スターの休息 山田哲人が肩の荷を下ろす場所

年末年始、村上宗隆を見ない日はなかった。テレビ、トークライブと、毎日出ずっぱりだった。
当然だろう。18年ぶりの三冠王誕生。平成の間に1人しか生まれなかったタイトルを、しかも最年少22歳で獲得した。首位打者、打点王、本塁打王(2021年)ともに最年少記録だ。
そして、世界のホームラン王・王貞治(現・福岡ソフトバンクホークス会長)の持つ55本を抜く、日本選手シーズン最多本塁打を記録した。
ホームランでは他にも、史上最年少150本塁打、プロ野球史上初5打席連続本塁打を記録し、たくさんの冠を頭上に、セ・リーグMVPに輝いた。
数々の実績を残したことで、新語・流行語大賞「村神様」スーツ・オブ・ザ・イヤー熊本県民栄誉賞を受賞し、NHK紅白歌合戦の審査員も務めた。
まさに、村上宗隆イヤーと言っていい2022年だった。

東京ヤクルトスワローズは、目指していた球団史上初の日本一連覇を逃したものの、2年連続優勝を果たした。
コロナ感染による一軍選手の大量離脱も、村上宗隆の「中心に僕がいる」という負けん気に牽引され、チーム力で勝ちきった。*1

年末には優勝記念旅行が挙行された。
前年は、東京オリンピック期間の休止があった影響で日本シリーズ終了が11月27日、スワローズファン感謝DAYが12月4日と、ほとんどオフ期間がなく叶わなかった。
行き先は、ハワイ。チャーター便はJAL2896(つば九郎)。選手、監督コーチ、スタッフとその家族、総勢170人の参加。*2
「野球選手はこうでなくちゃ」という、華やかな優勝旅行だった。

今は選手個人がSNSアカウントで、日頃の心情や日常生活を発信する時代だ。
スターである選手の方からファンに近づいてくれ、ファンは親近感を持って選手をあたたかく応援する、ありがたいことだと思う。
ハワイ旅行の様子も、Instagramからたくさんの情報発信があった。
通常の投稿のみならず、ストーリーズ(24時間限定のスライドショー)や、インスタライブ(ライブ配信)も駆使している。
肩肘張っている感じがないのがいい。構えず、ファンと交流できている。
ハワイの天気もよく、開放感が伝わり、こちらも楽しい気分になった。

だが、そこに山田哲人の姿が見えなかった。

山田哲人のInstagramアカウントはあるが、節目の報告程度の運用しかしていない。
ハワイの様子をまめに発信するとは思えないが、他の選手の投稿に映り込むことがあってもおかしくない。
山田哲人は、ハワイにいないのか?

山田哲人は、ヤクルトの顔だ。ヤクルトの顔が付ける背番号1を与えられている。
三度のトリプルスリーは日本球界唯一の大記録。「村神様」同様、「トリプルスリー」は2015年の新語・流行語大賞にも選ばれた。
2022年シーズンは、コロナ感染による離脱後、調子が上がらず、バッティングに苦しんだ。
それでも、ここぞというときのヒットを神宮で何度も見てきた。優勝に欠かせない1人であったことは間違いないはずだ。

ハワイには行っているが、メディアの露出を制限する約束をしているのかもしれない。選手にも、そのようにお願いしているのかもしれない。
そうも思ったが、メディアはいわゆるルートに乗ってくる大手ばかりではない。一般の旅行者が「山田哲人いた」とTwitterに上げることもあるだろう。
リスクはゼロではない中、山田哲人の姿が一切出てこないということは、やはり行っていないのだろうか。

ハワイでは、個人のSNS発信だけでなく、メディアの出演や取材もある。
2015年のようにテレビの密着はないようだが、完全な自由行動は取れないだろう。ましてや、ヤクルトの顔の山田哲人であればなおさらだ。

ずっと注目され続ける、プロ野球選手という職業。
ただでさえ疲弊する状況に加え、自身にとって苦しいシーズンが重なった。体の疲労だけでなく、心理的プレッシャーに疲れ切った2022年ではなかったか。
仲間とともに、どこかでゆっくり過ごしているのなら、それも必要な時間だと思った。
選手たちの楽しげなInstagramを見る度に、こんな開放感あふれる優勝のご褒美の場で、羽を伸ばしてほしかったと、残念に思う気持ちもあった。
だが一方で、ハワイの村上宗隆に世間の目が向いている間に、ゆっくり休める環境にあるなら、それでもいいと感じていた。

山田哲人が肩の荷を下ろす場所があったなら、それでいいのだが。

*1

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