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”閉塞とスライド”J1第31節 鹿島(H)vsFC東京(A)マッチレビュー

鹿島 0 ー 1 FC東京

 代表ウィークが終了し、ルヴァン杯も鹿島は敗退しているため束の間の休息。中央大学とのトレーニングマッチでは快勝し、試合前会見では岩政監督も「ここからは結果を求めていく」と決意を露わにしました。前節京都戦でリーグ初先発を飾ったGK早川が今節もゴールマウスを務め、ここ数試合途中出場からハイパフォーマンスを発揮していた名古が先発。現在5位で勝ち星が遠のいており、残り少ない試合数でどれだけ上位に食らいついていけるかを占う重要な試合でもあります。

 対する7位FC東京はCB森重が累積警告により出場停止。代表から戻ったばかりの長友はベンチスタートとなりました。5月の前回対戦では1-3と完敗を喫し、アダイウトンにアダイウトンさせてしまった、そして渡邊凌磨に決定的な仕事をさせてしまった印象が残っています。今の鹿島は当時とはまた違った志向のサッカーに挑戦しており、どれだけ違った内容に持ち込めるかは見所。件のアダイウトンはベンチスタート。

〇前半

自陣ビルドアップ苦戦、閉塞に陥る鹿島攻撃

 鹿島は立ち上がりこそ蹴っ飛ばし気味だったものの、SB以外の選手を全員PA幅に入れ込んで中央密集陣形に。GK早川の起用からも察せる通り、鳥栖戦よろしく自陣ビルドアップを強く意識したゲームプランを準備してきたようだ。

結論から言えば、この試みはだいぶ苦しかったなと。フットサル畑の鈴木コーチが合流したこともあり、スモールな局面での前進や打開をチームに落とし込んでいっているのかもしれない。確かに、早川と2CBでジリジリと相手プレスの様子を窺いつつ、スペースに顔を出した味方にパスを差し込んでブロック間を攻略していこうとする意図は感じた。FC東京も3CHの脇(WGとSBの間)にスペースが多く生じており、そこを鹿島SBがつけ狙い起点を作れる場面も何度かあった。問題はそこからどう展開するかであり、中央に集まったことでFC東京のSB裏を突こうとする選手がいないので手詰まりに陥りやすかった。パスコースが中央方向にしかないので、相手からすれば迎撃もしやすかったはず。仲間が相手CBと駆け引きを行って裏抜けをしようとしていたがボールは送られなかったので、チーム全体の意識としてポゼッション志向に偏っていたのかなとも。

相手陣に押し込めてしまえば包囲攻撃をすることもできたし、相手の隙をついてPA付近まで攻め込むことができた。特に東の両脇をうまく使い起点を作りつつ、ニアゾーンへ走りこんでゴールに迫るまでの過程は良かった。問題はいかに自陣から敵陣までボールを運んでいくかであり、この問題を最後まで解決できずに自陣でのパスミスからショートカウンターを打たれ続けてしまった事はあまりにキツかった。

消耗上等!インテリオールは走ってナンボ

 仲間がトップ下でスタートはするものの、カイキと優磨の間に入って3トップを形成する時間が多かったのでFC東京とほぼ同じような陣形に。違いといえばFC東京のFWレアンドロ、D.オリヴェイラはかなり自由な裁量権を持っているというか、彼らのセンスが活きるようにこと攻撃における動きにあんまり制約を感じない点。彼らはサイドにも張るし、降りてもくるし、カットインもしてくる。その2人の動きにあわせてやるべきことを整理・遂行するのが渡邊凌磨なんでしょうきっと。ようやるわ・・・

両軍に大きく共通、というかそうならざるを得ないのが、相手SBがボールを持った際への迎撃にインテリオールが中央から出張っていくのが基本なこと。攻守における負担が非常に大きくタフで、特にFC東京に至っては裏抜けすら行うことも(28分に実際松木がラインブレイクから決定機を呼び込んだ)。前半からピトゥカ筆頭にとばしていたし、およそ90分フルで持たせるのは不可能な消耗度合いだったと思う。

 FC東京としてはカウンターも打てていたし、自陣守備でも鹿島が攻め込んでくる方向自体は絞れていたので落ち着けていたのかも。立ち上がりのニアゾーン攻めやセットプレーで1点でも鹿島が取れていれば…。FC東京は中央密集の鹿島を逆手にとり、自由を得たSBをうまく活かして攻め込んでも来た。ただそこで失点せず耐えれたのは鹿島SBの奮闘、そして何より前線から激しいチェイシングを仕掛けて致命傷に至らせなかった前線(特に仲間)のプレッシングも忘れてはならない。プレスの鬼やでほんと。誰よりも小柄なのに体張ってる。推すでしょこんな選手。実際に相手SBに展開させて、スプリントで食いつき奪取してカウンターも取れていた。

