阿久沢牟礼

奇談を書きます。 以下の作家等が好きな方には恐らく楽しめる話となる、と思います。 星新…

阿久沢牟礼

奇談を書きます。 以下の作家等が好きな方には恐らく楽しめる話となる、と思います。 星新一、時雨沢恵一、内田百閒、ラファティ、ボルヘス、カフカ、コルタサル、コッパード、ペソア、クルジジャノフスキィ、円城塔、ウィトゲンシュタイン、永井均、寓話、民話。

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  • 芥川賞を読む

    芥川賞受賞作を読みます。

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    書評でも小説でも身辺雑記でもないもの、主に哲学思想系の試論を載せます。

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    書評をまとめます。以前記事を書いていた「シミルボン」のサイト閉鎖につき、しばらくは過去記事の再掲作業になりそうです。

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    以下の作家等が好きな人には恐らく楽しめる内容です。 星新一、岸本佐知子、時雨沢恵一、円城塔、カフカ、ボルヘス、コルタサル、ラファティ、永井均、西田幾多郎、ウィトゲンシュタイン

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    可能世界から蒐集した民話。

最近の記事

【書評】沼田真佑「影裏」

【影裏:沼田真佑:文藝春秋:2017:第157回芥川賞受賞作】  岩手に赴任した「わたし」と、その唯一の友人である同僚の日浅との関係が描かれる。釣り仲間として竿を並べる日々が過ぎ、突然会社を辞めた日浅は互助会の営業活動にいそしむ。それとなく疎遠になったり、また相見えたりしながら微妙な距離感のもとに付き合いを続けていくのだが、それも震災以降ぱったりと途絶えてしまう。  行方不明となった日浅の消息を辿ってわたしは実家を訪れ、父と子の確執を知る。  その他多くの芥川賞受賞作の例

    • 【書評】山下澄人「しんせかい」

      【しんせかい:山下澄人:新潮社:2016:第156回芥川賞受賞作】  十九歳の主人公、山下スミトが北海道かどこか北の大地で俳優の勉強をするため、私塾を開いている脚本家の【先生】のもとを訪れる、という話。  年齢性別来歴も様々な面々が、俳優もしくは脚本家を志望して集まるのだが、未だ設備の整わない施設の設営・建築や、飼っている馬の世話、食い扶持を稼ぐための農作業といった肉体労働に多くの時間が費やされる。  そうしたなかで、塾生同士のいざこざだったり、【先生】との確執だったり、地

      • 【書評】村田紗耶香「コンビニ人間」

        【コンビニ人間:村田紗耶香:文藝春秋:第155回芥川賞受賞作】  本作主人公の古倉さん(私)は、子どもの頃から周りと馴染むことができなかった。死んだ小鳥を見れば「食べよう」と言い、喧嘩するクラスメートを黙らせるためにスコップで殴る。社会通念上の「普通」というのがどういうことかわからず、大卒後まともに就職することもできない。――そんな古倉さんの唯一と言っていい居場所がコンビニだった。  制服を着、朝礼を済ませることで「コンビニ店員」という別種の生物になりきること。あらかじめ正

        • 【書評】フランツ・カフカ「審判」

           テストで0点を取ったことがある。  数学である。  まったく勉強しなかったとか、白紙で出したとか、そういうことならまだわかる。しかしそれなりの勉強時間を割き、それなりの手ごたえを以て終えられたテストが0点で突き返された日には戸惑いを禁じえない。途中式の加点さえつかないのだから、果たして自分はこれまで何をやってきたのか。  もしかしたら、数学を学んでいたと思いきや、それとは全く異なる規則体系について習熟していたのではないか*1。  ――くやしいとか、かなしいとか、受験がどうと

