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Eagles "Desperade"(デスペラード:ならずもの)和訳~アメリカ文学〜カウボーイとギャンブルと乾いた景色~現代へのメッセージとは~

1973年アルバム「デスペラード」収録のタイトル曲。

1970年代を代表するアメリカのバンドの一つ「イーグルス」といえば、「ホテル・カリフォルニア」1976年が有名です。

最初と、詩の最後の長いギターソロがなんとも郷愁を誘います。

アメリカの物質社会を批判した曲と言われ(本人は否定)、この同名アルバムの最後、「ラスト・リゾート」はインディアンなど土着のネイティブを蹂躙した祖先を批判するような曲を書いています。


戻って、前作のアルバム「デスペラード」は、アメリカ西部開拓時代、カウ・ボーイの時代がテーマの曲。

A面の中盤にこの曲と、アルバム最後に後日談が描かれます。

作詞者のドン・ヘンリーやグレン・フライは当時まだ26才くらいでした。

優れた作詞と感性、思想は、数々の他のアーティストにも影響を及ぼしたことでしょう。


それでは1885年くらいのアメリカのウエスタン気分で見ていきましょう。

和訳

Desperado, why don't you come to your senses?
You've been out ridin' fences for so long now
Oh you're a hard one, but I know that you got your reasons
These things that are pleasin' you can hurt you somehow

「おい、デスペラード(ならず者)よ、
そろそろ自分の感覚に正直に戻ったらどうだ?
キミは『見回りに出たきり』(って感じ)じゃないか、
長いことさ。
(ride fencesはカウボーイ用語で、逃げた牛や狼がいないか「柵」をチェックしに見廻ること)
「おぅ、キミは手強い奴だな(こんな説教臭い俺の話を簡単に聞く輩じゃない)、
でも俺にはキミにはキミの(こうなった)言い分があるってのもわかってるさ。
(だって)この手のお愉しみ(酒とか賭博とか女とか)ってのは、結局なんかしらキミをキズつけてるんだから・・・

Don't you draw the queen of diamonds, boy
She'll beat you if she's able
You know the queen of hearts is always your best bet
Now it seems to me some fine things
Have been laid upon your table
But you only want the ones that you can't get

(酒場のポーカー)
「ダイヤ(モンド)のクイーン(女王)をドロー(引く)するなよ、
若造、
(つまり、マリリンみたいな美女ばかりを引こうとするな)
不意を突いて、彼女はキミをK.O.するぜ
(お前の手には負えない)
『ハートの女王』がキミのお決まりのベスト・ベット(最高の賭け手)だったろ(ポーカーではダイヤよりハートが強い)
(つまり、見た目でなく、ハートのあふれる女性を引け
または一獲千金でなく、心の通った人間関係)
今、オレには、キミのテーブルに何枚か(そういう)良い手札があるように見えるぜ
でもキミは、キミじゃぁ手に入れられないものばかり欲しがる(高嶺の花)・・・

Desperado oh you ain't gettin' no younger
Your pain and your hunger, they're drivin' you home
And freedom, oh, freedom, well, that's just some people talkin'
Your prison is walkin' through this world all alone

「デスペラードよ、
もう若くはないだろう
(だんだん)キミの「痛み」と「空腹(さびしさ)」が、いやでもお前を「家home」に駆りたてる
そして「自由」、ああ、「自由」か・・・
へッ、それは一部の奴らが口にしてるだけだぜ
(キミは故郷やしがらみ、世間という檻から逃れているつもりでも、実は)
キミ自身が、自分の檻を連れてこの世界をさまよってるだけさ、
一人孤独にな。

Don't your feet get cold in the wintertime?
The sky won't snow and the sun won't shine
It's hard to tell the nighttime from the day
You're losin' all your highs and lows
Ain't it funny how the feelin' goes away?

「冬がやって(不遇の時代の比喩)きて、足もとが寒く感じないか?
上を見げりゃ、太陽が輝かないどころか、雪すら降らない
(空は灰色で)今が昼なんだか夜なんだかわかりゃしない
キミはもはや、このところハイな喜びも落ち込みさえも全部なくしかけてる
(”lose”には「失う」のほかに「負ける」という意味も)
感情そのものがどっかへ消えてしまったら、「笑え」ないだろ

Desperado, why don't you come to your senses?
Come down from your fences, open the gate
It may be rainin', but there's a rainbow above you
You better let somebody love you (Let somebody love you)
You better let somebody love you before it's too late

「(絶望してる)デスペラードよ、
感覚に正直に戻れよ
登った「柵」から降りてきて、(心の)「門」を開け
(=受け入れろ)
(今は)雨が降っているかもしれない、でも雨空には「虹」がかかってる
そろそろ、キミを愛してくれる人とホームを築きな・・・
(誰かあなたを愛してる人にゆだねましょう)
(身近にいる人の)愛を受け入れろ
手遅れになる前に・・・


