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魔都上海に取り憑かれてしまったらしい

最近、寝ても覚めても上海滞在中のことを思い出す。
たった三週間。文字に起こすと短い期間に思えるが、実際に異国の地で一人で過ごすには短くなく、かといって長期滞在というわけでもない。

とにかく、この「三週間」で私は魔都の魅力に取り憑かれたことだけは確かなのだ。

上海来訪は、これが初めてではない。とあるご縁があり一年前の夏にも上海を訪れていた。それが初中国であった。

ある清朝を舞台にした中国ドラマが大好きだった私は、初中国渡航の折に北京に行くことを願っていた。しかし、大人の事情で行き先は上海となった。

その時の私が一番行きたかったのは、宮女たちの後宮権力闘争の舞台となった
北京・紫禁城。なので、初中国が上海であることに少しがっかりもしていた。

訪れた上海は、蒸し暑かったが、初めて見る大陸のスケールの大きさに感動してばかりだった。
黄浦江のクルーズ船にも乗り、夜の外灘を眺めた。
日本ではありえない形をした高層ビルや、眩いばかりに輝く西洋風建築群。

当時は、日中関係が急激に悪くなった時期だったので、自分の足で上海の街中を歩く機会もなく、船から眺めた上海の象徴的な景色を見た私は、

「いつか自分の足で向こう岸を歩くんだ」と決意を新たにした。

それから数ヶ月後、私はまた上海を訪れていた。
元々、別の時期に中国へ留学することが決まっていたが、コロナ禍の時期だったこともあり、留学は中止となった。

今回は、事情もあり、時間が限られていたため、短期プログラムで留学できる大学を中国各地で探していた。が、なかなか予算と行きたい都市に合う留学先が見つからない。

費用を最優先にしていたので、渋々、一番学費の安かった上海の某大学を選んで三週間の留学に行くことを決めた。
個人的には、やはり憧れの北京に行きたいということもあり、また上海か、とあまり期待しないで向かった。
これは後々、良い意味で裏切られたのは、上海が自由で、開放的な国際都市であったからだろう。

いよいよ日本を出発して空港に到着、さっそく地下鉄の乗り方も、中国で主流の電子決済も不慣れで空港を彷徨う。

やっとの思いで大学に到着しても、ただでさえ難解な事務手続きを慣れない中国語でこなさなければならず、この時点で気持ちがかなり疲弊していた。

三週間という旅行にしては長く、留学にしては短いこの期間を最後までやり遂げられるかという不安もあった。

また、短期とはいえ、留学までにさまざまな準備があったり、その上、周囲の人には留学に行ってくると言ったものだから、弱音を吐いて引き返すわけにもいかないと堂々巡りになっていたので、ひっそりと不安で全部を投げ出したくなる気持ちになっていた。

それでも留学先は、上海の中でも利便性の良い場所で、地下鉄とバスで行きたいところにどこへでも出かけることができた。

不安な気持ちを抱えたまま始まった留学初日、まずは憧れの外灘へ向かった。人民広場駅で降りて、夕暮れ時の南京歩行街をまっすぐ進み、ちょうど18時に歩行街を出ると、ライトアップが始まった。

目の前に広がっていたのは、数ヶ月前に自分が見たいと願った上海の夜景だった。

それがあの夜景を見ただけで全部吹き飛んだ。
夜の空にくっきりと輝く夜景を見ながら、この日のためにやってきたこと、中国に来てからできたことを一つ一つ数えて、心の中で自分を褒め、ひっそりと泣いた。

授業が始まると、国際色豊かな学生たちにも出会い、良い先生にも恵まれて楽しい日々を送ることができるようになった。
授業は午前中だけだったので、午後は限られた滞在時間を存分に過ごそうと毎日外に繰り出した。

上海の良いところは現代と過去が包括されているところだと思う。
超高層ビルや巨大ショッピングモールのすぐそこに普通の暮らしがあり、歴史を感じる建物や約100年前に生きた歴史の息遣いが聞こえてくる。

滞在中、毎日街歩きをしながらずっと思っていたことがある。

「今、目の前にある上海の街がいつか記憶になってしまうのが惜しい。」
「いつまでも上海の空気を吸っていたい。」

現に、今この記事を書いているときは帰国しているので、上海での出来事はまさしく「記憶」になってしまったのだが、永久機関に放り込まれても良いぐらいには離れがたい場所だった。

もちろん、滞在中ぎょっとすることもあった。
音もなくいきなり近づいてくる電動バイクの外卖のお兄さん、唐突に唾を路上に吐く中年男性、荒れ狂う食堂のスタッフ、降りる人を待たない地下鉄や人をかき分けてでも前に進みたがるマダム陣、、、。

最初は、びっくりしていたものの、その行動様式が次第に自分の中にもインストールされていった。帰国した後に、日本で失礼とされている行動をやらかさないか心配になるくらいにはね。

上海の良いところも悪いところも含めて全部好きで、すでに記憶となってしまった上海に帰りたくてたまらない。

上海が好きすぎて、帰国した今は、上海を舞台にした小説や映画やドラマを見漁っている。あの感覚を忘れたくない。

本当はいますぐにでも上海に定住したいところだが、これから自分には数年に渡ってやるべきことが待っている。そして、中国側の制度的にも、このままだと定住は厳しい。来る時のために、力を蓄える時期にしたい。

自分はまたいつか上海に帰ってくる。
そんな予感がした。




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