        【書評】沼田真佑「影裏」

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          【書評】本谷有希子「異類婚姻譚」

          【異類婚姻譚:本谷有希子:講談社:2016:第154回芥川賞受賞作】  特異な環境であればあるほど生物のほうもまた特異な進化を遂げる。そうせざるをえないのであって、そうした生物はいわば環境を映す鏡と言える。夫婦は長年連れ添うことで顔が似て来るというが、それは「家庭」という特異な環境への順応の結果、なのかもしれない。  主人公の「私」は最近「旦那」と顔が似てきた。  何事も「ただそうあるもの」として受け容れてしまいがちな、よく言うと懐の深い私は、専業主婦として日々を過ごすう

          【書評】本谷有希子「異類婚姻譚」

          【書評】滝口悠生「死んでいない者」

          【死んでいない者:滝口悠生:文藝春秋:2016:第154回芥川賞受賞作】  お通夜の話。  山間の旧街道沿いにある広い一軒家に、誰とも知れない親類縁者がわらわら集まって、二階に安置された故人の顔を覗いては去り、覗いては去る。近所の人が集まり出し、弔問客に振る舞う料理などを誰彼となく作り始める。遠方からの親類のためあちらこちらに布団が敷かれ、敷かれた布団の上には避難してきた猫が寝ている。まだ小さい子どもたちは自由に室内を走り回り、犬たちは柱に繋がれ悲しげに鳴いている。  大き

          【書評】滝口悠生「死んでいない者」

          【書評】古川真人「背高泡立草」

          【背高泡立草:古川真人:2020:集英社:第162回芥川賞受賞作】  そうだな。セイタカアワダチソウにまつわる自分の記憶、何かあっただろうか。空港へ向かうモノレールの車窓から見える臨海都市の倉庫脇とか、飛行機の窓から見える滑走路の向こうの草地とか、そういうところに生えているようなイメージがある。もしかしたら実際に見たわけではなく、観念の産物かもしれない。ググってみたところ、特別潮風の強い環境に堪えるというわけでもなく、河川敷などにもよく生えているらしい。根から毒素を出して他

          【書評】古川真人「背高泡立草」

          【書評】羽田圭介「スクラップ・アンド・ビルド」

          【スクラップ・アンド・ビルド:羽田圭介:2015:第153回芥川賞受賞作】  筋肉をつけると性格が変わるという話をどこかで聞いたことがある。ホルモンの影響で明るくなるとか何とか。そう言われてみればボディビルダーのような体格なのに性格は後ろ向き、などという人間はちょっと想像しにくい。ムキムキの太宰治など想像してみようにも像を結ばず、肉体ゴリゴリの男が「恥の多い生涯を送ってきました」などと呟いたところで真実味がない。恥の多い生涯のなかでいかにしてその見事な身体を作り込んだのかと

          【書評】羽田圭介「スクラップ・アンド・ビルド」

          【書評】又吉直樹「火花」

          【火花:又吉直樹:文藝春秋:2015】  笑いたくなるような物事というのは、一般性から外れたところにある。あるいはむしろ、一般性からの逸脱行為そのものが鑑賞者に笑いを催させる、と言ったほうが正確かもしれない。漫才でもコントでも、そこで語られていることが単なる日常の、よくありそうな一コマに過ぎないとしたら、笑いは起こらないだろう。逆に、一般性からあまりに離れると、そもそも伝わらないか、最悪笑いを通り越して嫌悪や恐怖を催させることになる。  だから意図的に他人を笑わせるためには

          【書評】又吉直樹「火花」

          【書評】黒田夏子「abサンゴ」

          【abさんご:黒田夏子:文藝春秋:2013:第148回芥川賞受賞作】  子どもの頃住んでいたマンションの駐車場の前に、森があった。正しくは森の残骸、切れ端といったところで、畑や住宅に囲まれたなかにぽつんとそこだけ取り残されたように森があった、往事はそのような雑木林が辺り一帯を占めていたのだろう。マンションに住む子どもにとって良い遊び場となっていた。切られ横たえられた木に腰かけ、羽化したてのクリーム色のセミを眺めてみたり、ヤマゴボウの実で手を紫色に染めてみたり。ただ走り回って

