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「彼女のいない部屋」

原題:Serre moi fort
監督:マチュー・アマルリック
製作国:フランス
制作年・上映時間:2021年 97min
キャスト:ビッキー・クリープス、アリエ・ワルトアルテ、アンネ=ソフィー・ボーウェン=シャテ、サシャ・アーディリー

 クローディーヌ・ガリア作の戯曲『Je reviens de loin/遠くから帰ってきた』の映画化。
「この映画を観る前の方々には明らかにはなさらないでください。」との監督の言葉。加えて予告にあるのも「家出をした女性の物語、のようだ」という至極シンプルで手助けにもならない一文のみ。
 こうしたミステリー要素を含んだ作品では特別なことではない。けれども、この作品では時系列がそもそも事実に基づくのか彼女の想像時には妄想なのかという描写がふんだんであるため慣れない方には厳しい面もあるかもしれない。
 せめてフランス語ではなく英語であったならもっと字幕ですくえなかったことを読み込めるかもしれない、と作品途中までは流れを追うことに集中させられた。

家族のポラロイド

 作品の中でも扱われる家族のポラロイド写真を彼女が神経衰弱のように扱うシーンがある。過去はピンナップのように果たして永久に固定されているのか。写真として存在し続けることと生き続けることは別だ。時間の流れを加工することは出来ない。悲しい描写。
 

AMC・ペーサー(1977)

 その時には最良に見えた考えに基づいての行動に後からは何も言えない。

 方法論はそもそも幾つもある。その中で彼女が最後に生き抜く為にとった行動が彼女を救ってくれることを願うばかり。

 物語としてはやや難解だが、作品中に流れるピアノの音が台詞を補うように響く。もう一度、そのピアノ(作品を観ながら音楽を)聴き直したい。

 「そのピアノの弾き方は確かに独特ですが、あれはまるで木製の棺に釘を打ち込んでいるような、死んでしまったことに対する怒りというものが表現されています。リゲティ・ジェルジュという作曲家の曲のように。そういうピアノの弾き方をするためには、やはり本物のピアニストが必要です。幼い頃のリュシーを演じている アンヌ=ソフィ(・ボーウェン=シャテ)も、成長したリュシーを演じたジュリエット(・バンヴェニスト)も、本物のピアニストです。現場には彼女たちが練習できるように撮影用以外にピアノをもう1台置いていたのですが、彼女たちはコンセルヴァトワール(パリ国立高等音楽院)などの課題のために一生懸命練習していました。ということで、彼女たちが本物のピアニストだから同時録音が可能になり、マジカルと言ってもいい、生き生きとした音になったと思います。」
 *特別対談『彼女のいない部屋』マチュー・アマルリック監督 × 黒沢清より引用

☆☆☆★



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