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山田哲人と大谷翔平

大谷翔平の見(魅)せ方を,栗山英樹は熟知している。
3月9日水曜日。World Baseball Classic(WBC2023)一次ラウンドプールBの先発は,3番・大谷翔平だった。

普段見ることのない二刀流を,しかも日本で堪能できる。これを逃すと次はいつ見られるか。

私は,三塁側ポール際の内野席から,超望遠レンズを双眼鏡代わりに大谷翔平を探した。
身長に見合わぬ小さい顔と長い足。ユニフォームの上からでも“見える”胸筋。そして,笑顔。
愛される理由がよくわかる野球選手だ。

大谷の名がコールされる度に湧き上がる拍手と歓声は,東京ドームの屋根を吹き飛ばしそうだった。

翔べ!    大谷!    夢の向こう側へ

日ハム時代の応援歌か。初めて聞くが,「とべ」は翔平の「翔」の字を充てているのだろう。
花巻東高校からメジャー行きを切望していた野球少年は,本当に夢の向こう側へ行った。

160km/h台の剛速球と,豪快なスイング。野球の実力はもちろんだが,メジャーの野球仕込みのリアクションも魅力的だった。
一方で,結果の出ない村上宗隆へ声をかけたり,初の日系人選手ラーズ・ヌートバーをコミュニケーションの輪に入れたりというチームワークの姿勢も垣間見え,その魅力は無限大だった。

アメリカメジャーリーグ(MLB)選手のWBC参戦は久々だ。ダルビッシュ有,吉田正尚,辞退した鈴木誠也,そして大谷とヌートバーと,一時は5人も名を連ねた。
今季からボストン・レッドソックスに移籍した吉田正尚は,打撃好調。あのダイナミックなスイングで,すぐにメジャーファンを虜にするだろう。

そして,ふと思う。

山田哲人は,メジャーに行かなくてよかったのだろうか。

大谷翔平の打撃練習には,練習試合の時から現役選手の人だかりができた。
大谷のバッティングを近くで見る,オリックスと中日の選手たちは,野球少年に戻ったように大谷の放つ打球を追っている。
大谷翔平のスケールは,日本にないものだ。

日本の野球は,世界に通用する野球のはずだ。*1
それでも,メジャーで戦いたい野球選手は後を絶たない。
日本とは違う野球スタイルに魅力を感じ,メジャーでの成功を夢見る若者の気持ちを汲み,日本球界はアメリカへ選手を送り出す。

MLBとNPBでは,年俸や怪我の保障にかかる契約や,年金制度の有無など,生涯賃金にかかる違いも存在する。
大谷翔平の2023年年俸契約は,単年3000万ドル(約43億4000万円)だ。*2
1日以上の在籍で,MLB年金基金からの年金支給もある。

山田哲人と大谷翔平の野球スタイルは違う。メジャーの球団が山田哲人をどう評価するかもわからない以上,年俸の比較はできない。
ただ,これだけ待遇の差があるMLBで,より安心して野球に専念できる環境を求めることができる選手ではないのか。

もちろん,野球で結果を出さなければ受けられない待遇だ。
しかし,山田哲人なら,この充足したサポートでしっかりメジャーの野球で結果を出せるように思うのだ。

2019年オフ,山田哲人は球団からの複数年契約を断り,単年契約をした。国内FA権取得を,翌年9月に控えたタイミングだった。
2020年は,コロナ禍の開幕延期があった。野球のない期間,選手たちは個人のSNSで様々な発信を続け,ファンを楽しませてくれた。
そんな中,山田哲人がInstagramを開設した。
SNSとは縁遠いキャラクターのはずの,山田のインスタデビュー。大丈夫?    そう思った直後に入ってきた情報では,どうやらアディダス・ジャパン社の管理アカウントらしい。

大谷翔平が私の脳裏をかすめた。
大谷翔平も,渡米に合わせてInstagramを開設した。
メジャーリーガーのプロデュースコンテンツとして,Instagramはノーマルかつトレンドなのだろう。
海外FA権取得はまだ先だが,ポスティングによる海外移籍も視野に入れているのか。

ヤクルトのユニフォームも,今季で見納め。間引きの有観客試合が始まってから,私はあきらめの気持ちで“最後の山田哲人”を撮りまくり,思い出づくりに徹した。
しかしそのオフ,山田哲人は,熟考の末に国内FA権を行使せずヤクルトに残留した。*4

「パ・リーグの野球も見てみたい」と悩んだ山田。だが,契約更改の会見では,MLBの話題は一切出さなかった。だから,ポスティングまで視野に入れていたかどうか知る由もない。

7年総額40億円という契約額は,ヤクルト球団にとって破格の金額だ。しかしそれも,大谷翔平には敵わない。
そして7年後,山田哲人は35歳だ。実質,「生涯ヤクルト宣言」と言える残留だ。

だから,今回のWBCで大谷翔平の躍動を見るたびに,私は切なくなるのだ。

どうしてあそこに,山田哲人がいないのだ,と。

山田哲人にとって,どこで野球をするのが正解なのか。それを知るのは山田哲人のみなのだが。


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