Bandcamp

YouTubeのおかげで、わたしの音楽に対する探究心というか吸収力みたいなものはぐおーっと復活していった。なにしろ、戸惑わずに二の足を踏まずに、次から次へと面白そうなものに迷わず飛び付いていける。

わたしが多感な学生だった90年代後半は、聴いてみたくても全ての音を試聴できるわけでもなかったし(店が推している新譜しか基本的にはできなかったと思う)、根本的に聴く音楽の選択にあたってもっと慎重だった。だって、誰かがオリジナルMIXのカセットテープ(!!)をくれるとかなら別だけれど、音源を入手するには出費が伴うものだったから。国内盤のCDなんて、ボーナストラックが入っているにしたって3000円くらいするのが普通だったし。いやー便利な世の中になった、YouTube様々ですわ、お財布に優しいし、昼夜問わずに聞けるから助かる。

でも、はたと思った。わたしがお金を出さないということは、お金がもらえない誰かがいるということになる。そしてそれは紛れもなく当のアーティストたちであることは言うまでもない。

もちろん利益を得るのはアーティストたちだけではないのは当然だけど。それにしたって、作品の購入にあたって自分の払ったお金からいろいろ横からさっ引かれたわずかな残りですら、彼らの元に届かなくなるということだ。YouTubeも広告からの収入をアーティスト側に回すようにしているだろうけど、わたしは公式アカウントの音源だけを聴いてるわけじゃないし、どこまでアーティスト側に利益が届くのかはあまりはっきり分からないことも多い。

近年ものすごい勢いで一般化したサブスクリプションでの再生回数は、アーティストたちに大した利益をもたらさないことも知った。大手のレーベルが後ろについているようなアーティストならまだいいかもしれないけど、わたしが好むアーティストはインディペンデントであることが多く、レーベルだってちっこくてそんなに金銭的なゆとりもないだろうし、正当な対価が作り手に支払わなければ彼らは音楽活動を続けることもできないだろう。自分が無料でコンテンツを消費することが、好きなアーティストたちが作品を創作していく機会を奪っていくことになりかねない。

好きならちゃんと支えていきたい。与えてもらったものがあるなら、相手にちゃんと還元していきたい。そのための方法を選びたい。

iTunesで曲をダウンロードをすることもあったし、今も時々するのだけど、一時は何故かやっぱりCDを手に入れたい!という思いが盛り上がり、Subpopなどのインディレーベルから直にアルバムを取り寄せたり、BleepみたいなプラットフォームからCD+ダウンロードみたいなことをやったりもした。オーダーのついでにアーティストやレーベル関連のアパレルを一緒に頼んだりもした。それは、もう楽曲がらみの収入だけで上げられる利益はたかがしれていて、アーティストやレーベルにとって儲かるのはライブツアーとグッズやアパレルの販売だと聞いたからだった。Tシャツやパーカーを頼むとオーダーが届くのが楽しみだし、そういう服は着る時にもちょっと特別な気持ちになる。まあでも当然ながら高くつくんだな。だからそうそう毎回できるものではない。

ある日ふと気がついたのだが、よく聴いているラジオ局のプレイリストを見ていると、いいなと思った曲のコメントにはほとんどBandcampのリンクが貼られていた。それで「自分の好きなものはBandcampに多いのかもしれない」と思い至った。それからしばらくして、Vansireというアメリカのインディポップデュオを知り、彼らのアルバム「Angel Youth」が一番最初にBandcampでダウンロードした音源だった。

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ゆるーい優しーい彼らの楽曲は、YouTubeがきっかけで知ったのだと思う。でもそこからBandcampの彼らのページに行くという「もうひと手間」をかける気になった。このアルバムは、いろんなゲストを迎えてドリームポップからローファイなヒップホップまでいろんなカラーの曲が収録されている。だから、Bandcampでアルバムを何度かフルに試聴した上で購入できるのは、曲の一部分しか試聴できないiTunesと違ってアルバムの全体的な流れがつかめて良いなと思った。それから、どうしてだか「彼らから買った」という手応えがあった、ような気がした。なぜだろう?ダウンロードしただけでCDは買わなかったので、物質的に手応えがあったわけでもないし、これはあまりにもその時の個人的な感覚で説得力はないだろうけど、まあそう思ったのだった。

それからわたしのBandcampに対する信頼は、Low Resの「Amuck」を発見したことでさらに確かなものになった。

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この曲は90年代半ばにサブライムレコーズからリリースされたThornというEPに入っていて、ケンイシイのDJミックスCDに使われたこともあるから知っている人は割と多いんじゃないかと思う。ただEPでのリリースだからオリジナルの音源はそれほど出回っているわけでもないし、わたしもついに手に入れないまま年月が経った。ある時YouTubeにアップされたのを見つけて、感激してその動画をお気に入りに入れたのだけど、さらにしばらくしてからBandcampでデジタル音源を見た時は、長年の思いが報われてまったく感無量でございました。

他にも、80年代とか90年代にリリースされたフォークロックやニューウェーブの音源が、どこかのインディペンデントレーベルによってBandcampに上げられていたりする。こういうケースはApple Musicとかにも上がっていることが多いけど、Bandcampだと本人たちが自主制作として昔のアルバムをアップしていることもよくあり、これは他のプラットフォームにはなかったりするので面白い。例えばこのNight for Usというバンド。

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なんとも力の抜けた、気の合う同志で一緒に奏でた音という感じがして良い。その当時(98年)と今とではメンバーの関係性だって変わったかもしれないし、音楽に対する思いも同じではないかもしれない。でも、13年たった今になって彼らがこの音源をBandcampにアップしたのは何かしらの理由があるのだろうし、今の自分がその時の彼らの作品にアクセスできるということが不思議に感慨深い。

Bandcampはどこかしらnoteにたたずまいが似ている気がする。がんがんアグレッシブに有料で作品のリリースをしている人もいれば、1$とか任意の額とか、はたまた無料でコンテンツを公開する無欲(?)な作り手もいる。それが共存しているところがいい。みんなが上がれる舞台のような、公共のスケート場でめっちゃ上手い人とまったく滑れない人がどっちもいるような。国も年代も超えてやりたい人は参加していいような開かれた場という感じがして、そこに安心感があるのかもしれない。

Bandcampには月イチくらいのペースでBandcamp Fridayという日があって、この日の売り上げはBandcamp側のマージンが差し引かれずに全金額がアーティストやレーベルに直接支払われるようになっている。去年の3月から全世界的にコロナ対策で軒並みライブやフェスが中止になり、経済的に痛手を負ったアーティストは少なくない。特にインディ系の人ほどきつかったのではなかろうか。ツイッターを見ていると、Bandcamp Fridayのおかげで助かったというアーティストのコメントをよく目にした。わたしもよくBandcamp Fridayまで待って音源を購入することがある。そして、購入金額は最低額が決まっているけど上乗せすることもできる。わたしはお人好しなのか気が弱いのか知らんが、ほぼ毎回求められる値段よりちょびっと上乗せして支払いしてしまう。でも、それでアーティストが次の作品を生み出すための手助けに少しでもなればそれはうれしい。Bandcampという場が自分にもたらす作用はとても良いものだと思っているから、そこに自分のお金を落とすことに納得できている。

そのBandcamp Friday、北米PSTの3月5日だったりします。もし応援したいアーティストがBandcampにいるなら、行動で示せるチャンスだと思う。ぜひ。

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