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やる気 元気 なるき

寺島成輝がイキイキと投げていた。ある日のCSアーカイブ放送、2016年の侍ジャパンU-18のチャンピオンシップ、中国戦だ。
チーム編成は8人のピッチャーが外野手兼任という、ピッチャー偏重の変則チームだ。そのうち7人は、寺島の他に藤嶋健人(中日)、堀瑞輝(北海道日本ハム)、藤平尚真(東北楽天)、高橋昂也(広島)、今井達也(埼玉西武)、島孝明(元千葉ロッテ)と、高校からプロ入りした選手が名を連ねる。面白いチームだ。野手も九鬼隆平(福岡ソフトバンク)、鈴木将平(埼玉西武)、松尾大河(横浜DeNA→琉球BO)と3人。
ワクワクする高校生のトップチーム。その中でも寺島は、高橋、藤平と並び「高校ビッグ3」と呼ばれる注目選手だった。この試合、寺島は7回ノーヒットのピッチングを見せる。翌日の準決勝・韓国戦、翌々日の決勝・台湾戦はDHでスタメン出場している。
国歌斉唱、ベンチ、ブルペンと、プレー以外でも寺島がカメラに映る。このエリート集団においても、寺島はエースだった。
自信に満ち溢れた寺島の表情に、見ている私の口元もゆるむ。未来が明るい、前途洋洋の野球少年そのものだった。

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▲2019.6.2 sun. ファーム・ファイターズ戦 in 鎌ヶ谷スタジアム


この年のドラフトで、東京ヤクルトスワローズは、寺島成輝を単独1位指名で獲得する。それから3年。こんな超絶エリートでも、神宮のマウンドが遠い。高卒ルーキーという大切な宝を守るための、球団の育成方針もあるだろう。だが、私がずっと気になっているのは、寺島の笑顔を見たことがないということだ。

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▲2019.6.2 sun. ファーム・ファイターズ戦 in 鎌ヶ谷スタジアム


打者を抑えてマウンドを降りるときの寺島の、ほっとした笑みを見ることはあっても、「野球をしていて楽しいか」、それが読み取れない。そしてそれは、高校侍の試合を見ていても感じたことだった。高校生の最高峰。国際試合という晴れの舞台で、これだけ投打のヒーローとして活躍できれば、それは楽しいだろう。しかしプロに入り、その“活躍”という楽しさを抜いて野球と向き合ったとき、野球を「楽しい」と感じる瞬間はあるのだろうか。そんなことを勘ぐってしまう、寺島の表情だ。

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▲2019.7.20 sat. ファーム・楽天戦 in 明治神宮野球場


テレビの中の、高校生のなるき。もっと単純でいいのに。単純に、野球を追及してくれればいいのに、エースとしての自分、投げて打って活躍するスーパー高校生の自分を、周りにつくって見せているような気がしてならないのだ。

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かわいいなるきの笑顔を見たのは、2019年11月24日、ヤクルトファン感謝DAYの「履正社高校初優勝記念OBトーク」だった。決勝で敗れた星稜の奥川くんには大変申し訳ないが、夏の甲子園、履正社初優勝に、卒業生4人を抱えるヤクルトファンは、それはそれは盛り上がったのだ。
長男・山田哲人、次男・宮本丈、三男・中山翔太、四男・寺島成輝が、履正社高のユニフォームを着て、『栄冠は君に輝く』に合わせ行進し、入場する。楽しいトークコーナーだった。てつとが、いちばん上の子……感慨深い。そんな中、寺島成輝は、はにかんだ笑顔で遠慮がちに話す末っ子だった。

今シーズンが終われば、大卒ルーキーとして同級生が入団してくる。まだ末っ子でいられるうちに、奔放に野球をしてほしい。元気な野球少年であってほしい。周囲の羨望のまなざしではなく、渾身の一球一球に野球のよろこびを感じてほしい。

2020プロ野球開幕まであと18日なるき22

野球ファンというものは、野球好きな野球少年の野球を見たいのだ。

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