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ディープインパクトとオルフェーヴルの不適切万冊 その1 岩井志麻子『魔羅節』

 運命の時間です。

ついに始まった『不適切万冊』第1回。

 オルフェーヴル「ディープ先輩、ええもんありまっせ」
 ディープインパクト「オルちゃん…やはり例の本を紹介するんだね? Quoraならまだしも、netkeibaでは紹介出来ない題名や内容のあれを…?」
 オルフェ「もちろんです! 岡山県が誇るヘヴィノベルの女王、岩井志麻子さんの短編集『魔羅節』(新潮文庫)です!」
 ディープ「僕ら三冠馬の品位が地獄のどん底に突き落とされるよ」
 オルフェ「まあ、作品内容自体は確かにこの世の地獄みたいなものですね。それはさておき、この露悪的なタイトルが並ぶ短編集ですが、岩井さんの十八番である明治時代の岡山県が舞台のホラー小説が並んでいますね。その岩井さんの一般文芸デビュー作『ぼっけえ、きょうてえ』の流れをくむ作品集です」
 ディープ「一番の怖さは『貧困』だというのが、『ぼっけえ、きょうてえ』と共通するね」
 オルフェ「田舎にありがちな閉鎖性も『ぼっけえきょうてえ(とても怖い)』ですね。そういえば、現代の秋田県の某村では、地元民が新任のお医者さんたちを次々といじめ抜いて追い出しているそうですし、沖縄県ではガリ勉に対する蔑称として『マーメー』というのがあるらしいですね」
 ディープ「いわゆる性的マイノリティーの人たちに対する差別も都会よりずっと根深いようだし、たとえシスジェンダーの異性愛者でも、いつまで経っても独身だと色々と陰口を言われるようだね」
 オルフェ「そんな田舎と比べると、都会とは孟嘗君みたいな場所です」
 ディープ「孟嘗君? 宮城谷昌光さんの小説の主人公になったあの人みたいな場所?」
 オルフェ「ある人曰く『芸能界とは普通の社会人として生きていけない人間のための受け皿だ』。それと同じ事は『都会』という場所にも言えます。俺が思うに、発達障害者や性的マイノリティーの方々は高学力・高学歴を身に着けて、都会の頭脳労働者になるのが望ましいのかもしれませんね。それに対して、『田舎』の肉体労働者は、シスジェンダーで異性愛者の定型発達健常者を基本とするものだと思います」
 ディープ「確かに、言われてみれば、孟嘗君の食客たちは田舎の農民というよりは、都会の『遊俠』のイメージだよね。他の戦国四君の三人の食客集団もそうだな」
 オルフェ「『ウマ娘』におけるシリウスシンボリさんも孟嘗君的な立ち位置ですね。標準的な規格には収まらない人たちのための受け皿は、いつの世の中にも必要です」
 ディープ「そう、世間の物差しだけで人を切り捨ててしまうのは、いざという時に自分自身も切り捨てられてしまうから、そのような事態をなくすためにも、排他性を自らのナルシシズムを満たすための手段にしてはいけないね」
 オルフェ「まさに、その通りです! そうでなければ、俺みたいなヤツは三冠馬にはなれませんよ」
 ディープ「君にも一応異端児の自覚があるんだね?」
 オルフェ「ディープ先輩、そりゃあんまりですよ。俺だって、それなりに客観性やらメタ認知やらはあるんですから」

【Blue Film - ピエールとカトリーヌ】
 ディープ「やはり、そういう選曲なんだね」
 オルフェ「まあ、志麻子さんですし」

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