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川端慎吾を見て思う、キャプテン・山田哲人の不在

7月4日火曜日。対DeNA戦は3対3の同点で9回表の攻撃を迎えていた。
首位争い真っ只中のDeNAは、やはりなかなか勝たせてくれない。
ライト前ヒットの長岡秀樹を一塁に残し、2アウトで登場したのが、「代打の神様」川端慎吾だ。

一塁が空いているときの川端慎吾は、大抵ゆっくりと一塁に歩いていく。
そりゃあ、打たれるのが分かっている相手と勝負しても仕方がない。申告敬遠という素晴らしい制度に、“神”の出る幕はなかった。

しかし今日は、秀樹が一塁にいる。いや、一塁にランナーがいたところで、申告敬遠してもいい。
しかし、もう2アウト。ダブルプレーの必要もない。ピッチャーは勝ちパターンのクローザー・山﨑康晃。
神相手でも、真っ向勝負で倒せばいい。

不思議なヒットだった。手前に叩きつけた打球は、ファーストを守るソトの頭上に大きく跳ねた。
手の届かないボールはライト前に抜け、慎吾は二塁へ。タイムリー2ベースの間に、なんと長岡秀樹が一塁からホームイン。土壇場で勝ち越した。

今シーズンのヤクルトなら、9回裏にサヨナラ負けを喫するところまでがストーリーだが、7月は無敗だ(当時)。このままいけ。頑張れ。
今季のクローザー・田口麗斗が締め、ヤクルトは3対4で勝利した。
……6月初旬も、「無敗だ!」とよろこんでいたな。4連勝していたな。懐かしいな。

ヒーローインタビューはもちろん、川端慎吾。
そこで、キャプテン・山田哲人不在の中、どう戦うかと問われた川端は、こう答えた。*

「哲人がけがしてしまったので、なんとかみんなで、全員でカバーしていこうよと話もしてるので何とか1つ1つ借金を返していけるよう頑張っていきたいと思います」

山田哲人は、今季二度目の離脱をしている。
試合中に痛めた足の怪我が、思わしくないらしい。
一度復帰してきた時も、途中交代や代打起用など、様子を見ながらプレーしていたが、7月2日の神宮で再び負傷し、登録抹消となった。

山田哲人は昨年、丸山和郁のサヨナラタイムリーでセ・リーグ2連覇を決めた瞬間、全員が笑顔の中、ひとり泣いていた。
キャプテンを引き受けて2年目、日本一に輝いた21年シーズンでやり残した「野球で率いる」ことを目標にしていた。
しかし、思ったような成績を残せず、三冠王・村上宗隆の日本人新記録の56本塁打という大活躍に率いられるシーズンになってしまった。
そんな悔しさと、優勝に辿り着いた安堵は、キャプテンという重責を負う者にしか分からない。

低迷の中においても、「ヤクルトらしさ」は存在することが、川端慎吾のヒーローインタビューで判明した。
一枚岩のチームスワローズ。

「なんとかみんなで、全員でカバーしていこうよと話もしてるので」。

あの日のキャプテンの涙の意味を知る兄が、今、そのキャプテンシーを発揮している。
本来なら、その場には自分が居たかった。
勝負の世界に生きる山田哲人にとっては、任せられる安心感より、やはり悔しさの方が上回るのがキャプテンという職業だと、私は思う。

ただ、焦っても何もいいことはない。
昨季もそれで、コロナ後の体調と付き合うのも大変そうだった。
焦るな。私にはこれしかかける言葉がない。

しっかり治して、出ておいで。さみしいけれど、ちゃんと待ってるから。

焦るな。


*


追伸:
「月刊山田哲人」は今回で24回、2年間続けることができました。
「スターを書け」という教えの下、スターを見つめた2年間でした。
その間に、東京ヤクルトスワローズの優勝と日本一、TOKYO2020、WBCという大舞台を通した山田哲人選手を見つめ続けることができました。
これを区切りに、定期掲載は終了します。
もちろん今後も、山田哲人という“ヤクルトの顔”、そしてキャプテン・山田哲人を応燕すべく、文章で後押ししたいと思っています。
2年間お読みいただき、ありがとうございました。

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