなどが同時期に出てきたが、この2組はネオシティポップと言うよりはシティポップリバイバルだと思っているので、そもそも系統が違いすぎるため比較をするまでも無いだろう。
suchmosの楽曲にあるのは、ブラックミュージックを取り入れたイギリスの白人的ダンスミュージックであるアシッドジャズ。
ブラックミュージックのもつ泥臭さ、重たさ、エグみを取り払い、軽やかでスタイリッシュな聴きやすいサウンドを構築しているのだ。
久保田利伸や宇多田ヒカルから脈々と受け継がれてきた、JーPOPにおけるR&Bのテンプレートから一歩外れたサウンドがsuchmosにはある。
さらに2nd『THE KIDS』あたりからブルースの要素もブレンドされるようになり、全ファンを驚愕させた3rd『THE ANYMAL』で完全に開花。
時折言われる『suchmosはジャミロクワイ等アシッドジャズの輸入しかしていない』といった言説を覆す、いなたい要素のブレンドは今日のポップスでもかなり稀だろう。
こういったJーR&Bの革命がネオシティポップブームを巻き起こしたのも当然であるように思える。
suchmos全員上手すぎる件
さて、ここからはsuchmosの演奏、技術面での話に入りたいと思う。
まず挙げられるのはOKのドラム。
若干前ノリかつハネの16分裏を強調しない、ダンスミュージック的な四つ打ちのアクセント感覚が重たさを和らげている。
一方HSUのベースはもったりとしていながらフレーズ自体はスムース。OKのドラムだけでは弱まりがちなファンキーなグルーヴを適度にプラスしている。僕も一端のベーシストだが、何度聴いてもこうなれる気がしない。HSUになりたい。日本人のベーシストランキングで言ったら新井和輝やハマ・オカモトと並ぶくらいなのではないだろうか。
また、彼はsuchmosの外でも最高の演奏を聴かせてくれる。HSUの客演曲で個人的に好きなのはwork/小袋成彬。小袋さんが何かのインタビューで「サンダーキャットみたい」と言っていた覚えがある。
さらに、HSUのすごさはベースだけではない。
作曲面では特徴的な半音のコード使いをする。
例えば『miree』や『armstrong』、そして『girl』。独特ながら軽快さを保った楽曲のテイストにも唸らされる。
そしてギター、キーボードのバランス感覚。
キーボードは目立たない部分も多いがバンド内でのスケール感は大きく、楽曲のニュアンス作りに大きく関わっている。
また、キーボードのTAIHEIはゆったりした歌声でのコーラスもお手のものだ。彼だけでなくsuchmosのメンバーは全員がコーラス出来るというのがやはり強い。
一方、TAIKINGが務めるギターはそのフレーズひとつで楽曲のテイストをロック/ファンク/ダンス、3つのジャンルの雰囲気に作り替えてしまうパワーを持ったパート。
彼はそのバランス感覚を上手い具合に各ジャンルごとに使い分けている。
更にDJのKCEE。ライブでのサンプリングは最高だし、音源においてもヒップホップやフロアの感覚を引き出してくれる。バンドの肉体性がロックやファンク的な性格に結びつき過ぎるのを防ぎ、世界観に彩りと奥行きを与えている。
もちろんYONCEは歌が上手い。声が最高に良い。YONCEに憧れてカラオケで練習していたら、いつの間にか息の多い声とラ行をLで発音してしまう癖がついてしまった。治したい。
キーボード伴奏のみのYONCEの『涙のキッス』のカバーをどこかで聴いたので、ぜひ聴いてみて欲しい。歌声の息の成分の作る広がりを体感できるだろう。
suchmosのアルバムについて
suchmosのアルバムを聴く順のオススメとして、ソウルとかファンクが好きな人は1stから2nd、次いで3rdという並び、逆にブルース好きなら3→2→1という聴き方がいいのかな、と思う。
suchmosの音楽性の変化として、
1st『THE BAY』はアシッドジャズをベースとしたR&B、ロックにヒップホップ的要素を導入した、Suchmosのパブリックイメージに一番近いものとなっている。
