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コーヒーとお姉さん

大阪生活4年目。
社会の犬になっても4年目。

4年目とはいろいろ行き詰まってくる頃だと思っている。

仕事もなんだか頭打ち感があるし、
なんか全部に飽きて虚しささえ感じてくる頃だ。

ヤケクソになって訳のわからないことに突っ走り、
仕事もうまくいかず、
メンタルを見事に崩壊させて、
メンヘラを爆発させ、

病んだメンタルのまま勢いに任せて香港まで行って、1人でぼーっとして傷を癒そうとしていたら、
以前から私がメンタルをぶっ壊してることに対して心配してくれていた香港人達に朝から晩まで引きずり倒されて、散々話して、散々話を聞いて、極限まで致死量のコミュニケーションをとった。

私にもう吐き出す言葉がないほど話して、
相手も全力でそれに向き合ってくれて、

全部言ってしまったらなんだか心が気持ちよく空っぽになって、空っぽになったところに香港の優しさとか夜景とか綺麗で素敵なものがざーッと流れ込んできた。

流石は香港人。
私のメンタルとボロボロの自己肯定感をたった3日で治療して完全復活させてくれた。

この辺りの経緯については気が向いたら詳しく書くとして。

帰国してからも結構ご機嫌だった私だけど、
すっかりこの香港滞在をきっかけに人間が大好きになった私はもっともっといろんな人に会いたくなってきていた。

別に、恋愛関係に陥りたいわけではない。
ただ言葉を交わして自分と全く違う人生を歩んできた人の考え方や、生き方の一端に触れて自分の世界を広げてみたい。

こんなに腐るほど人間がいる大阪で、
肩越しにすれ違う人の中から1人でも多くの人を捕まえて自分の心に入れたかった。

てなわけで、
日本のマッチングアプリや友達作り目的のアプリなんかを使ってみたけど、なかなかうまくいかず、ついに最終手段ハロートークに手を出した。

中国語を勉強し始めたばかりの頃狂ったように使ってたアプリだけど、
最近はめっきり使っていなかった。

このハロートークを使って過去私が引き起こしてきたトラブルの数々は今度書くとして、
起動したら案の定変なメッセージもたくさん届いたけれど、その中に1人女性からのメッセージがあったので開いてみると、

結構近所に住んでる10歳年上の女の人だった。

女性。

それだけでうっとりしてしまう。

私の香港や中国の友達は全て男性で、
彼らは確かにいい人たちなのだが、
香港や中国や日本で彼らと遊ぶとなると、

食べるか歩くか呑むかで、買い物とかカフェとかそういうものは存在しないのである。

この前も香港で1日に47,000歩を歩き回ってケロリとしてる香港人の横でタピオカミルクティー片手に仮死状態に陥っていた私は香港の空に「絶対に女の子の友達を作ってやるんだ」と誓った。

