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「ヒトラーの忘れもの」

原題:[Land of Mine]Under Sandet
監督:マーチン・ピータ・サンフリト
製作国:デンマーク・ドイツ
製作年・上映時間:2015年 101min
キャスト:ローラン・モラー、ルイス・ホフマン、エーミール・ベルトン、オスカー・ベルトン

 東京国際映画祭(2016)で最優秀男優賞を受賞した「地雷と少年兵」が「ヒトラーの忘れもの」の邦題に改題されている。原題にはそもそもヒトラーは入っていないが興行側は「ヒトラー」と入れることで集客を狙ったかもしれない。しかし、寧ろ逆効果だろう。原題の「地雷の国」に近い当初の「地雷と少年兵」方が映画の内容を的確に伝えている。

 史実に基づき第二次世界大戦で大西洋沿岸に埋められた地雷撤去に敗戦国ドイツ少年兵が携わった当事国デンマークでも知る人が少ない事例が描かれる。
 戦後70年を経ても、まだ語られていない戦争が招いた悲劇が日本に限らず世界中にあること、そして、憎しみの負の力は人間が持つ共通のもので憎しみから来る残虐性に国の差がないことを改めて見る。デンマーク軍服をドイツ軍服に替えても同じ行為が映画の中にある。
 終戦後まで引き摺る憎悪。終戦末期、各国の軍人は本人の意思よりも供給のバランスを欠いて学生までもが駆り出されている。この映画の少年兵も高校生のような子らだ、決して大学生ではない。大人の戦争の巻き込まれ何一つ反論できない立場に置かれたナチの軍服姿の彼らが本当に観ていて辛かった。

 「大西洋の壁」はスカンディナヴィア半島からピレネー山脈へと延びる海岸線2600kmに配置された防御線。数字2600kmよりも地図で見る方が愕然となる。日本列島3000kmで比較するとその気が遠くなる戦争図に言葉を失くす。
 この内、デンマーク海岸線は400kmに地雷150万個が残ったと云われる。

 ドイツが埋設した物であればドイツの手で撤去させよということらしいが、もしデンマークがドイツの保護国ではなく交戦国であれば敗戦国兵士をこうして作業に従事させることは国際法に触れる可能性があるらしい。この作業で900人の命が失われた。

 作業中、仲間が欠けていき精神的にも追い込まれていく中「逃亡して射殺されたほうがましだ」と宿舎としてあてがわれている小屋から逃げ出そうとするのが上記の写真少年。これはロシアンルーレットと変わらないのだ。

 少年らと地雷が埋められていなければ美しい白砂の海岸の風景が続く。風景の美しさは現実とのコントラストでその戦争「後」の悲惨を際立たせる。
 映画の内容は想像はしていた筈が、その再現された世界は非業だ。

 海岸の美しさと同じように映ったのが少年兵らの悲しみに満ちた瞳だった。
 制帽がある為に尚のこと瞳が強調されてもいたのだが、皆素人からの人選らしいが言葉以上に語っていた。

 鬼軍曹として登場してくる彼の心情は、おそらく誰も責められないだろう。
 戦争の「狂気」から任務として少年兵と向いていく内に、狂気が解かれ人間性を取り戻していく過程もまた素直に同意できる。
 全体に饒舌ではないが3年もかけられた丁寧な脚本と俳優陣の演技、実際の海岸での撮影。心に残るいい作品だった。
★★★★☆

 

 


 


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