〇後半

立ち位置変更、中央密集から左偏重へ

 ハーフタイムで選手交代こそなかったものの、岩政監督は大きく立ち位置を変更。カイキが大きく左サイドへ張り出す形となり、仲間が中央、優磨が1.5列目らへんを中心に動いていく。

 前線の立ち位置だけでなく、名古とピトゥカの位置も変わった。広範囲に走り回っていたピトゥカを中央に据え、名古を前に出す格好。後半のインテリオールを務めた名古・樋口のキャラクターを考えると、名古は狭い局面でも小回りが利く。樋口は正統派ボックス・トゥ・ボックスで広範囲に無理が利く。その特性を考えたうえで左偏重をするなら名古は左だろうし、後半途中からドリブルで違いを作れる和泉にするのも頷ける(結局間延びして偏重どころじゃなかったけどw)。右サイドを広瀬と樋口2人でカバー、といっても広瀬はDFなので広大なエリアを樋口単独で埋めるような状態になったわけで、そりゃ自然と強引なコンタクトプレーも増えるわなと。多少分が悪い局面でもスライディングで球際をねじ伏せようとする樋口の気概はお見事。労基には駆けこまないでくれ頼むから。

なんでそもそも左偏重?というのは、たぶん「FC東京のDF間を抜けてニアゾーン取れると得点の匂いがする」「取られていた制空権のテコ入れ」あたり? 前者においてはカイキの抜け出しを中心に決定機を作れていたので再現性を高めたい!ってのはありそう。後者に関しては、後方で手詰まりして送ったロングボールを悉くFC東京CBの木本・木村コンビに跳ね返されてしまっていた。ターゲットのカイキをCBではなく中村帆高と競らせて橋頭保欲しい!!的な意味合いかも。実際にカイキが競ったこぼれを上がってきた安西が拾って攻撃というパターンは作れていた。つっても、中村帆高も簡単には負けないし、少しでもこぼれ球を作る確率を底上げできたくらいだが。

仕上げの粗さで決定打に欠き、劇的な決勝弾に泣く

 前述の甲斐もあって(?)か鹿島は相手陣に押し込んで攻め込める時間帯が増加。前半にあった閉塞感を払拭し、よりオープンな展開に持ち込むことができた。前半から飛ばしていた仲間を58分と早めに荒木に交代したことからも、とにかく点を取りに行くと岩政監督は踏み込んでいたんでしょう。荒木に関して言えば正直出来はよくなく、復帰から低調さが目立ってしまっているのだが。優磨とロールというか、プレーエリアかぶっちゃうのよねどうしても。エリアを明け渡したら活きにくいし。

 オープンな展開ならば、とFC東京のアルベル監督も66分アダイウトン投入(でた!!)。左偏重を取っている鹿島なだけに、アダイウトンの得意とするエリアには広大なスペースが。お互いチャンスを作れはするものの押し込むには至らず迎えた終盤84分、クリアボールのこぼれ球を拾った途中出場の安部が振り抜きゴラッソ。早川の右手も間に合ってはいたが、威力が勝りセーブには至らなかった。あまりに劇的な、あまりに残酷で素晴らしい一撃で試合を決められてしまった。

 失点直後に入った松村と広瀬の縦関係には一縷の望みを感じたものの、終盤気になったのは明らかに頭に血が昇っている鹿島選手らの立ち振る舞い。もちろん会場が同点の後押しをしようと雰囲気も作っていたし、ボルテージが上がるのは自然だと思う。ただその一方で不要なファウル、小競り合いは不要だし、結果として前線に人が集まりすぎてチームが分断、後方からボールを送れないもどかしさも確かにあった。どんどん間延びする鹿島の中盤に対し、FC東京はキッチリと捨てるエリア、塞ぐエリアを整理して落ち着けていたような? 少ない人数でもスペースを活かしてカウンターを打とうとする強かさ、無理なものは無理と割り切る潔さはありましたな。長友投入で5バック切り替えも然り。

いざ、天皇杯準決勝・甲府戦へ

 今節の敗戦によりリーグ戦の優勝が完全に消滅。前半戦の出来からすれば優勝の可能性は感じていたものの、綺世の移籍を皮切りに夏の暑さもあいまってズルズルと勢いを落としてしまったのが悔やまれる。うーん悔しいぜ。

 ミッドウィークの5日にはホームで天皇杯準決勝に臨む。今季のタイトル獲得の可能性があるのは天皇杯のみであり、リーグもACL出場圏まで勝ち点差7。天皇杯にフルコミットしたいところではあるが、中3日でどれだけリカバリーできるかが重要になりそうだ。おそらくメンバーを落とすようなことはせず、全力でやるでしょう。タイトルを取れば意味あるシーズンになる。甲府を迎え撃ちましょう。

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