せっかく女性がメッセージをくれたなら、
絶対にこれは無駄にしてはいけない。

緊張しながら、

「こんにちは!蒼子です。
 大阪の〇〇に住んでいて、中国語を勉強してる
 日本人です。メッセージいただけて本当に
 嬉しいです。ぜひぜひよろしくお願いします!」

と、打ち込んだ。

すぐに返信が来て、メッセージのやり取りをしていき、向こうから

「コーヒーでも飲みながら一度会いませんか?」

と言ってくれたので、絶対に逃すまいと

「行きましょう!何日にしますか!?」

と食い気味に返答して予約をもぎ取った。

会いに行く日にはお洋服にも散々悩んで、
彼女が私のことがわかりやすいように真っ青なコートを着て出かけた。

「私、めちゃくちゃ青いコートを着てます!」

とメッセージを送ってめちゃくちゃ青いコートを引っ掛けて喫茶店へと駆け出した。

そうそう。
私はこうやって人に会いに行く高揚感が、
胸に入り込んでくる冬の空気が大好きだったんだ。

レトロな喫茶店に入ると、
そこに座っていたのは色が白くて、目鼻立ちがすっきりとしていて、長い黒髪にメガネをかけたお姉さん。

すぐに私を見つけてくれて、手を大きく振ってくれた。

「蒼子さんですか?」

ふわりとお花の匂いがした。

「はい!蒼子です!」

ケーキとコーヒーを注文した。

「蒼子ちゃんはお喋り好き?」

お姉さんはコーヒーを一口飲んで開口一番にそう質問した。

「大好きです。お姉さんは?」

「好きだから、今日蒼子ちゃんと会ってるのよ」

と、すました顔で言われた。

そこからいろんな話をした。

お姉さんは10代の頃からずっと日本に来ることを夢見ていて、その夢をやっと30代で叶えたらしい。

私もお姉さんにどうして中国に行ったのか、
なぜ中国が好きなのか、私と中国のことを話した。

お姉さんが好きなものは、食べること、お酒を飲むこと、そして映画を見ること。

お姉さんの中国語はわかりやすくて、
明快で、少し低くて落ち着いた大人の女性の声だった。

お姉さんは高校を卒業して、激動の20代を中国で過ごし、30代に突入して、ラストチャンスとして日本に飛び込んだらしい。

「自分の中に10代の頃から持ってた熱い夢だから、これを諦めることはできないと思ったの。
この夢を持って死ねないって思ったから国を出てきちゃった。」

お姉さんは、そうやって笑った。

お姉さんの目標は日本で10年働いて、永住権を取ることらしい。

そのために、すごくしんどい日本のホテル業界を渡り歩いているらしく、その話を聞いていると気が遠くなるような思いがした。

「ずーっと、ずっとね。大阪みたいな大きな街に住んでみたかったの。だから今すごく幸せよ!」

と、日常の苦労をあっけらかんと笑い飛ばすお姉さんがすごく幸せそうでなんだか泣きそうになった。

「蒼子ちゃんは、今悩んでることとかあるの?
ずっと眉間に皺がよってるけれど…」

「えっと、あの。悩んでることというか、考えていることがありまして…」

「それ聞いても良い話?」

「はい、是非。」

それで私はずらずらと話した。

ずっとずっと中国が好きなこと。
中国にいつか住みたいと思ってること。
でも自分の実力が足りなかったり、今の安定した立場を捨てられないこと。

外国人として、中国で生きていく覚悟ができていないこと。

途絶え途絶えでめちゃくちゃな発音の中国語をお姉さんは静かに聞いてくれた。

初めて会った人にこんなこと言ってしまうなんて。

「蒼子ちゃん、すごく可愛い。」

「…え??」

きょっとーんとしてしまう。
そんなこと面と向かって言われたのは何年振りだったかしら?

最後に言われたのは確か10歳くらいの時だった気がする。

「目が大きくて、まん丸で、ぴかぴかしててすごく可愛い!それにまだ27でしょ?若い!若すぎるわ」

「いいえ、そんな…」

と言葉を繋ごうとすると、

「そんな、じゃないよ。
私ね、一つ後悔してることがあるとすれば。
もっと早く日本に来なかったことよ。
決断に時間をかけるのは良いことだけど、
決断を先送りにするのは時間の無駄。

私の場合は決断を先送りにしてたくさんの時間を無駄にしてしまった。

もしも私が蒼子ちゃんの年齢で日本に来れば今頃永住権が取れてた。
そしたらもっといろんなことにチャレンジできてたかも。

蒼子ちゃんが今まで一生懸命日本で勉強して、
今の安定した仕事を持ってるから蒼子ちゃんの決断を難しくしてるのよ。

でもね、私が蒼子ちゃんに言えるのは、
どっちにした方がいいとかじゃなくて、
蒼子ちゃんが自分でどうするか決めるのに狭い視点で見ないでいろんなところから見てみて、若いうちに腹を括った方がいいってこと。

私は中国を出てくる時、
中国に残ることも、日本に行くことも同じくらい腹を括らないといけない状態だった。

だから、私はどっちにしたって同じだからワクワクする方を選んだの。

私、蒼子ちゃんがどんな決断をするかずっとそばで見てたいな。」

お姉さんはそういってふわりと笑ったけど、
その笑顔はいいことも悪いことも乗り越えて、
それでも前を向いて生きていく人間の高潔さが詰まったような素敵な素敵な笑顔だった。

すっかり冷めたカフェラテを極々飲んでなんだか喉がツンとして泣きそうなのを誤魔化した。

「私、今日お姉さんに出会えてよかったです。
なんか、私。会社、スーパー、家、の三角形で生活してて。
なんだか時々窒息しそうになっちゃうんです。
今日お姉さんと話してなんだか呼吸ができた気がします!」

「私もよ。まだ大阪に来て6ヶ月だけど、
蒼子ちゃんみたいな可愛い女の子に会えたのは初めてよ。くるくる表情が変わってすごく面白くて可愛いわ。」

お、お、お姉さまあ…。

と、発狂しそうになるのを抑えて。

「あの、よかったらwechatとかLINEとか…」

と、初めて好きな子に連絡先を聞く高校一年生男子のようなテンションで聞いてしまった。

「あ!私も聞きたかったの!」

といってお姉さんはあっさりとwechatとインスタを交換してくれた。

どこまでもイケメンなお姉さんは私を自分の駅とは反対方向の地下鉄の駅まで送ってくれた。

ふわふわした気持ちで、帰途に着くとwechatの通知が1件。

「蒼子ちゃん、今日はありがとう!
早速だけど、今週木曜夜呑みに行かない?」

と来てたから、心臓どくどくしながら、お返事のメッセージを出した。


やっぱり私、人間が好き。

人間と人間が出会うこの瞬間の高揚感とか、
優しい砂糖菓子みたいなトキメキが大好き。

だから、私のところに来てくれた縁は全部全部大事に大事にしたいし、するべきだと改めて思った。

お姉さんと、まだ話したいことはたくさんある。

だから、この縁を焦らず、じっくり育てて、お姉さんと本当の友達になりたいなあと思った。

映画、グリーンブックのセリフにもあるように。

寂しい時は自分で手を打たなくちゃいけない。

私もこの大阪の数えきれない他人に手を伸ばして誰かの手を掴み、大切に縁を結び自分の世界をこれからも広げていきたい。

私の人生にできるだけたくさんの人の手垢がついていけばいい。

そうすれば私も私の人生もきっともっと面白く、ドラマチックになると思っているのだ。

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