「知らない視点」を交換しながら「よく行く街」を歩く
目覚ましよりも早く目が覚めた。今日はバーチャル世界でよく会うメンバー4人でオフ会だ。オフ会は前もしたことがある。でも、今回のメンツは一味違う。みんな割と無口で、そのぶん自分の世界を持っている人たちだ。
よくある集まりだと、居酒屋であることないことをガヤガヤ話してあー楽しかったと解散するような流れになりがちだ。でも、今回に限ってそうはならない。となると、どんなことが起きるんだろう。
そんなことを考えながらほうじ茶をすすり、メロンパンをもそもそ食べて、よし出発だ。
今日の舞台は吉祥寺。よく知っている場所だ。
知ってる街を、いつもと違った視点で歩く
「いつも行く場所」を「知らない視点」で歩いたら何が見えるんだろう。4人が集まった。今日は吉祥寺を、それぞれが見たい行きたい場所を選んで散歩することになっている。
名前をつけるとしたら、吉祥寺別視点散歩といったところか。
僕にとって吉祥寺はもはや庭のような場所だ。最初に一人で訪れたのは中学生のとき。ラケットのガット張り替えのために「テニスステーションFINE」を訪れた。今でもお世話になっているいい店だ。日高屋に初めて行ったのも吉祥寺だった。はじめて会社の飲み会の幹事として選んだ店も吉祥寺だったっけ。
そんなことを考えながらいつもの商店街を歩く。さっそく入った最初のスポットは、いつも行くアウトドアショップ「石井スポーツ」
――の隣の建物にある「LOFT」だった。
丁寧な暮らしと外国の文具
LOFTか。正直ほとんど行ったことない。
思わずきょろきょろと見渡す。そこに広がっていたのは「丁寧な暮らし」だった。淡い色でそろえられた上品なカトラリー、カラフルでパズルピースの形をしたお砂糖、頑丈な革のバインダーと毎日のダイアリー。「日記」ではなく「ダイアリー」って言葉が似合う、そんな場所だ。
こういうものが似合う人になったら、きっと部屋もおしゃれにできるんだろうな。今、自宅にある唯一のインテリアが「石敢當(沖縄の魔除け)」なことを思い出してちょっと息が浅くなった。
一人が目当ての場所で止まった。ここは文房具売り場か。
カラフルなペンに万年筆。だけどよく見るとどこか武骨な感じがする。実用美とも言うんだろうか。いつも接している文房具と何かが違う。
見るとすぐに理由がわかった。ここは「ドイツ製の文房具」のコーナーだったのだ。なるほど。
人は年齢とともに落ち着いたデザインが似合うようになっていくものだ。そういう意味ではドイツのペンってちょうどいいかもしれないな。これからもうちょっと調べてみようかな。
ちょっと世界が広がった。
ちなみに、後日調べたら中学生時代に使ってた消しゴムが「ステッドラー」で、シャーペンが「ファーバーカステル」と、昔から知らない間にドイツ文具を使っていたことが発覚して「ドイツいたんか!」ってなったのはまた別の話。
レディースを買う勇気!
次に来たのは無印良品だ。ここは知ってる。来たことあるぞ。
店内に入ると、LOFTと同じような「丁寧な暮らし」が出迎えてくれる。だけど何だろう、この落ち着く空間は。結局、その店に慣れているか、慣れていないかの違いなのだろう。無印良品の「シリコーン調理スプーン」にはいつもお世話になっております。
陳列棚の脇をすり抜け、一人がまっすぐ向かい場所があった。「レディースの服売り場」だ。僕もそうだが、小柄な人間にとってぴったり合う服を見つけるのは至難の課題だ。ユニクロでXSサイズを選ぶなら取り寄せないといけないし、海外のメンズサイズで合う服は0だ。
レディース服の中からシンプルなデザインの服を選び、手際よく試着しレジに持っていくその姿。なかなかやりおる。その手があったのか。
XSが唯一豊富に置いてあるモンベルで服を買ってしまいがちなので、新しい選択肢を教えてもらえた。なるほど。勉強になります。
みんなで散歩に行こう!
昼、満足するまで肉を焼き大盛りのご飯を食べたあとにようやく僕の番がやってきた。さあ、散歩で井の頭公園駅まで歩こう。ちなみに井の頭公園駅が目的なのは、VRChatに再現された世界があり聖地(?)になっているからだ。
「普段どういうことを考えて歩いてるの?」
せっかくなので気づいたことを互いに言い合いながら歩いてみることにした。
やってみてわかったことがある。楽しい。いつも一人で考えていることが、みんなに伝わって反応が返ってくる。何なら自分では気にしなかった、別の視点から教えてもらえることもある。
あっという間に井の頭公園駅に着いた。また今度別の人ともやってみたら楽しいだろうな。
いつも知ってる街でも、路地を歩けばまだまだ面白い一面がたくさんある。そんな感覚をつかめた。また今度違う場所を歩いてみよう。
絶対に行くことのない喫茶店
そのあとジブリの森美術館を堪能し、すっかり日差しが去ろうとしている時間になった。さあ、最後の一ヶ所へ行こう。
いつも歩く吉祥寺駅前の商店街を歩き、地下へ降りる。最後の目的地は、いわゆる「オシャレな喫茶店」だ。
こういう喫茶店、僕はまったく縁がない。なぜならコーヒーが飲めない上に舌に自信がないから。
「スペシャルブレンドください」
この場所を推した一人が一番高いコーヒーを注文した。僕は紅茶だ。
お店は洞窟をくりぬいたようなザラザラした石っぽい壁に、薄暗い照明が相まって自然と力が抜けていく。こんな落ち着く空間もあったんだ。
20分ぐらいたっただろうか。飲み物が運ばれてきた。
スペシャルブランドは思った以上に小さいカップに注がれていた。まさに知らない世界がそこに広がっている。
「味はどう?」
「苦いです」
苦いのか。微妙ってことだろうか。
「でもそれがいいです」
ほほう。苦さを楽しむ豊かな味覚を僕は持っていない。こんな世界もあるんだな。こういう感性、いいな。人並みだけど大人って感じがする。
そうだ、僕も紅茶をたのんでいたんだ。今ならきっと同じように豊かな味わいを感じられるはずだ。おしゃれな空間、そして目の前には苦い大人な味でさえ楽める友達。今味わえなくていつできるんだ。
そう思い、ずすっとカップを傾ける。
紅茶は「普通の味」だった。
何かの間違えかな。おしゃれ空間を再び眺める。もう一度すすってみる。
紅茶は「よくある味」だった。
うん、わからない! ごめんなさい、僕の舌はまだまだです。
でも、そういう世界があるってのを実際に目の前で見られたのは良かった。居心地がいい場所も知れたし満足だ。
新しい世界をのぞけた
いつもの街で、いつもとまったく違う体験をした一日をすごすことができた。こういうことをすると、自分がいかに狭い世界に生きているかを痛感する。また、知らない世界を覗いてみたい。
いつもの街が、いつもよりさらに好きになれる。そんな一日でした。
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