このアルバムで唯一のしっかりとしたロックチューン『Burn』からは2ndのガッチリとした楽曲への繋がりを想像させるが、まだこの段階ではアルバムにロック1曲、というところに留まっている。
続いて2nd『THE KIDS』はより洗練されたグルーヴ感とロック、ブルース、フュージョンっぽさが特徴。
1曲目『A.G.I.T』の骨太なベースにパワフルなシンセ。明らかに前作より深化したアーバンなサウンドを響かせている。
その他『DUMBO』『MINT』『ARE WE ALONE』に加え、メロウネスとロックが行き来するユニークな逸曲『SEAWEED』。
こういった変化は一部の楽曲をHSUが手掛けていた1stと異なり、6人でジャムをして作り上げたことが影響しているのかもしれない。
次いで、3rdという嵐の前に発表されたミニアルバム、『THE ASHTRAY』。
ここら辺の時期が一番思い出に残ってますね。
『FUNNY GOLD』とか『808』とかを教室で歌ったり、『VOLTーAGE』でsuchmosが紅白に出た時のYONCEの『臭くて汚えライブハウスから来ました』をめちゃ真似したりしました。
という感じで今までのsuchmosと共通する都会的なサウンドも残しつつ、ブルージーな味わいの楽曲が揃っているこの作品。
このあたりから「suchmos、なんか変わってきてね?」みたいな感じが出始めた。
そして3rd、『THE ANYMAL』。
正直僕は分かりませんでした。今も分かりません。
曲ごとの難易度で表すと、
★☆☆☆☆ 『WATER』『WHY』
『PHASE2』
★★☆☆☆ 『ROLL CALL』
『HERE COMES TGE SIXーPOINTER』
『BUBBLE』
★★★☆☆『HIT ME, THUNDER』
『In the zoo』
『You Blue I』
★★★★☆ 『BOUND』『ROMA』
★★★★★ 『Indigo Blues』
こんな感じですかね。
意外と慣れると聴きやすいですが、最初は眠かったり、独特で気持ち悪いと思ったりするかもしれません。『Indigo Blues』とか10分超えてますし。
伝説の横アリライブ
19年9月、横アリでのライブ。このライブアルバム、映像も出てます。
1stから3rdまで、彼らの総決算のようなライブで、新曲の『藍情』やサンプリングで新しい表情を見せる『Miree』や『Alright』。
特に『Alright』の『space cowboy』のサンプリングは最高だった。
当日の天候も相まって輝きを増した『HIT ME, THUNDER』も見どころ。
また、プレイヤーそれぞれの演奏力が映像で長時間見られるのも魅力。
HSUは『STAY TUNE』であんなに動くベースを弾きながらコーラスをする。やばい。
TAIKINGのソロが唸るように鳴る。
TAIHEIのメロトロンのサウンドも極上だ。
KCEEの『808』の前の演出も見事だし、OKは相変わらずの安定感。
YONCEは『PACIFIC BLUES』が最高潮だったと個人的には思う。アドリブっぽいフレーズの数々も最高。
といった感じで、suchmos入門には持ってこいのライブとなっている。
まとめ
ただ僕がSuchmosを好きなだけのnoteでした。
やはりsuchmosはネオシティポップムーブメントの旗手として今のポップスに大きな影響を与えた、という功績がでかいですね。
しかしそれ以上に「R&Bって気持ちいい」という感覚を一般に改めて広めるきっかけを作った点も注目されるべきだと思います。
suchmosのメンバーは、現在ソロだったり客演だったりでばらはらに活動しています。
亡くなったHSUさんという大きすぎるピースを埋めるのは容易ではないと思うが、いつか彼らの演奏を見てみたいと思っています。
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