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台湾情勢と新米大統領下における日本の立ち位置

台湾の政治と政権

 2020年の米大統領選もようやく決着。バイデン新大統領が就任する運びとなるようである。そこで、注目される対中政策に関し、無視できないのが台湾。台湾は「族群」という民族特有の問題を抱え、外には中国共産党の圧力がある。昨年、台湾民主化の象徴「総統直接選拳」を2度勝った蔡英文政権は安定したものとなった。中国国民党と民主進歩党の二大政党の争いは、国民党が圧倒的に優勢であった過去から、民進党が相対的に有利な状況に転換し現在に至る。
 その台湾を取り巻く情勢は緊迫度を増している。中国の統一圧力である。習近平時代に入り、軍用機や軍艦による台湾周辺を航行、米中対立の本格化など、台湾は地政学的にその最前線に位置する。

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民主化から民進党優位になるまでの25年

 昨年の総統選挙、817万票という台湾選挙史上最多の票を得て蔡英文が再選。勝因は、台湾アイデンティティの定着とされる。その背景には、習近平による台湾統一や香港もおける抗議行動など対中警戒が高まり、民進党政権にとり有利となった。
 故李登揮が当選した1996年以降、絶対的優位だった国民党は分裂を繰り返している。そんな中、民進党が徐々に追い上げ、選挙を重ね民進党の優位が維持されている。
 昨年の総統選に参戦した「宋楚諭」は、国民党でも民進党でもない勢力として出馬し、上図のとおり国民党を二分する結果となった。選挙戦では、宋楚諭は国民党に合流することはないとされた。また、選挙において第3勢力として民進党を脅かすことはなかった。将来にわたり民進党を脅かす可能性は低く、今後も民進党は相対的に優位と判断される。

台湾のアイデンティティとナショナリズム

 台湾政治が民進党優位に転換した背景に、台湾民衆意識の変化もある。毎年台湾では、「台湾人(緑色)」「中国人(青)」「台湾人でもあり中国人でもある(赤)」との3択により意識調査が実施される(政治大学選挙研究センター 下図)。
 その調査で「中国人」という回答は減少している。2010から2019年の調査平均すると「台湾人」約56%という結果である。つまり民進党を支持する比率が高い背景がこの意識にあるということ。

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 また、台湾の将来について「独立志向」「統一志向」「現状維持」のどれを支持するかという調査結果もある。台湾独立というのは、台湾国家(台湾共和国)建国を指し、中国統一とは、台湾と中国大陸の両岸は将来統一されるべき。一方、現状維持というのは独立と統一の中間にあるされる。
 ここで注意が必要であり、台湾では独立と統一の両者を同じものと捉える人がいる。それは、民主化し台湾化した中華民国の現状を維持する立場を指すとされる。ちなみに、台湾と中華民国は別の概念である。
 以上、3つを整理し換言すると、将来に係る台湾の政治的立場は、台湾ナショナリズム(独立志向)中国ナショナリズム(統一志向)、それら二つのナショナリズムの中間にあるゆるやかな台湾アイデンティティ(現状稚一)の3つに区分できる。
 台湾ニュースを見る場合、独立思考、統一思考などと簡略化されるので、注意することが重要です。

台湾という中華民国 

 故李登輝は「中華民国在台湾(台湾にある中華民一国)」という概念を打ち出し、統一も独立もしない現状維持という政治的立場(台湾アイデンティティ)を形成した。その路線を継承したのが蔡英文であり、蔡氏は「中華民国、台湾」という用語を使っている
 現在、中国ナショナリズムは次第に小さくなったと言われる。一方、台湾ナショナリズムは徐々に拡大したが過半数には届かない。支持が最も多いのは台湾アイデンティティである。其々の支持率は以下の通りです。

 独立支持 29%
 現状維持 49%
 統一支持 16%  政治大学選挙研究センター調査結果2020年)

 民進党も国民党もナショナリズムの基礎票だけでは選挙に勝てないので、現状維持(台湾アイデンティティ)に支持を求めざるを得ない。その現状維持(台湾アイデンティティ)の層は、両極ナショナリズムへの警戒心がある。近年は習近平が台湾統一の圧力を強めていることから、中国ナショナリズムへの警戒がより高まっている。台湾独立を希求する人たちは蔡英文の現状維持路線に不満であるが、蔡英文は民進党の主席として党内をうまく抑え、中国の圧力に屈しない最大多数の支持基盤を形成しようとしている。

 WWⅡ後、台湾における政治経済体制は「親米反共」路線で構築。蒋介石が打ち立て犠牲を払いながら維持し、この価値観は台湾社会に深く浸透している。米中対立となれば台湾アイデンティティの層は確実に米国に傾く。米国との連携強化に動いている蔡政権はその流れに合致している。従って、国民党敗北はこの枠組みで説明できる。米中対立の激化は、民進党に有利、国民党に不利、という傾向をさらに強めている・・・・

2期目の蔡英文政権と今後

 民進党は一強となり政権が長期化。政権与党のさまざまな問題、利権やポストをめぐる党内の争いなど、台湾メディアによる批判報道は増えている。蔡英文の支持率が下がる場面があったが、コロナ対応で高支持率を維持してとされる。国民の生命がかかる問題で統治能力を示した。さらに、米中対立の中で米との連携を強め、台湾の防衛強化を図っている。トランプ政権下で、戦車108両、戦闘機66機などを購入するなど、台湾の有権者にアピールする効果もあった。日本政府はその一方で、台湾が福島周辺五県の食品輸入を制限していることを理由とし、2018年以降は対台湾政策をほとんど展開していない。安倍政権は親台派などと言われていたが、蔡政権への支援を特にしていない事実がある。

日本の役割として考えるべきこと

 現時点で中国が台湾侵攻作戦に打って出る可能性は否定できない。一部の軍事情報紙などから、中国は上陸作戦及び台湾占領統治の青写真を描けていないとされる。しかし、中国が軍事的威嚇行動を継続する可能性は高い。仮に台湾侵攻となり、台湾がパニックに陥り、米軍も日本も傍観する状況となれば中国はチャンスと見て軍事行動をエスカレートさせる可能性があるとの指摘がある。幸い蔡英文政権の権力基盤は安定、統一拒否の民意も強い。軍事的威嚇で台湾が簡単に屈するとは思えない。

 日本政府は傍観せず、中国の武力行使は絶対に許さないという強い意志と備えを保持し、その意思を中国に表明し国際社会に連携を呼びかける必要があると感じる。中国からの反発以上に台湾侵攻による代償は計り知れない。台湾海峡の平和維持は日本の国益からも必要であり、コロナが収束したなら台湾交流を活発にすべきである。
 仮に中国が武力行使をすれば、日本において台湾への同情が極度に高まり、反中感情が爆発することが容易に予測できる。日中関係はその瞬間から正常化できなくなるという見通しを中国に強く意識させることは必要と感じる。

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