背番号0の系譜 並木秀尊

「五十幡くん、ウチじゃないのか……」

中央大学・五十幡亮汰の交渉権を、北海道日本ハムファイターズが獲得した瞬間の、ヤクルトファンの切実な声だ。

ヤクルトファンは、足の速い選手が大好きだ。それは、野村克也の教え。

「スカウティングでは、肩が強い、足の速い選手を連れてこい。野球なら、入れてからいくらでも教えられる。しかし、肩の強さ、足の速さのような天性の才能は、教えようにも教えられない」

これが、闘将・野村克也の信条だ。野村政権下のヤクルト黄金期、その信条を野球素人の私は真に受け、以降、そういった“天性の才能”を持った選手につい目がいってしまう。

だから、“サニブラウンに勝った男”・五十幡亮汰は、そのときのチーム事情に左右されることなく、ヤクルトが獲得に動く。そうでなければおかしい!という根拠なき自信に満ちた憶測を持ち、ドラフト会議に注目していた。

いそばたくんが、よそ様の子になってしばらくして、ヤクルトはやはり「俊足好きなのだなぁ」と思わせた5位指名が、獨協大学・並木秀尊だった。
どうやらなみきくんは、なんと!

“サニブラウンに勝った男に勝った男”

らしいのだ!

いそばたくんがサニブラウンを破ったのは、中学3年生のとき。全国中学陸上競技選手権の100M、200Mの二種目で優勝した。陸上のスカウトの声がかかる中、「プロ野球選手になる」という夢をぶれずに持ち続け、野球を続けた。
プロになるまでの道のりで、夢を目標に変え、野球を続けた、いそばたくん。努力が報われた。おめでとう。私はファイターズファンだから、鎌スタで会えますね。いや、鎌ヶ谷にいる時間は短いかも知れない。その俊足で、あっという間に札幌まで行ってしまうかも。さあ私も、来年こそ札幌遠征だ。

そんなことを思いながら、ヤクルトファンとしてさみしい思いをしているところで飛び込んできたのが、“サニブラウンに勝った男に勝った男”というパワーワードだった。

私は、並木秀尊という野球選手を知らなかった。

ドラフトで指名された選手たちを検索する中、見つけた記事は、なみきくんの俊足エピソードを紹介していた。

3月の対東京大学戦で三塁打を放った、なみきくん。到達時間は11.19秒。一塁到達3.53秒。プロ野球選手に遜色ない速さだそうだ。

記事では「ヤクルト、日本ハムのスカウトが視察する中、存分に持ち味を発揮した。」とある。

……今後も、ヤクルトとファイターズの俊足男子の取り合いが続くのだろうか。

なみきくんが、いそばたくんに勝ったのは、日本代表候補合宿。50M走で、5.42秒のいそばたくんを抑え、5.32秒を叩き出した。

存在感を示した、なみきくん。獨協大学初のNPB選手となった理由がよく分かる。こういう秀でたものがあることは、大きなアピールにつながる。

すごいな。さらにリサーチを続けると、その俊足の理由がよく分かる動画をSNS上に見つけた。なみきくんのトレーニング動画だ。

ボックスジャンプトレーニングの風景。「60」という文字が書かれた台が2段に積まれたボックスに、跳躍で飛び乗る。数字をそのまま捉えれば、台は120cmの高さだ。それを、助走なしで昇降を繰り返す。
この跳躍力。臀筋と大腿筋を使わなければできないことだ。そして、この高さだ。これで瞬発力を鍛えられたなら、そりゃあ、サニブラウンに勝った男にも勝てるだろう。いやぁ、お見事!

そんな、なみきくんと東京ヤクルトスワローズは今日、11月27日、仮契約を結んだ。

与えられる背番号は、「0」。

前任者は、藤井亮太。彼もまた、ヤクルトの俊足だった。

そうか。そうくるか。藤井が2年間背負い、グラウンドを駆けた背番号「0」は、並木に渡されることで、俊足の系譜となった。

12月1日の新入団選手発表会は、リモートとなった。並木秀尊の足を見るのは、いつか。
ファイターズとの交流戦は、神宮だ。サニブラウンに勝った男vsサニブラウンに勝った男に勝った男。楽しみにしている。


12月7日のトライアウトは、非公開らしい。頑張って。頑張れ。

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