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ジョニー・ウィアー、永遠のスワンへのオマージュ

 最愛のフィギュア・スケーター、ジョニー・ウィアーがプロスケーター引退を発表。筆者はバンクーバー・オリンピックからの彼のファンなので、最後となるFantasy On Iceを見逃すわけにはいかなかった。

 Fantasy On Iceは、日本で最も人気の高いアイスショーの一つで、ジョニーはそのレギュラーメンバーなので、アイスクリスタル会員である筆者は毎年のようにチケットを入手して観に行っていき、毎年衰えることなく進化していく彼の演技に魅せられ続けていた。コロナ禍前の公演でトリノ五輪SP2位の伝説のプログラム「The Swan」を当時の衣装で披露してくれたことが記憶に新しい。

今年はいつもの幕張公演を逃してしまい、リセールチケットを入手して新潟公演に出かけることになった。新幹線で日帰り遠征することになってしまったが、筆者にとって初めてアイスショー体験は新潟、朱鷺メッセのFantasy On Iceで、まだ現役のジョニーや15歳の羽生結弦の演技を初めてリアルで観た想い出の地なので、感慨深いものがあった。

Fantasy On Ice 新潟公演の製氷タイム

 ジョニーのプログラムは二つ。前半の「Creep」では、レインボーカラーのロングドレスで舞い、大人っぽい穏やかな雰囲気で、ダイナミックな動きで自分の世界を表現。繊細さや独特の官能性の中に、男性スケーターならではの力強さがある彼の魅力が存分に表現されたプログラムだった。 後半は、純白のスワンのバレエ衣装で登場。これまでのプログラムで聴き覚えのあるイントロの後、「月の光」が始まる。冒頭のバックに流れている風のようなサウンドで、バンクーバーのプログラム「Fallen Angel」を思い出した。「月の光」にのせてバレエダンサーのようにステップを刻みジョニーはやはりスワンで、白鳥を思わせる独特のシットスピン(スワンスピンと筆者が勝手に命名)は、羽生結弦に継承されている。これが最後と思うと、ただただ感動するばかりで、演技のディテールなのでついてここで書き綴ることはでかないが、あくまで優雅で気品に溢れるジョニーの演技に、まだ余力を残しながら、プロとして自分なりにやり遂げた時点で美しいまま去ることを選んだのだと感じた。競技会から引退するときは、誰しも衰えを体験し、否応無しにその時期は訪れてしまうのだろう。3回目のオリンピック出場を目指しながらの苦渋の決断だったことだろうが、ジョニー・ウィアーの場合もまたそうだった。

しかし、プロからの引退の時期はもっと自由に選べるのかも知れない。すべてのスケーターにプロとしてできるだけ長く演技を続けて欲しいと筆者は願うが、或いはジョニーがジョニーらしく滑ることができる時期はもうあまり長くなかったのかも知れない。そして、誰よりもそれをわかっているジョニー自身が絶頂のうちに銀幕を去る女優のような誇りをもって引退を決意したのかも知れない。と、想いを巡らせても邪推に過ぎないのだが。

ジョニー・ウィアーのクロスジェンダーな演技は、決してコミカルなものではない。先駆者としての苦難を乗り越え、闘いながら歩んできたスケート人生において到達した境地である。現役時代は芸術性の高さで定評があったジョニーだが、Presentationのスコアは巷の評価に反してむしろ低めで、それでもTechnicalで高得点を獲得して、2回のオリンピック出場や全米チャンピオン、世界選手権のメダル獲得等、優れた戦績を達成した。

神戸公演の幕切れでは、羽生結弦がトリノオリンピックFPのジョニー・ウィアーのFSプログラム「Otonal」を披露し(自身のSPではなく)、最高のオマージュを捧げた。その意義について、また現役時代のジョニーの苦難なのでついて知るのにちょうどよい論文があるので、ここでお勧めしたい。

フィギュアスケート男子シングルにみる
ジェンダー・クロッシング
―21 世紀初頭のオリンピックにおけるパフォーマンスから―

Gender-Crossing in Men’s Single Figure Stating ―Focused on Performances in Olympics in the Early 21st Century―
https://gssc.dld.nihon-u.ac.jp/wp-content/uploads/journal/pdf16/16-113-124-Aihara.pdf

何を隠そう、筆者が書いたものである。日本語なので本人には伝わらないが、ここにこのリンクを貼り、彼の偉大さを知ってもらうことが、ファンとして捧げるオマージュである。凄まじいクリエイティビティと個性、エネルギーの持ち主であるジョニー・ウィアーの今後の人生を応援したい。

そして、これをもって文筆に復帰するのが #私のチャレンジ である。


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