解説

「感情sense」がポイントだと思います。


まずデスペラードというタイトルは、スペイン語源。

英語で当時のアウト・ローなどの意味があります。

カウボーイ時代は、アメリカは西部でスペイン領土だったメキシコやインディアンとたたかった。

西海岸のカリフォルニアのロサンゼルス(ロス・アンジェルス)やサン・フランシスコ、サンディエゴなど西部にはスペイン語っぽい名前が多くあります。

ちなみに、似ている英単語desperate(デスパレート)には絶望的、自暴自棄という意味があります。


「sense(s)になれ」というのは、感情を呼び戻せということ。

もう長いこと自暴自棄になったり、荒ぶっているハード(頑な)な「ならず者」の若者(きどり)に対し、人生を諭すかのようです。


歌詞の分析

最初は、お愉しみ。

ポーカーや女、アウトローな暮らし方など。

ダイアモンド♦ではなく、「ハート♡(こころ)」、

つまり温かい、血の通った方をとれと諭す。


それから、

「痛み」や「空腹(さびしさ)」。

隠していても、感じているこれらに気づけと。

「若さ」も失われていく。

あたたかな「家home」をそろそろ意識しろと。

「自由」というのは、一獲千金のことであり、気ままにふるまう行為であり、それを追い求めることはかえって自分をオリに閉じ込めると。

いつのまにか「孤独」に。


そして「寒さ」。

冬が来てるのに、まだそのまま続けている。

太陽の温かみも、目を楽しませる雪もない。

昼も夜も分からず、

いろんな意味で負けが続いて

感情の起伏もなくしてしまいかけてる。


最後には、

「感情に戻れ」と繰り返す。

あの「柵」から降りろと。

心のゲートを開けろと。


今は雨かもしれないが、美しい虹がかかる。

(灰色の曇った空にこそ虹は架かる)


チヤホヤされてるのは今だけで、「手遅れ」になる前に愛してもらえと。




まとめ

この曲は、アルバムを通して聴くと、カウボーイ時代に言っているようで、現代を生きる私たちにも当てはまる作りとなっている。


1976年のホテル・カリフォルニアで、物質社会に警鐘を鳴らすように。

メルセデス・ベンツ、ティファニー、ピンクシャンパンの晩餐・・・

高級ホテルでの怪談。


現代も、私たちを楽しませるお楽しみに、傷つける作用がある。

ネット、SNS依存、課金、いまでもある依存症(いそんしょう)の多く。

アルコール、ギャンブル、オーバードーズ(OD)、ゲーム、借金。

女にホストに摂食障害、肥満、整形、ゴミ屋敷。


物質的に豊かになり、テクノロジーが進化するほどに

増えていく新しい病気。


裏にある感情は「さびしさ」、「痛み」、「孤独」。


いつの時代も変わらない。

カウボーイも、70年代も、今も昔も。


クリック、あるいはタップ一つで大金が稼げる(動画や株やSNSや)ような時代にこそ。


「感情」を取り戻せと。


これはより痛みを感じるかもしれない。

でも灰色の空にはうすぼんやり虹がかかっている。


心を開いて、怖がらず愛を受け取ろう。


金ばかり、又は、より上を上を、と求めるのではなく、

私たちを楽しませているものの本当の正体を知って、

足るを知ろう(仏教の「知足」)。

つまり、自分の手に入る範囲で満足しよう。

真の意味で上の段階へ。


これはアメリカの物質文化のただなかにいる者だからこその説得力がある。

1945年の戦後に、その戦争で豊かになり、

1950年韓国戦争でより豊かに。

1963年から泥沼のベトナム戦争に10年ほど入り、

徴兵やヒッピー、政治不信など、物質的豊かさに疑問が生じてきた。


カリフォルニアはサンフランシスコ発祥の若いヒッピーたち(ピースも訴えるがドラッグも。)に賛同するわけではないが、この現状に感覚的に物申す、

というスタイルではなかったか。


1975年頃にベトナム戦争は終わりを告げたが、

基本的な姿勢は変わらない。


政治は不信だし、物質的豊かさに踊らされていることには変わらない。


今こそ「感覚」を取り戻そう。

愛を。


手持ちのカードをよく見てみたら、いいのがそろっているんだよ。


「手遅れ」になる前に。


これは警鐘だ。

ホテル・カリフォルニアへ続くテーマ。


無力な私たちには何ができるのだろう。


音楽の力で国境を越えて時空を超えて私たちは一つになれば強くなれる。


ここに音楽、文学、アートの力の可能性があるのかもしれない。


生成AIにできないことは、人間の生(ナマ)の力かもしれない。


ルネッサンス。

歴史は繰り返す。

大衆文化の中にも、偉大な思想が継承されていく。


あたたかい思想に触れて、それをつなげたり、感動や感情を表すだけでも、

いいことが起こると信じたい。


noteはそんな場所にしたい。


お読みいただきありがとうございました。


イーグルス
「デスペラード」


おまけ

このならず者(Desperado)というアルバムには、この曲の後日談がある。

このアルバムの最後の曲、

「ドゥーリン・ダルトン〜デスペラード(ならず者)〜リプライズ」
だ。

西部開拓時代の実話と、現代にも通じる「デスペラード」が融合する。


ならず者(リプライズ部分)は、「デスペラード」の顛末をかたり、幕を閉じる。


Doolin-Dalton Desperado (Reprise)