          【書評】黒田夏子「abサンゴ」

          動物にまつわる考察 ―山括弧塾オンライン講義の感想にかえて―

           持続について 「しかなさが本質的に持続しない」とはどういうことなのか  しかなさは持続しない、と。なんだろうな。自分は永井と違う想像をしているような気がする。いや、それともただ単に自分がとらえきれていない(整理しきれていない)所為なのか。「しかなさ」というのが私において経験されるには、なんにせよそれが経験として認識されなければならない。しかし、なんにせよ認識されるということは、ある程度の時間的幅のもとに出来事が統合されるということを意味しているので、そこに「持続」が無い

          動物にまつわる考察 ―山括弧塾オンライン講義の感想にかえて―

          98 繰り延べられる町

           一方の端がどこにあるのかもわからない長大な城塞の、もう一方の端は今なお繰り延べられている。勅令を与えた当の皇帝はすでに世を去って久しいが、その履行者たる「町」の者は幾世代を経てなお建設を続けている。  気の長いこの作業の終着点は、未だにその影も見えない遠方の山脈のふもとと言われており、また向こう岸も見えない大河のほとりとも言われており、また底が見えないほど深く刻まれた谷の端とも言われており、「町」の者にとってなかば伝説のように扱われている。  工期に制限はないが年に一度、

          98 繰り延べられる町

          97 願いを叶える

           長い歳月と、筆舌に尽くしがたい艱難辛苦を経て、ある男がついに上位存在のもとへたどり着いた。 「長旅ごくろうさまでした。それではあなたの願いを一つ、叶えましょう」  と、上位存在は言った。 「何でも叶えてくださる、というのは本当でしょうか」 「ええ、何でも叶えて差し上げます」 「すると例えば、願いを叶えてもらえる回数を無限に増やしてください、というお願いも?」 「半分可能、半分不可能、と言っておきましょう」 「と、言いますと」 「例えばあなたが不老不死を願ったとします。そ

          97 願いを叶える

          95 理性と倫理

           自転車でたまたま通りかかった公園で、遊んでいた父と子がいた。  子のほうはまだ三歳前後だろうか、特にどこと場所を定めることなく、ズボンを下げて珍故をつまみ、放尿する姿勢だった。父は「お父さん怒るよ」と述べていた。  ただそれだけの場面だが、あまり遭遇しそうにない状況だったので少々脳裏に残ったのだった。自転車を漕ぎながらその場面を思い返すと、どことなく混乱を覚えた。実際ああいう場面で子どもにどう接するべきなのか、改めて考えるとわからない。  公衆の面前で放尿をするのはい

          95 理性と倫理

          94 衣裳哲学

           スーツが仕事に出掛けてから、寝間着は布団に入って二度寝を始めた。  部屋着は身支度を整え、やがてウォークインクローゼットのなかへ自らを収納した。  代わって普段着がそこから姿をあらわし、自らのしわを伸ばし、少し身震いしてホコリを落とすと、財布がポケットに舞い込み、かばんが肩に掛かった。  そこへ犬の首輪が現れ、普段着のズボンの裾にまとわりつく。  すると犬の紐がするすると伸びてきて犬の首輪までその先端を伸ばした。  もう一方の端、つまり輪になった持ち手は普段着の左手の

          94 衣裳哲学

          92 これはパイプではない

           エレベーターに乗ってすぐ、下の階で止まった。  乗り込んできた住民は犬を連れている。  ペット可のマンションとはいえ、この都会の手狭な部屋で犬を飼う人というのもそれほどいるわけではない。しかもチワワやトイプードルといった小型犬ではなく、柴犬だ。飼い主に抱きかかえられて、顔だけがこちらを向いている。興味ありげに鼻をひくひくさせながら、うるんだ瞳で見つめてくる。  実にかわいらしい。 「かわいい犬ですね」  と、つい声をかけると、飼い主の男性は振り向きもせず言った。 「犬

          92 これはパイプではない