[パート2、Desperado (Reprise)部分]

The queen of diamonds let you down, she was just an empty fable
The queen of hearts you say you never met
Your twisted fate has found you out and it's finally turned the tables
Stole your dreams and paid you with regret

Desperado
(Is there gonna be anything left, is there gonna be anything?)
You sealed your fate up a long time ago
(Ain't it hard when you're all alone in the center ring?)
Now there's no time left to borrow
(Is there gonna be anything left?)
Only stardust
(Maybe tomorrow)

Maybe tomorrow
Maybe tomorrow

Desperado

Doolin-Dalton Desperado (Reprise)


【第二部:デスペラード(リプライズ)】

(あの)「ダイヤモンドの女王」は(結局)キミを失望させた、
(やはり)彼女は単なる空虚な寓話にすぎなかった
ハートの女王、これは全く会ったことがない、とキミは言う

キミのねじ曲がった運命がキミを見つけ出し、ついに形勢が逆転した
(運命は)キミの夢を奪い、「後悔」で代償を支払った

デスペラード
(そこに、何か残るんだろうか?)
キミはずっと前に自分の運命を封印してしまった
(センター・リング:中央武闘場にたった一人でいるのは辛くないか?)

もう借りる時間すらのこされていない
(何か残るんだろうか?)

ースターダスト(星屑)だけ
(たぶん、明日なら・・・!)

たぶん明日には(きっと俺は一発逆転で挽回できるはずだ)・・・
たぶん明日こそは・・・

ならず者・・・


最後の解説

このアルバムの始まりは、ドゥーリン・ダルトン

Doolin Dalton

という、実在した二人のギャング団の話。

どっちもビルという名前だった。


アメリカ西部開拓時代1885年位。

カウボーイの時代、銀行を襲い金を奪うギャング団(賞金首)と保安官と、賞金稼ぎ。

ダルトン兄弟は5人くらいいた。

警察など一般市民だったが、長男が殺されると、次男〜4男くらいがダルトン・ギャングを結成。

この3人のうち二人殺され、1人(エメット)逃げてそのうち投獄される。

そのちょっと前にドゥーリンが加わるが、その襲撃に加わらず、生き延びた。


ダルトン家の末っ子、ビル・ダルトンが2人の兄のための復讐に手を染める。

リアル・ゴッドファーザーのようだ。

こうして、ビル・ドゥーリンと2人で、ドゥーリン・ダルトン・ギャングが結成される。


オープニング曲では、その話(ドゥーリン・ダルトン)が歌われる。

アメリカにとっては、カウボーイや西武時代はアメリカの誇りだ。

イーグルス(鷲)もアメリカの象徴。


カウボーイは日本で言う、幕末の武士みたいなもので、大変浪漫がある。


実際のカウボーイはただ牛の世話をする人だが、

牛の大移動が必要となった時代に活躍し、

荒野で長い時間を過ごすうちに、火のそばで話をし、話が大きくなっていき、カウボーイが伝説化されていく。

ディズニーのメロディ・タイムとかの、実写のペコス・ビルの伝説なんかがそうだ。

ディズニーランドにも、ビッグ・サンダー・マウンテンなど西部のコーナーがある。

ならず者(デスペラード)というアルバムは、こんな実際のギャング団の話が元に全編作られているようだ。

その中でタイトル曲だけは、

あまり西部感がなく、

現代にも当てはまりそうだ。

シングルカットされなかったが、イーグルスがもともとバックコーラスを担当していた歌姫リンダ・ロンシュタットがカバーしたり、いろいろなアーティストがカバーしている。

黒柳さんとも交流のあった夏木陽介さんは、自身のお葬式で流してほしい、と頼んでいた。


西部時代、命をかけて生きていたならず者たちの時代から、現代人への優しい戒めのような曲だ。

ならず者は、俳優やミュージシャンの生き方にも通じる。

明日をもしれない。今は稼げても、明日は人気がなくなって落ちぶれるかもしれない。

自暴自棄になってはいけない、という自分自身への戒めかもしれない。


比較

デスペラード(一部)

Don't you draw the queen of diamonds, boy
She'll beat you if she's able
You know the queen of hearts is always your best bet
Now it seems to me some fine things
Have been laid upon your table
But you only want the ones that you can't get

デスペラード


Doolin-Dalton / Desperado (Reprise)

[Part II: Desperado (Reprise)]

The queen of diamonds let you down, she was just an empty fable
The queen of hearts you say you never met
Your twisted fate has found you out and it's finally turned the tables
Stole your dreams and paid you with regret

Desperado

Doolin-Dalton Desperado (Reprise)


このように対応しているのがわかる。


結局、俺の話を聞かず、ダイヤのクイーンに騙されたデスペラードは運にも見放される。

残るのは宇宙の銀河の星屑だけ。

明日こそは、と、ヤケ酒を煽りながら後悔の日々となるラスト。


とても文学的な作品だ。

Eagles
Desperado 

Eagles
Dooling - Dalton / Despeado ( Reprise )

2'00"〜


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